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2009年12月 9日

読書日記「丘のてっぺんの庭 花暦」(文=鶴田 静 写真=エドワード・レビンソン、淡交社刊)

丘のてっぺんの庭 花暦
鶴田 静 エドワード レビンソン
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 この春図書館にいったん予約したが、読みたい本が殺到して15冊の予約ラインを越えそうになってやむなく解約。再度予約したのを芦屋図書館打出分室のボランティア当番だった先週の土曜日に借りることができた。おかげでホッとするような楽しい週末を楽しめた。

 エッセイストである著者が、アメリカ人の写真家である夫と20年前に千葉県房総半島の丘の上に一軒家を建て、6段に分かれた元の棚田を庭に変身させていく。
 家を建てる話しは、すでに「二人で建てた家」(文春文庫PLUS)という本なっており「植物はその美しさと役割によって、人が生きるための源泉だと信じています。これからの世界で減らさずに増やすべきものと考えています。その願いを込めて」この本は書かれた。

 本の写真をそのまま引用するわけにはいかないが、幸い著者のHPの関連ページに「Solo Hill Garden」という名のすばらしい「花暦」が掲載されている。

   その花園には、私のような花の素人にも馴染みのある草木があふれている。我が家の狭い花壇とベランダで四季に咲くものだけでも、アジサイ、カンナ、ギボウシ、キンモクセイ、クリスマスローズ、コスモス、サザンカ、ジンチョウゲ、スイセン、スミレ、タチアオイ、チューリップ、バラ、ヒマワリ、ブルーベリー、ユリ・・・。なんだか、うれしくなる。

 「ソロー・ヒル・ガーデン」は、森のなかでの2年間の一人暮らしを記録した著書「森の生活(ウオールデン)」を書いた自然派の元祖、ヘンリー・D・ソローの名から、採っている。私も、森の生活にあこがれた若いころに夢中になった本である。

 著者が庭作りの構想を練るなかで、一つの原理を教えてくれたのは、著者が1970年代から私淑したイギリスの作家・工芸家のウイリアム・モリスだった、という。著者は、モリスの染織工芸に魅せられて2年間、イギリスに滞在、後にモリスの植物と庭に関する本「ウイリアム・モリスの庭」(ジル・ハミルトン他著、東洋書林)を翻訳までしている。

 このモリスの教えを取り入れ、著者は自分の庭を構想していく。
  • 植物は自生種を主体にし、・・・古くからある帰化植物も植える。自生種はこの地にもともと植わっていたマテバシイ、ウツギ、ネムノキ、ノイバラ、クワ、ウメ、カキ、クリ、ミカンなどで、残された切り株から育てる。
  • 昔ながら馴染みのある植物、生家に植わっていた植物を植える。コスモス、ボケ・・・。和名で呼ばれる植物。白粉花(おしろいばな)、秋明菊、木蓮・・・。外国名でもダリア、カンナ、チューリップなど昔からある植物は植えたい。
  • 宿根草を植えて、毎年、種や球根から自然繁殖に任せる。土手や野原から野の草花を少し移植して・・・。


 この本から漂ってくる何とも言えない懐かしさは、こんなコンセプトから生まれていたのだ。

 米国の有名な絵本作家、ターシャ・テューダの庭からは、インターネットでタチアオイのピンクの種を取り寄せた。
 昨年亡くなったが、日本でも根強い人気のある造園家でもある。先日、芦屋駅前の小さな書店をのぞいたら、ターシャ・テューダ関連の本やDVDが20冊以上、並んでいた。
 作家や芸術家にまつわる花を栽培する。・・・花や木を媒体にして、古今東西の人々と、時空を超えて交流できるとはすばらしい。


 この本を借りた午後、知人に約束した本を自転車で届けた帰りに、ガーデン・ショップでいくつかの苗を買った。
 すでに白い花をつけたノースポールを自宅北側の西日しかささない狭い花壇に、つるなしスナップエンドウ、オーライ・ホウレンソウ、セロリーを家に囲まれ日の光に恵まれない西側テラスのプランターに植えた。

 時々夢見た自然派スローライフは、Too late、Too poorになったなあと思いつつ。

 
(追記): 図書館のボランティアはおもしろい。時に、思いもよらない本との出会いがあるからだ。

先日、カウンターの向かいにある「推薦本」コーナーで見つけたのが「日陰でよかった! ポール・スミザーのシェードガーデン」(ポール・スミザー日乃詩歩子著、宝島社)という本。ガーデンデザイナーのポールスミザーが、日本各地で日陰の庭をつくってきた10数年の成果を公開しているが「植物にとって、本当に必要なのは日差しだけではない」という出だしは、私を含めて日本人の多くが持っている太陽信仰を打ち砕いてくれる。

