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2010年11月 9日

読書日記「三國志 第三巻」(宮城谷昌光著、文藝春秋刊)

三国志〈第3巻〉 (文春文庫)
宮城谷 昌光
文藝春秋
売り上げランキング: 50130


 この巻は、さきにこのブログで書いた安野光雅の「繪本 三国志」に描かれている迫力あふれた絵を見ながら、読み進んだ。

  ▽「荷進暗殺」 
 黄巾の乱は続く。そのなかで桓帝に次いで第12代皇帝となった霊帝は酒と女に溺れる「暗愚」な帝だった。それにつけこんで宦管が宮廷政治を牛耳るようになる。
 霊帝の突然の崩御後、宦管の一掃に立ちあがったのが、大将軍の荷進。しかし、ちょとした油断で兵を率いた宦管の張譲らに宮中で追いつめられる。

 宦管の張譲は言う。
 「天下を憒乱(かいらん)させたのは、われわれだけの罪ではない。・・・禁中は穢濁(わいだく)であると卿はいうが、・・・忠清である者がどこにいる」。


 荷進は、背中から斬られ絶命する。

  ▽宦管誅滅
 荷進が暗殺されたと知った警視総監、袁 紹(えんしょう)がすばやく行動を起こした。

 門を閉じよ。ひとりの宦管も逃してはならぬ」
 大虐殺がはじまったといってよい。
 すでに昏(くら)い。
 しかも興奮している・・・兵が宦管を冷静に見分けることができるはずがない。かれらは、逃げたというだけでその者を殺し、ひげがない、とみれば斬った。宦管ではないのに殺されそうになった者は、自分のものを露(あら)わして難をのがれた。
 ・・・けっきょく死者は二千余人となる。


 ▽皇帝更迭
 袁 紹に替わって、宮中の権力を握ったのは「いつか西方の王になる」と野望をむき出しにしていた将軍、董 卓(とうたく)だった。
 霊帝を継いでいた少帝と荷太后(荷進の妹)を追い出し、第14代献帝をたて、恐慌政治を行った。

 その貪婪(たんらん)な目は宮中の美女にむけられ、
 「あの女がいい」
  と、董 卓がいえば公主(皇女)でも連行されて、董 卓の極度に肥満した体躯の下に、一夜。玩弄(がんろう)された。


 ▽反董同盟
 董 卓の専横に群雄が蜂起、袁 紹をたてて討伐の連盟軍を結成した。しかし、袁 紹の動きは鈍い・・・。

 ついに曹操がたつ。
 「さあ、征(ゆ)こう」
 寒気のなかに曹操の声が凛と揚がった。この一声が、ここからはじまった長い戦いを勝ちぬくための宣言となった。もちろんこの挙兵は、
 ――董 卓を逐斥(ちくせき)する。
 という明確な主題をもってはいるが、機能を停止しているような王朝を復旧させるのが目的であり、まさかこの路が天下平定へつづくとは、・・・


 しかし、曹操は最初の戦いに敗れる。
 孫権の父・孫堅も、董 卓を追いつめるが、倒すことはできない。

 三国志の英雄たちは苦しみながら、大きくなっていく。

▽最近読んだ、その他の本

  • 「シェクスピア&カンパニー書店の優しき日々」(ジェレミー・マーサー著、市川恵里訳、河出書房新社刊)
     カナダの新聞社で、犯罪記者をしていた筆者が、一文無しでパリにやって来て「シェクスピア&カンパニー書店」という本屋に巡りあう。
     実在のこの書店は、貧しい作家や作家志望の若者に、仕事を手伝う代わりに寝る場所と食事を提供してくれる不思議なシェルターなのだ。
     著者は持ち主のジョージに言われる。
     本物の作家なら頼んだりしない、入ってきてベッドに寝るだけさ。きみ、きみはここに泊ってもいい。・・・」

     この書店では自伝を書くことが重要な伝統のひとつ。書店に残っている何万人もの自伝は、1960年代からの驚くべき社会的資料だった。
     ファイルボックスからあふれるほどの書類の中には、愛と死、近親姦と薬物中毒、夢と失望の物語が語られ・・・

     シェクスピア・アンド・カンパニーでジョージと暮らしたことで僕は変わり、これまでの人生と自分が望む人生について考えるようになった。あしあたり、僕はすわって、キーボードを打ち、よりよい人間になろうと努めている。人生はまだ進行中である。

     この書店は、ジョージの娘が引き継ぎ、今でもパリ・ビユシュリ通りで営業を続けている、という。
    シェイクスピア&カンパニー書店の優しき日々
    ジェレミー・マーサー
    河出書房新社
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  • 「読まずに小説書けますか 作家になるための必読ガイド」(岡野宏文豊崎由美著、メディアファクトリー刊)
     小説家になる気などまったくないのだが、2人の"著名"な書評家の対談集と某紙の書評欄で知って図書館に購入を依頼、1カ月もたたないうちに借りることができた。
     「ファンタジー小説を書きたかったら」など分野に分けて、小説を書く技法と心得を語っていく。
     2人の毒舌が冴えている。
     浅田さん(浅田次郎)の直木賞受賞作「鉄道員(ぽっぽや)」・・・は、「どんな小説が欲しいの?泣けるやつ?あーはいはい」なんて調子で、ひょいひょい心なく書いちゃってる・・・。・・・で、直木賞の選考委員はそういう小手先でちょいちょいと書いた短編集に、コロリとだまされて授賞して、その前に候補になった、書くのに大変手間がかかる大作「蒼穹の昴」を落としたんだから、バッカなんじゃないかとーー。(豊崎)

