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2012年11月23日

読書日記「ヤッさん」(原 宏一著、双葉社刊)



ヤッさん (双葉文庫)
ヤッさん (双葉文庫)
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原 宏一
双葉社 (2012-10-11)
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 著者のことはまったく知らなかったが、新聞広告を見て図書館で借りた。

 IT企業を辞めて食い詰め、ホームレスになった若者「タカオ」が、築地市場や有名グルメ店にやたらと詳しい同じホームレスの「ヤッさん」に弟子入りし「驚愕のグルメ生活」を味わうという、なんとも人畜無害のエンターテーメント短編集。

 それだけの本なのだが、根っからの牡蠣、それも牡蠣フライ好きが、よだれをたらしそうになりながら何度も読み返した1節がある。

 それを記録しておきたい。ただ、それだけの理由でこのブログに登場させた。たぶん、これまでで最短量。スミマセン。

 
目の前の皿には揚げ立ての牡蠣フライが五粒、小高く盛りつけられていた。的矢湾産の極上物らしくぷっくりとした大粒の牡蠣で、黄金色のとげとげした衣をまとっている。
 その奥には金糸のごとく繊細に千切りされた生のキャベツがこんもりと添えられ、半球形に抜かれたポテトサラダとケチャップ色のスパゲティナポリタンが脇を固め、さらに緑鮮やかなパセリと櫛形にカットされたレモンがちょこんと飾られている。
 テーブルの上にはウスターソースと洋ガラシが用意されていたが、タカオはまずレモンだけで食べることにした。櫛形のレモンを大粒の牡蠣フライにキュツと搾りかけてから、フォークを突き刺してかぶりついた。
 とげとげの衣に前歯が当たった瞬間、からりと揚がったパン粉の香ばしさが鼻腔に広がった。そのまま噛み締めると、さくりと心地よく衣が砕け、ぷりつとした牡蠣の身に前歯が食い込むと同時に、濃厚な旨みを凝縮した牡蠣のジュースが口の中に満ちた。
 うん、と小さくうなずいた。薄めにつけられた衣はからりと揚がっているのに、牡蠣自体は見事に半生状態だったからだ。牡蠣の身の隅々まで熱が入っているのに、とろりとした生の食感と滋味深い海の香りはちゃんと残っている。