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2015年7月 8日

読書日記「牡蠣とトランク」(畠山重篤著、ワック株式会社刊)


牡蠣とトランク
牡蠣とトランク
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畠山重篤
ワック
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著者は、東北・気仙沼の著名な牡蠣養殖漁業家で NPO法人「森は海の恋人」理事長。 このブログでも何度か紹介させてもらっている。

「牡蠣大好き人間」としては、読まずにはいられない。新聞広告を見て申し込んだ翌日にAMAZONから届き、その日の晩に一挙に読んだ。

本は、気仙沼湾にそそぐ大川上流の室根山で昨年行われた「森は海の恋人植樹祭」での 2人の男同士の会話で始まる。
 1人は著者、もう1人はフランスの高級バッグメーカー、 ルイ・ヴィトン社の5代目当主、パトリック・ルイ・ヴイトン氏。

「この木が大きくなると、いいトランクになりますよ」
 「私はいい牡蠣を想像しましたよ」
 「やっぱり」
 二人は顔を見合わせ大きな声で笑った。

トランク(旅行用の大型鞄)は、ルイ・ヴィトン社の創業商品。もともと婦人服用の白木の箱を作る職人であった創業者が独立して作り始めたのが木製の軽いトランクだった。「トランクも牡蠣も、原点は森にある」というわけだ。

50年以上も前、生牡蠣文化の発祥の地であるフランスで、牡蠣が全滅しかけたことがあった。稚貝のウイルス性の病気が発生したのだ。

それを救ったのが、宮城県の養殖業者だった。ミヤギ種のマガキの稚貝を空輸、ローヌ川が注ぐラングドック大河ロワールが注ぐブルターニュなどで養殖された。現在では、フランス産の牡蠣のほとんどはマガキだという。

 

1984年、40歳の著者は、仙台市の「かき研究所」に勉強に来ていたフランスの女性研究者の案内で、ブルターニュの牡蠣産地を訪ねた。

 
干潟に点在するタイドプール (潮だまり) に目をやると、おびただしい数の生きものがうごめいていた。ヤドカリ、カニ、タツノオトシゴ、イソギンチャク、ハゼやカレイの小魚など、子供の頃、我が家の前の干潟で遊び相手であった面々である。思わず涙がこみあげてくるような懐しさを感じた。自分の子供たちにも経験させようと浜に連れ出したとき、三陸の海辺からこうした生きものたちは姿を消していたのだ。
 「ここは、川が健全なのだ」と反射的に閃いた。
 

川沿いのレストランでは、シラスウナギ(ウナギの稚魚)や ジビエ(食用の野生の鳥獣)料理が名物だった。川の上流には、深い森が続いている、という。

小さいとき父に連れられ、キジ、ヤマドリ、ウサギなどの猟に行った。野鳥やウサギなどがいるのは決まって実のなる落葉広葉樹の森であった。その後、国策で森が常緑針葉樹の杉山に変わると、なんにもいなくなつたからである。
 ・・・フランス人はジビュ料理を食べたいがために落葉広葉樹の森を保護してい るのではないか。そこは腐葉土層も深い。大雨が降ってもスポンジ状の腐葉土に浸み込み地下水を滴養する。結果として、川は清流となり川魚も増える。河口域の海では牡蠣、オマールエビ、ヒラメ等の海産物も豊富に捕れるのだ。
 沿岸の海で暮らす漁民は、海のことだけ考えていては駄目なのではないか。
 

その頃、気仙沼の海に「問題が生じていた」。海が汚れて赤潮が発生、牡蠣の生長が悪くなってきていたのだ。

 

大川沿いに歩いてみると、農薬を使う水田には生きものの姿はなく、輸入材に押されて売れなくなった杉山は放置され、乾燥した土が雨に流されて川や海が濁っている。

 

「大川源流の室根の山に落葉広葉樹の森をつくろう」。漁民たちが語らい、室根村の賛同を得た。1989年9月、室根の山頂に大漁旗が翻った。植林運動「森は海の恋人」運動はこうして始まった。子供たちを対象にした体験学習も続けた。室根の村は、農業を環境保全型に切り替えた。

 

「海に青さが戻ってきた。牡蠣の生長は順調になり、秋にはサケの大群が大川に帰ってくるようになり、メバルやウナギも姿を見せるようになった」

 

