読書日記「中国・シルクロードの女性と生活」(岩崎雅美=編、東方出版)
駆け出し記者のころ。確か、本多勝一だったと思う。「ルポルタージュの方法」という本かなにかで「知らない土地にルポに出かける時は、その土地の歴史と地図をしっかり調べる」と書いてあったのを読んで「なるほど」と思った覚えがある。
今年の9月に、古い友人の久保さんにお願いしてシルクロードへの旅をご一緒させてもらうことになった際、出発まであまり時間がなかったが、できるだけシルクロードの歴史を書いたものや紀行文を読もうとしてみた。
だが、行くところが天山北路という新疆ウイグル自治区でも、一番北にあるためか、関連する資料が少ない。特に、そこに住むウイグル族の人々の生活などを事前に知る手立ては見つけられなかった。消化不良のまま、出発日が来た。
この旅は、久保さんご夫妻と同じ古いテニス仲間だった吉田さんご夫妻ともご一緒した。新疆ウイグル自治区の州都ウルムチの飛行場で便待ちをしていた際、吉田夫人(芦屋女子短期大学教授)から「こんなのがあるのですよ」と、手渡されたのが、この本。
手に取ってパラパラとめくって見て驚いた。
ウイグル族の生活を女性中心に記述した詳細なフイールドワークだった。具体的なルポを積み重ねた平易な文章だけでなく、その生活ぶりが分かる写真が多いのにも引かれた。
2004年の発刊だから、本屋で手には入らないだろう。「この本を買いたいのですが」と、興奮気味にお願いしたら「二冊持っていますから、それ差し上げます!」。
北西の都市、イリに向かう機中でむさぼり読んだ。
この本は、吉田夫人の母校、奈良女子大学出身の7人の学者が、4年をかけて新疆各地の民家を実際に訪問して、女性の生活ぶりを調べたもの。
家族構成や親子の同居実態、親族関係、子どものしつけ。それに、服装や髪型、化粧法など、女性だから調べられたと思う徹底したフイールドワークだ。
おもしろかったのは、眉毛の化粧。ウイグル族女性の化粧のなかで、特に眉毛は大切らしい。どの家庭でも庭先にオスマという植物を一年中栽培していて、その葉を手のひらでよく揉んで出てくる緑の汁で眉を描く。出来あがると、濃いグレーで、太くて濃い化粧が好まれる、という。
イリでツアーガイドをしてくれたウイグル族の女性、Cさんが、そっくりの眉をしていた。「オスマで描くの」と聞いたら、違うという。働く女性は、市販のものを使うのだろうか。
この本はもちろん、ウイグル族の民族料理にも詳しい。
日常食で、我々の食事にも出たナンは、羊肉のみじん切りやタマネギ、カボチャのペーストを入れたものなど、種類は非常に多いようだ。
日本では、なぜかシシカバブと呼ばれている羊肉の串焼き「カワプ」は、石炭で焼く途中で、唐辛子やジーレンと呼ぶ調味料をふりかけながら、こんがりと焼く、と書いてある。ジーレンの実には揮発油が含まれていて、特有の香りがする、という。「ああ、あの香りはそのせいなのか」。納得。
帰国してしばらくしたら,吉田夫人から、この本の続編「中国・シルクロード ウイグル女性の家族と生活」(編者、出版社:同)が送られてきた。編者の岩崎先生が寄贈していただける、という。
同じ先生方7人が、その後3年、計7年続けられた調査が書かれている。民族料理の記載がぐっと増え、民家の詳細な見取り図までが描かれているなど、さらにウイグル族女性の生活に入り込んだ様子が生き生きと書かれている。
岩崎先生のあとがきに、このような記載があった。
「ウイグル人は国を持たない民族であるために、一種心のよりどころとなる国を求める意識が働き中国政府と衝突する」
この文章のおかげで、別の本に出会うことになる。
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