     桜庭一樹との「ていだん」がおもしろい。
     「書くための読書」って考えたとき、たとえば川上弘美さんが好きという女の子がいて、作家になろうと思って一生懸命、川上さんの本を読んで真似してしまうかもしれない。でも、それってものすごく危ない、・・・好きな作家の作品を読むのではなく、その人のルーツを読まないと。(桜庭)

    読まずに小説書けますか 作家になるための必読ガイド (ダ・ヴィンチブックス)
    岡野宏文、豊崎由美
    メディアファクトリー
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  • 「孤舟」(渡辺淳一著、集英社刊)
     この著者の新作で定年退職男の悲哀となると、とりあえずは読んでおこうかと、図書館にやはり購入依頼、第1号で借りた。予想したように、期待外れと言うか、期待とおりと言うか・・。
     大手広告会社の役員を退いた男が、定年になれば「あれもしよう、これもしたい。妻と旅行もいいな」と思い描く。
     しかし、現実は朝起きると「今日は、なにをしようか」と考えても思い浮かばない日々。妻には相手にされず、うるさい父親に嫌気を出して娘は家を出ていき、妻もまた・・・。ホステスクラブで知りあった若い女性とデートし、家に連れてきて料理までしてもらう。
    ただこの小説には、著者特有のエロスシーンはない。某紙のインタビュー記事によると「高齢者・権力者の性愛は、雑誌に連載中の『天上紅蓮(てんじょうぐれん)』で存分に描いている」ためらしい。
    私自身の現状を省みて、反省する面はないではないのだが、あまりにワンパターン・・・。
    古希を直前にして周辺をみても、ひまをもてあましている人間は、本当に見当たらない。この作品の人物は、予想はできても、もう過去のパターンではないのか。
    某紙の書評に「苦いお茶のような読後感」とあったが「古いお茶・・」と読み違えた。
    孤舟
    孤舟
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    渡辺 淳一
    集英社
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2010年6月29日

読書日記「高峰秀子の流儀」(斎藤明美著、新潮社刊)



高峰秀子の流儀
高峰秀子の流儀
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斎藤 明美
新潮社
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おすすめ度の平均: 4.5
5 大女優の流儀とは -質実剛健とも言える力強さ-
5 すがすがしい
4 客観的な視野はない、けれど・・・・


 フリーの雑誌記者である著者は、55歳で引退して以来世間との交際を見事に絶っている高峰秀子松山善三夫妻の自宅に自由に出入りできる、おそらく唯一の人。

 著者が見聞きしたエピソードを積み重ねたこの本は、元・大女優の"流儀"、生きざまを見事に浮かび上がらせてくれる。
 動じないーーー。恐らくこの言葉ほど、高峰秀子を象徴する言葉はないだろう。


 その性格は「デブ」と呼ばれる養母の前で「いつも鎧をつけていた」なかで培われたものらしい。
 養母との葛藤は、高峰秀子自身の著書「わたしの渡世日記 上」(文春文庫) 「同 下」(同) にも詳しい。
わたしの渡世日記〈上〉 (文春文庫)
高峰 秀子
文藝春秋
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おすすめ度の平均: 5.0
5 希有な女優
5 デコさんはこの上下巻から読みました。(‾o‾)
5 銀幕とは裏腹に
5 20代の私でも。
5 おもしろかった
わたしの渡世日記〈下〉 (文春文庫)
高峰 秀子
文藝春秋
売り上げランキング: 8423
おすすめ度の平均: 5.0
5 さっぱりした読み応えです。
5 文章の巧みさと面白さ
5 読み終わって気持ちが暖かくなりました。
5 ポツダム宣言から。



 4歳で映画界入りして以来、高峰秀子の両肩には、義母とその親族10数人を養うという重荷がのしかかる。義母はあからさまな男性遍歴を続ける。
 昭和26年、大邸宅を義母の名義に換えて、逃げるようにパリに向かう。半年後、帰国すると自宅は旅館に替わっていた。1週間後、女中に「1泊3千円」の請求書を突きつけられた。知人に前借りをして「1泊2千7百円」の帝国ホテルに移った。その他の雑費も重なり1本100万円の出演料は、入ったとたんに消えていった。

 義母の死、そして月給1万2千5百円の助監督、松山善三との結婚で「一切"振り返らない"」生活が、やっと始まる。
 「かあちゃん(高峰秀子)は子供の時から働いて働いて・・・。だから神様が可哀相だと思って、とうちゃん(松山善三)みたいな人に会わせてくれたんだね」
 流しでサラダ菜を洗いながらそう言った高峰さんの笑顔が、幸せの意味を私に教えてくれた。