そんな矢先、2011年3月11日、巨大津波が襲ってきた。

 高台にあった著者の自宅はかろうじて残ったが、牡蠣の養殖施設や工場、船のすべてが津波にのまれた。老人ホームに入所していた母親も助からなかった。

 

海辺から生きものの姿が消えたことも心配だった。「海が死んだのではないか」と疑った。

「森里連環学」を提唱している、京都大学の 森克名誉教授のチームが調査にやって来た。

 

「畠山さん、大丈夫です。牡蠣の餌となる植物プランクトンのキートセロスが、牡蠣が喰いきれないほどいます」
 「今回の津波を冷静に判断すると、被害が大きいのは干潟を埋めた埋立地です。川や背景の森林はほとんど被害がありません。海が撹拝されて養分が海底から浮上してきたところに、森の養分は川を通して安定的に供給されています。海の生き物は戻ってきます。・・・」

 

海の瓦礫が片づき養殖いかだを浮かべれば、家業が続けられると確信した。

 

フランスから支援の申し出が次々にあった。50年前、フランスの牡蠣が絶滅しかかった時、宮城県産の種苗が救ったことへの恩返しだという。

 

ルイ・ヴィトン社から、森と海の恋人運動に支援の申し出のメールが突然、届いた。

 

建物や物品の購入だけでなく、いかだを浮かべる漁場づくりに働く人たちの給料も、ルイ・ヴィトン社は支援の対象にしてくれた。

 

2012年の正月過ぎ、養殖場の跡取りである長男の哲が「牡蠣の筏が沈みそうになっている」と言った。通常は2年かけて生長する牡蠣がわずか半年で出荷できるまでに育ったのだ。「喰いきれないほど餌のプランクトンがいる」おかげだった。



2010年1月10日

読書日記「森里海連環学への道」(田中 克著、旬報社刊)、「日本<汽水>紀行 森は海の恋人を尋ねて」(畠山重篤著、文藝春秋刊)


森里海連環学への道
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田中 克
旬報社
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日本<汽水>紀行―「森は海の恋人」の世界を尋ねて
畠山 重篤
文藝春秋
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4 文明の発達により失うもの
4 皆読むべき久々の本


 「森里海連環学への道」は、私のブログにリンクさせてもらっている友人、岡田清治さんのブログ「人生道場、独人房」に紹介されていた。

 なにかと新しい名前の学部や学問分野が生まれる昨今。「森里海連環学」というのも、おかしな名前だなあと当初思った。だが、ふとこれは以前に著書で知った牡蠣養殖業、畠山重篤氏の「森は海の恋人」運動と関係があるのではと、気がついた。

田中 克・京都大学名誉教授は、海洋資源生物学が専門で、長年ヒラメやカレイの稚魚の汽水域での研究を続けるなかで、森と海のつながりの大切さに注目、2003年に理学部と農学部の研究を融合、森と海の科学を統合する「フイールド科学教育研究センター」を立ち上げてセンター長に就任、新しい学問領域として「森里海連環学」を提唱してきた。

 この本は、田中名誉教授が「森里海連環学」という領域に至った道程を綴るとともに、この新しい学問分野に先行して様々な運動をしてきた人たちとの交友録ともなっている。

 著者が、新しい学問領域が必要と思ったきっかけになったのは、各地の先行する運動を紹介した「森と海とマチを結ぶ」(矢間秀次郎編著、北斗出版刊)という本だった。

 その中には、北海道の森林の荒廃がニシン資源の壊滅をもたらしたこと、・・・『百年かかって壊した森を百年かかって再生し、ニシンを復活させよう』」を合言葉に、漁民による森づくりが進められて話が掲載されていた。さらに、宮城県気仙沼にそそぐ大川上流の室根山に、カキやホタテガイ養殖の復活を願った漁師さんによる森づくり「森は海の恋人」運動に、私はたいへん興味を抱いた。この本のタイトルにあるように「マチ」の存在が森や海の再生に不可欠であることに思い至った。さらにこうした運動はすでに十五年近く経過していたにもかかわらず、それを支える学問が存在しないことに気づかされたのである。


 田中名誉教授と畠山さんの出会いは、なかなかドラマチックだ。
 2003年4月にフイールド研が発足、11月に開所記念シンポジウムを開催することになったが、基調演説に予定して予定していた海外の海洋学者が来日できなくなり、急きょ畠山さんに白羽の矢が立った。

