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2010年4月13日

読書日記「昭和史1926-1945」「昭和史 戦後篇 1945-1989」(半藤一利著、平凡社ライブラリー)

昭和史 1926-1945 (平凡社ライブラリー)
半藤 一利
平凡社
売り上げランキング: 13826
おすすめ度の平均: 4.0
4 上巻は昭和天皇と軍人さんたちの昭和史。文章は口語調で平易です。
5 教わらなかった、
3 知らないことは聞くしかない
5 くるしいけれど知らないままではいられない、それが昭和史
1 歴史をねつ造する語部


 月に1回、情報交換と称した飲み会をしている友人Mから勧められて一気読みしたものの、消化不良で何カ月もテーブルに積んだままになっていた。

 その間に、この本を巡って世の中がざわつきだしたようだ。2004年と2006年に単行本として刊行されたが、それが昨年夏に文庫本になった。それがきっかけで「昭和史を学べる」とマスコミで好意的に取り上げられる一方、かの西尾幹二が、雑誌[WiLL」最新号で2カ月にわたって「半藤一利『昭和史』徹底批判」を展開するにぎやかさだ。

 著者が、保守派の論客なのか、進歩(左翼)的文化人であるのかは知らない。ただ、勤めていた文藝春秋社を辞めた後、ある女子大で講師をした際、アンケートに答えた50人中12人が「日本と戦争をしなかった国はアメリカ」と"まじめ"に答えたのに愕然とした体験をした。そこへ編集者から「学校でほとんど習わなかったので昭和史のシも知らない私たち世代のために・・・」と頼まれて、同時代史という難しい課題に挑戦した熱意は、著書からほとばしり出ている。

 この本では、軍部の暴走をなんとか押しとどめようとしながら結局押し切られた昭和天皇の行動と責任、まったくの無責任体制で戦争を拡大していった軍部など指導層の体質は戦後日本の政治指導層にも継承されていること、そしてマスコミに扇動されて一般国民自体が鐘や太鼓で戦争拡大をはやしたてた実態を克明に語っている。

 昭和6年、満州事変が始まると、前日まで関東軍を批判していたマスコミは豹変する。
(朝日は)飛行機の参加は八機、航空回数百八十九回、自社製作映画の公開場所千五百、公開回数四千二十四回、観衆約1千万人、号外発行度数百三十一回、と大宣伝を重ねたんですね。
 すると毎日新聞が負けるものかと朝日以上の大宣伝をやりました。・・・『事変が起こったあと、社内の口の悪いのが自嘲的に"毎日新聞後援・関東軍主催・満州戦争などといっていましたよ』」

 国民をリードするには、新聞を使うことという石原莞爾参謀など関東軍の思惑通り動いたのだ。

 日米開戦を前にした昭和天皇の苦渋について、著者は「昭和天皇独自録」 を引用している。
私がもし開戦の決定に対して"ベトー(拒否)したとしよう。国内は必ず大内乱となり、私の信頼する周囲の者は殺され、私の生命も保証できない。それはよいとしても結局狂暴な戦争は展開され・・・」

 国民的熱狂という時の流れに、抵抗することができない雰囲気を天皇は感じていたと、著者は推測する。

 前篇(1926-1945)の最後で、著者は先が読めない日本人の弊害にふれながら、昭和史をこう結論づける。
それにしても何とアホな戦争をしたものか。

政治的指導者も軍事的指導者も、日本をリードしてきた人びとは、なんと根拠なき自己過信に陥っていたことか・・・。


 この本を読んだ後、本棚から米国の歴史学者ハーバード・ビックス・ニューヨーク州立大学教授が書いた「昭和天皇 上・下」(講談社)を引っ張り出した。
 昔いた新聞社の大先輩に勧められたのだが、昭和天皇の戦争責任を明確に打ち出し「歴史の爆弾」(英エコノミスト誌)と評判になった本。発刊直後の2001年にピュリツアー賞を受けている。

 これを読んだ時「なぜ日本人が、この本を書けなかったか」と思った。「天皇タブーは後退している」と、邦訳版を監修した吉田裕・一橋大教授は語っているそうだが・・・。

 ハーバード・ビックスは著書の序章で、こう弾劾する。
昭和天皇が統治した大アジア帝国の歳月は短かったが、その潜在力は巨大だった。彼はその膨張を主導し、(一九四五年以降政府が発表した公式の統計で)二〇〇〇万人近いアジア人、三一〇万の日本人、六万以上の連合軍の人命を奪った戦争に国を導いた。


 歴史学者というのは明確な実証がなくてもこんな断言的な表現ができるのか、といささか驚きである。著者がアメリカ人であることと関係があるのだろうか。日本人には、まだここまでは書けないかもしれない。

昭和天皇独白録 (文春文庫)
寺崎 英成 マリコ・テラサキ・ミラー
文芸春秋
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おすすめ度の平均: 4.0
4 史料として最高級に面白い
5 政治家・国家元首・大元帥、そして、ひとりの人間。天皇裕仁の苦悩と限界。
4 読み物としては面白いのでは。
3 どう受け止めるか。そして調べるか。
4 やや、気になる問題点

昭和天皇(上)
昭和天皇(上)
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ハーバート・ビックス
講談社
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おすすめ度の平均: 3.5
1 雲泥の差か
4 無私の存在としての天皇
2 日本人の覚悟が問われている
3 日本人の覚悟が問われている
5 必読の書。賛否はまず読んでから。