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2010年4月17日

読書日記「インパラの朝 ユーラシア・アフリカ大陸684日」(中村安希著、集英社刊)



インパラの朝 ユーラシア・アフリカ大陸684日
中村 安希
集英社
売り上げランキング: 2125
おすすめ度の平均: 3.5
4 自分の立ち位置を確かめ、価値観を再検証し直す、正しい旅日記。
2 キャリアパス
4 久しぶりに読んだ旅行記
2 貴重な体験とキャラクターとのギャップが、、
4 日本から遠く離れて


 なにも古希近くなって若者のバックパッカー旅行記でもあるまい、とも思ったが・・・。淡々と書かれた不思議に魅力のある文章と、その土地、土地で出会った人に真正面から向かっていく姿勢に引き込まれ、アッという間に読んでしまった。

 26歳の女性がふと思い立って冷蔵庫を売り払ってアパートを引き払い、23キロのリュックをかついで2年間にわたって47カ国を訪ねた記録。旅行中に発信していたブログ「安希のレポート -現地の生活に密着した旅- 」を本にしたのだが、ブログと本では文章スタイルがまったく違うのがおもしろい。本のほうは、昨年の開高健ノンフィクション賞を獲得している。

 表題は、ケニアのサバンナで出会った一頭のインパラから採っている。
 黄金の草地に足を着き、透き通る大気に首を立て、・・・濡れた美しい目は、周囲のすべてを吸収し、同時に遠い世界を見据え、遥か彼方を見渡していた。


 こんな姿が、旅する著者の思いと重なっているように思える。

 同じケニアでトラックに乗せてもらった時のこと。
 手のひらのマメがいくつか潰れ、パイプで擦れたお尻の皮がついに破れて血が出始めた。黒い雲が張り出してきて雨粒が激しく頬を打ち、・・・パイプの上の人々は、車体の揺れを黙って受け止め、それぞれの時を生きていた。


 途上国の人びとの役に立ちたいと思って来たのに、逆に現地の人に助けられたことがなんどもあった。子どもたちはいつもキラキラと輝いていた。
 国際貢献をしたという実績を残したくて、インドのマザーズハウス(マザー・テレサの家)でボランティアをしたいと思ったが「人手は十分足りていますが、寄付金は有り難く受け取ります」とシスターに冷たく拒否される。
 途上国援助の厳しい現実や極め付けに見える都市の貧困に困惑し、イスラエルやイスラム圏の実態が日本のメディアが伝えるものとはまったく違うことも体験する。

 西アフリカのトーゴからベナンに向かう国境の町では、バイクに乗せてもらった男や国境の役人にだまされ、28キロを歩くはめになった。
 しばらく森を進むと・・・幼児を抱いた地元の女性がどこからともなく現れて、私と抜きつ抜かれつしながら一緒に歩き始めた。・・・彼女は私に微笑んだ。私も微笑んだ。・・・さらに森を歩くと、ポリタンクを持った男性が、後ろから私に追いついてきた。・・・いつのまにか三人は、ペースや呼吸を調和させ、適度な距離や空間と無理のない連帯感を保つことに成功していた。


▽最近読んだその他の本

  • 「ロスト・トレイン」(中村 弦著、新潮社刊)
    ファンタジー小説に接したのは、いつ以来だろうか。
     鉄道フアンの男女2人が、まぼろしの廃線跡を苦労の末に見つける。崩れた廃墟の駅舎が突然、むくむくとよみがえり、とっくに消えたはずの汽車が汽笛を鳴らして、この世とあの世を行き来する。列車を動かしているのは、"森"の力だった。
     巻末の主要参考文献を見て、アッと思った。「写真集 草軽鉄道の詩」(思い出のアルバム草軽電鉄刊行会編、郷土出版社刊)。昨年「没後10年 辻邦生展」を見に軽井沢に行った時、草軽鉄道跡を見たことがある。U型にくぼんだ道路にかぶさるように木々が繁っていた。そうか、作家は、こういう風にイメージを膨らませていくのか!
     世間では「テツ」と呼ばれるらしい鉄道ファンには、たまらない本だろう。

  • 「神社霊場 ルーツをめぐる」(竹澤秀一著、光文社新書)
     芦屋市立図書館打出分室のボランティアをしていて、返ってきたこの本を見つけ、思わず借りてしまった。
     先日、行った熊野三山。平安人がなぜ熊野参りにこったのかがやっと分かった。この本を読んでから行ったら、旅の印象もずいぶん変わっただろう。
     この本にある沖縄の「世界遺産 斎場御嶽から久高島へ」も、ぜひ訪ねてみたい。
  • 「僕はパパを殺すことに決めた」(草薙厚子著、講談社刊)
     この本も、図書館ボランティア中に返本されてきたのを見つけた。
     「エッこの本、借りられるのか」とびっくりした。職員の方によると、発行元からは回収してほしいという要請が来たものの、図書館としては購読希望があれば応じざるをえず書庫に保管している、という。背表紙に、書庫にあるという印の「●」のシールが張ってあった。
     奈良県で起こった少年の父親殺しで、供述調書をそのまま掲載して著者が逮捕(不起訴)されて話題になった。供述調書をまる写しするのなら、ルポルタージュを書く意味も、取材を重ねる努力も必要がなかったのではないか?ルポライターの矜持を越えてしまった作品だと思う。

  • 「駅路/最後の自画像」(松本清張、向田邦子著、新潮社刊)
     松本清張の原作と向田邦子がテレビドラマ用に脚色した脚本を一緒に収納している。
     原作を換骨奪胎して、女の業を描き切った故・向田邦子の発想力に脱帽!