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2009年3月12日

読書日記「旅する力 深夜特急ノート」(沢木耕太郎著、新潮社)


旅する力―深夜特急ノート
沢木 耕太郎
新潮社
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5 終着駅への片道切符
5 裏深夜特急
4 彼を旅に向かわせたもの
2 これが最終便?
5 深夜特急の完結


 先日、昔勤めていた新聞社でお世話になった大先輩にバッタリお会いし、この本を薦められた。今でもある大手テレビ会社の会長をしておられる現役の経営者だが、時々お会いするたびに、話の途中でふとささやかれる。
  「中丸美繪の『杉村春子』(文芸春秋)、もう読んだかい」「井波律子の『酒池肉林』(講談社現代新書)、おもしろいよ」・・・。

 「旅する力」には、2つのテーマがある。1つは、ルポルタージュの方法。そして、旅のあり方についてである。

 昔、現役の記者だった頃、ニュージャーナリズムの旗手とうたわれた沢木耕太郎の著書をむさぼり読み、時には連載企画でその〝物まね〟を何度か試みたこともある。

 評論家の青地晨は、沢木の著書「人の砂漠」(新潮社)の書評のなかで、22歳の沢木のことを絶賛しながら、こう書いている、という。
 ルポルタージュは、頭の冴えやキラキラした才能だけではやれない。取材相手の心をひらかせる何かを持っていなければならない。もう一つの資質は、行動力である。・・・思いついたらすぐに飛び出し、自分の体でたしかめる行動力が要求される


 沢木は、ルポルタージュを書くためには「三種の神器」が必要、と書く。ひとつは金銭出納帳のようなノート。もうひとつはその反対のページに記されている心覚えの単語や断章。さらに、友人に出した膨大な数のエアログラム(航空書簡)。
 ノートによってどんなものを食べたり飲んだりしていたのか、それがいくらくらいだったかわかるだけでなく、その一行、一行が日々の行動をはっきり思い出させる

 どんなにささやかな旅であっても、その人が訪れた土地やそこに住む人との関わりをどのように受け止めたか、反応したかがこまやかに書かれているものは面白い。たぶん、紀行文も、生き生きとしたリアクションこそが必要なのだろう

 旅についての記述も、このような思考軸で貫かれている。

 インドのデリーからロンドンまで乗り合いバスでいく「深夜特急」の旅を著者が始めたのは、20代の前半。
 あの当時の私には、未経験という財産つきの若さがあった・・・。未経験、経験していないということは、新しいことに遭遇して興奮し、感動できるということ・・・

 かって、私は旅をすることは何かを得ると同時に何かを失うことでもあると言ったことがある。しかし、歳を取ってからの旅は、大事なものを失わないかわりに決定的なものを得ることもないように思えるのだ

 幸いなことに、私には・・・旅をしていく上での適正、あえて言えば『力』があったような気がする。ひとつは(なんでも現地のものを食べられる)『食べる力』。・・・(どんな酒をどれほど飲んでもあまり酔わない)『呑む力』・・・それ以上に大きかったのは、私が人と関わることを面倒がらないというところだったかもしれない。・・・それとまた、私は、旅先でよく人に訊ねるらしい


 「食べる」「呑む」力以上に「聞く」「訊く」力が大切と、著者は言う。それがあるのなら〝歳を取ってから〟の旅も、そう無駄ではないかもしれない。

 終章で、著者は繰り返すように書く。
 目的地に着くことよりも、そこに吹いている風を、流れている水を、降りそそいでいる光を、そして行き交う人をどう感受できたかということのほうがはるかに大切なのです


 すばらしい話が「あとがき」に載っている。

 著書「一号線を北上せよ」(講談社)のサイン会を名古屋でした時のこと。
 若い歯科医がサインを求めてきた。
「すると、あまり長い旅行はできませんね」
「そうなんです。・・・だからいまようやくローマに辿り着いたところなんです。・・・ローマに来るのに七年かかりました」。
この歯科医は、「深夜特急」のルートを、休みのたびに少しずつ歩いていたのだ。
「あと二、三年でロンドンに着きたいと思っているんです」

 「深夜特急(1)~(6)」(新潮文庫)というルポルタージュに揺り動かされて、自分の人生を変えるかもしれない旅に10年がかりで挑戦し続けている人がいる。すごい話しである。

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4 素敵な「鼠」だ。
4 濃密なルポタージュ

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5 旅は自由なものであると教えてくれる旅行記
4 深夜特急は終わっても、心の旅に終わりは無い。