 先日の土曜日。ボランティアの当番が始まった直後に戻ってきた本を見てアッと思った。
「アルプスの村のクリスマス」(舟田詠子 文・写真、株式会社リブロポート刊)
 この夏、ウイーンでお世話になったパンの文化史研究者、舟田詠子さんが1989年に著された写真がいっぱい入った児童書である。オーストラリア・アルプスの山おくにあるマリア・ルカウという村でのクリスマスを中心とした生活が詩情豊かに綴られている。
 舟井さんの著書はいただいたり、買ったりしてほとんど読んでいたが、この本だけはいつかは見たいと思っていた幻の書だった。
 今はまだキリスト生誕の準備をする待降節中だが、読んでみてクリスマスが一挙に飛んできたような魅惑の一瞬を味わえた。

二人で建てた家
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5 今泉訳で、初めて「ソロー」に出会えた
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2008年4月 3日

「森と人間 生態系の森、民話の森」田嶋謙三・神田リエ著、朝日選書

 以前から森が好きだった。

 よく山に出かけた若いころは、急峻な岩山が続く北アルプスや北八ヶ岳より、トウヒ(唐檜)の森が続く南八ヶ岳を好んで歩いた。

 白神山地のブナの森に分け入ってブトにやられ、北岳を目指す土砂降りのなか、長時間大木に抱きついて遊んだりして腰痛で動けなくなったこともある。ニュージランド南島の太古の森に入り、森に住むペンギンの不思議な生態にふれたことも忘れられない。

 畑を借りて野菜つくりをしていたころ、近くの里山は焚き火用の小枝をいっぱいくれる森だった。

 ヘンリー・D・ソローの「森の生活」(JICC出版局)、ジョン・パーリン著「森と文明」(晶文社)・・・。本棚には、ほとんど読んでいないのに、森に関する本がやたらと並んでいる。

 しかし、それ以上に自分の生活ののなかに“森”が入りこむことは、残念ながらなかった。「森と人間」の著者が言っているように、単に「イメージとしての森」が好きだっただけかもしれない。

 著者2人の恩師である北村昌美・山形大学名誉教授は「東洋の森・西洋の森」のなかで、森が好きということでは、ヨーロッパ人も日本人も変らない。しかし、日本人は頭の中で考えているのに対し、ヨーロッパ人は実際に森のなかを歩いて実感している、と書いているという。

 共著者の一人・田嶋謙三は「都会の人が年に1、2回森に出かけ・・・山小屋に泊まったことで・・・人と森の共存が成り立つわけではないだろう」と厳しく指摘する。

 なぜ、日本とヨーロッパ人との間で、森とのかかわりが、こんなに違ってしまったのだろうか。

 国木田独歩の小説「武蔵野」にある雑木林に逆風が吹きはじめたのは、第二次世界大戦後であるという。都市の近郊にあったために、住宅、工業団地の候補地に真っ先になってしまった。そのうえ、農家の燃料が薪や木炭から灯油に代わったため、あっという間に雑木林は消えてしまった。

 ところが著書によると、1年間に森で伐られる数量のうち薪や木炭に使う数量は、フランス、スペイン、イタリアなど地中海沿岸の国々では20%を越えている。日本の1%弱と雲泥の差だ。

 森が住居の近くにあるため、森の世話をする対価として、ヨーロッパの人々は暖炉用の薪を手にすることが出きる。年中、冷暖房完備の住居に住むことを選んだ(選択の余地なく?)日本人は、代わりになにを失ったのだろうか。

 しかし、ヨーロッパ人が常に森を大切に守ってきたわけではない。先にふれたジョン・パーリン著「森と文明」の帯封には「人間はいかに森を破壊してきたか」とある。

 長い歴史の末に、森への取り組みを変えてきた国民性の差を思う。

 海と農漁民を橋渡しする“魚つき林”が、まだ日本にも脈々と守られているという記述には、ホットさせられる。

 森の周辺の海域は森から流れてくる栄養塩に富み、水中微生物の増殖を促すだけでなく、水温に大きな変動がない。森が豊かになるほど、海の幸も豊かになる。

 以前に読んだ本を思い出した。気仙沼の牡蠣養殖業者・畠山重篤が書いた「森は海の恋人」(北斗出版、1994年刊))。畠山は、海の環境を守るには海に注ぐ川、そして上流の森を大切にしなければならないと気付く。そして、1989年から湾に注ぐ川の上流の山に漁民による広葉樹の森づくりを始める。

 その成果は、同じ著者の「牡蠣礼讃」(文春新書、2006年刊)にも詳しい。海の恋人が産んだ収穫によだれが出る思いがする。

 最後に著書「森と人間」は「地球環境を守るために森の木を切ってはいけない」という日本人の常識になっている誤謬に警告している。

 森が若々しい木の集まりであれば、大量の二酸化炭素を吸って有機物を作る。ところが、年を経ると老体を維持するために二酸化炭素を吐き出す量が増える・・・


 森は、伐らないで温存だけを考えていると、二酸化炭素を吐き出す。つまり、地球環境を悪くしている人間と同じになるのである。

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5 森林との関わりを考えていく上で・・・


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3 紀行文としても十分成立している
4 牡蠣から拡がる世界