 大邸宅をつぶし、2人のための小さな家に建て直す。家財道具の大半も処分した。
 松山家でお昼に煮素麺をごちそうになった時。松山氏と私に、大きな朱の椀に入れたのを運んでくれて・・・いつまでも高峰さんの分を運んでくれる気配がない。・・・しばらくして松山氏が「はい」と、食べ終えた椀を高峰さんに押し出した。すると高峰さんは台所に戻り、その椀に自分の分を入れてきた。つまり、大きな朱の椀が二つしかないのだ。いや、二つだけにしたのだ。


 
 ―――人を尊敬する理由は?
 「やっぱり、人として潔いことね」


 
 ―――一切昔話をしないのは、なぜですか?
 「そんなもの、してどうなるの」


 ホテルの喫茶店でのインタビューを終えたあと。
 高峰さんが小さく言った。「見てご覧なさい。みんな女よ」。・・・客は中高年の女性ばかりだった。・・・「家に帰って、本でも読め」、ポツリとそう言うと、高峰さんは出口に向かった。


 昭和40年、故・市川昆監督の映画「東京オリンピック」に非難の嵐が巻き起こった時。高峰秀子は、たった一人援護射撃の論陣を張る。
 市川昆は高峰に言う。
 <あんたの場合は、いつも一本通っているもの。何をしてもあんたの個性をなくさないもの。そういうものはいつもきちんと出ているよ>


 この春、高峰秀子は、八十五歳になる。


▽最近読んだ、その他の本

  • 「ナニカアル」(桐野夏生著、新潮社刊)
    ナニカアル
    ナニカアル
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    桐野 夏生
    新潮社
    売り上げランキング: 44113
    おすすめ度の平均: 4.5
    4 純粋に小説として楽しんだ
    5 林芙美子に憑依する桐野夏生の妖しい魅力
    5 頭で読み、本能で感じ、肉体に味あわせる力作
    4 絶賛したいところですが

     「ナニカアル」。なんだか、意味深長な表題の出所と思われる箇所が、冒頭のプロローグのなかに出てくる。
     林芙美子のめいが、芙美子の死後、その夫と再婚。その夫も死去したのを機会に芙美子の遺品を整理していて、芙美子が残した1節の詩を見つける。
        
    刈草の黄色なるまた
    紅の畠野の花々
    疲労と成熟と
    なにかある・・・

     浅学非才の身には、まったく意味不明だが、著者は「あれほどすごい小説を残した芙美子が、文壇で評判が悪すぎるのはなぜなのか」と考えたのが、執筆のきっかけだったと語っている。
     史実を忠実に調べ、想像力を駆使したこの作品は、表題の魅力に見事に答えている。  芙美子の作品を読みたくなる。本棚から「放浪記」 と「浮雲」を引っ張りだした。
  • 放浪記 (新潮文庫)
    放浪記 (新潮文庫)
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    林 芙美子
    新潮社
    売り上げランキング: 18020
    おすすめ度の平均: 4.5
    5 やられた
    4 からっと明るいダダイズム
    5 放浪の中にある人生
    4 ある女性の生き様
    3 極めて私的な視点から
    浮雲 (新潮文庫)
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    林 芙美子
    新潮社
    売り上げランキング: 37120
    おすすめ度の平均: 4.5
    4 男女の恋愛感の違い
    5 恋愛小説の傑作
    5 消えた光


  • 「頭の中身が漏れ出る日々」(北大路公子著、毎日新聞社刊)
    頭の中身が漏れ出る日々
    北大路 公子
    毎日新聞社
    売り上げランキング: 79309
    おすすめ度の平均: 5.0
    5 この文章構成能力は天才!
    5 最高の女性、北大路公子。
     「いたたまれない三十秒」という1項。午前8時のコンビニでビールを12本買う。周りの冷たい目・・・。レジで鞄から財布を出そうとして、注射器が飛び出した。糖尿病を患う飼い犬用だが・・・。石像のように固まりながら並び続ける。
     著者は、北海道在住の40代、独身。両親と同居。趣味、昼酒。
     あほらしくて、おもしろくて・・・。


  • 「旅の絵本Ⅵ デンマーク編<アンデルセンの世界>」(安野光雅、福音館書店発行)
    旅の絵本〈6〉
    旅の絵本〈6〉
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    安野 光雅
    福音館書店
    売り上げランキング: 223442
    おすすめ度の平均: 5.0
    5 アンデルセン童話集もいっしょに!
    5 今度の旅はデンマーク。

     デンマークの街を訪ねて描いたメルヘンの世界に、アンデルセンの作品がいっぱいちりばめてある。
     表紙と裏表紙には、馬に乗って走りながら小さなリングを槍で突き通す競技の絵。写真で見たことはあるが、実際の競技はどんな雰囲気なのだろう。
     作者の旅の追っかけをしたくなる。