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2013年1月30日

読書日記「原発をつくらせない人びとーー祝島から未来へ」(山秋真著、岩波新書)


原発をつくらせない人びと――祝島から未来へ (岩波新書)
山秋 真
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  著者は、能登半島・珠洲の原発建設反対運動を長く取材してきた女性ジャーナリスト。

  祝島のことは、この ブログでもふれたことがあるが、著者は対岸の半島に計画された 上関原子力発電所建設に反対する、島のおばちゃんたちのすさまじい闘争の歴史を綴っている。

 「1982年から30年間、毎週月曜日のデモ(島の中を30分歩く)は1150回を数えた」「寝間着を着て寝ることもなく、夜中の"警報発令"に備え、島の女性は夏も冬もズボンをはくようになった」

 「スイシン(原発推進派)の議員が夜の便で帰ってきたのを、おばちゃんたちが船着場に集まって、あがらせんかったこともあった。・・・機動隊がきても、それをあがらせんかった」

 海の埋め立て工事が始まった2010年からは女性(多くは80歳を過ぎた!)女性を中心に数名づつ、祝島から 田ノ浦へ毎日交替で通い始めた。浜にブルーシートを敷いて寝転んでいるだけ。「どんな言葉より雄弁な意思表示だ」

 原発計画が浮上して間もないころ、祝島の漁港前の看板に、こんな歌詞が書かれた。

       
上関原発音頭
(四)
 オシャカ様さえ言い残す
 金より命が大事だ
 人間ほろびて町が在り
 魚が死んで海が在り
 それでも原発欲しいなら
 東京 京都 大阪と
 オエライさんの住む町に
 原発ドンドン建てりやよい
 ここは孫子に残す
 原発いらないヨヨイのヨ
 反対反対ヨヨイのヨイ


 中部電力は、田ノ浦の浜を封鎖しようと、警備員を使ってスクラムを組み、人間の壁を作った。
 スクラムのなかで身体をはる人に食べ物を届けたくても、聞いてもらえない。仕方なく、食べ物を上から投げ込んだ。それでも「食べる暇ないし、食べたい気もしなくて、気づいたら三日ぐらいで三キロ痩せていた」

 中電は、田ノ浦湾に海上から出入りさせないために入り江の入り口にオイルフェンスを張ろうとした。カヤックに乗った応援のひとたちがフェンスの端をつかみ、陸へと引っぱりつづけた。それを女性たちが岩のうえへと引き上げた。
 中電側は工事施工区域で妨害するなと大音量マイクでくりかえしたが、祝島の船からは「ここは公有水面じゃろうが」という声が飛んだ。「海を汚さないように、ずっとお願いしているんですよ」。祝島の漁師たちは、反対を始めた最初からの"規範"を忘れず繰り返した。

 2011年3月11日の不幸な事故の4日後、中電は工事の「一時中断」を発表した。

 「漁に出る回数が多くなりました。・・・工事中断後、 カンムリウミスズメという絶滅危惧種にあう機会も多くなりました」

 しかし、漁業補償金をめぐるゆさぶりは続き、島の過疎化は進み、賛成と反対派住民との"亀裂"も消えない・・・。

 ▽参考にした本
 ※「原発のコストーーエネルギー転換の視点」( 大島堅一著、岩波新書)
 著者は、立命館大国際関係学部教授。これまで政府などが、どのエネルギー資源よりやすいとPRしてきた原子力発電について、国民や被災者が負担する社会的コストを綿密に計算し発電コストの実績値は火力や水力より高いとはじき出した。「脱原発を実施しても電力供給は大丈夫」と明確に示している。第12回 大佛次郎論壇賞受賞が決まった。

※「震災後のことば 8・15からのまなざし」( 宮川 匡司=ただし編、日本経済新聞出版社刊)
 1945年8月15日を体験した識者へのインタビュー集。

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