 出迎えられた畠山さんは京都からわざわざ三名の教授が訪ねたことに恐縮されて、『何事ですか』と驚かれたようすであった。
 ともあれ、こちらへと案内されたのは事務所の奥の部屋であった。三面の壁にはびっしりと本が並んでいた。その中からこれが最近のですよと三人に謹呈していただいたのは『日本<汽水>紀行』であった。日本各地の河口域をめぐって、森と川と海のつながり、そしてそこに住みつづける人びとの森や海への思いをつづったものである。2003年度の日本エッセイスト・クラブ賞を受賞した名著である。


 本棚から畠山さんの著書「森は海の恋人」(北斗出版刊、1994年)、「牡蠣礼讃」(文春文庫、2006年)を引っ張り出した。

 「森は海の恋人」は、海の栄養分には、山の土に含まれる鉄分が欠かせないことが分かり、計画されていたダム建設を断念させたり、「牡蠣の森を慕う会」を発足させて漁師たちが山に大漁旗を翻らせて木を植えたりする感動のエピソードがしるされている。

 「牡蠣礼讃」は、牡蠣を愛してやまない著者が、宮城種牡蠣の養殖にうんちくを傾け、世界の牡蠣を食べつくす「口福のエッセイ」。牡蠣と細く切ったうどんでつくる「オイスター・スープ」、牡蠣とトマト味のジュースにスパイス、ウオッカを注ぎ込んで一気に飲む「オイスターショット」のレシピが、牡蠣大好き人間にはたまらない。

 「日本<汽水>紀行」は、図書館ですぐに借りることができた。

 アジアモンスーンの降雨量の多い緯度に位置し、背骨のような山脈の森から日本海側と太平洋側に血管のように川が注ぎ、沖積平野で稲穂が波うつこの国を瑞穂の国とたたえて呼ぶ。だがそれは日本列島を包んでいる汽水域を含めての呼び名のような気がする。


 (面積がほぼ等しい)東京湾と鹿児島湾のどちらの海が漁獲量が多いかご存じだろうか。ほとんどの人は水がきれいな鹿児島湾と答えるだろう。正解は逆である。この汚れに汚れたと思っている東京湾が、今でも鹿児島湾の約三十倍の漁獲があるのだ。秘密は川の存在だ。東京湾には一定以上の流量の川が十六本流入している。この水量は、二年で巨大な東京湾を満杯にする量だという。


 現在、田中名誉教授は畠山さんが代表をしているNPO法人森は海の恋人の理事を務め、京大フイールド研は畠山氏を「社会連携教授」(非常勤)として招へいしている。

 「森里海連環学」は、社会との連携なしには成立しない学問だからである。

森は海の恋人 (文春文庫)
畠山 重篤
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5 山に大漁旗

牡蠣礼讃 (文春新書)
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畠山 重篤
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5 日本の牡蠣が世界を救った
3 紀行文としても十分成立している
4 牡蠣から拡がる世界


2008年4月 3日

「森と人間 生態系の森、民話の森」田嶋謙三・神田リエ著、朝日選書

 以前から森が好きだった。

 よく山に出かけた若いころは、急峻な岩山が続く北アルプスや北八ヶ岳より、トウヒ(唐檜)の森が続く南八ヶ岳を好んで歩いた。

 白神山地のブナの森に分け入ってブトにやられ、北岳を目指す土砂降りのなか、長時間大木に抱きついて遊んだりして腰痛で動けなくなったこともある。ニュージランド南島の太古の森に入り、森に住むペンギンの不思議な生態にふれたことも忘れられない。

 畑を借りて野菜つくりをしていたころ、近くの里山は焚き火用の小枝をいっぱいくれる森だった。

 ヘンリー・D・ソローの「森の生活」(JICC出版局)、ジョン・パーリン著「森と文明」(晶文社)・・・。本棚には、ほとんど読んでいないのに、森に関する本がやたらと並んでいる。

 しかし、それ以上に自分の生活ののなかに“森”が入りこむことは、残念ながらなかった。「森と人間」の著者が言っているように、単に「イメージとしての森」が好きだっただけかもしれない。

 著者2人の恩師である北村昌美・山形大学名誉教授は「東洋の森・西洋の森」のなかで、森が好きということでは、ヨーロッパ人も日本人も変らない。しかし、日本人は頭の中で考えているのに対し、ヨーロッパ人は実際に森のなかを歩いて実感している、と書いているという。

 共著者の一人・田嶋謙三は「都会の人が年に1、2回森に出かけ・・・山小屋に泊まったことで・・・人と森の共存が成り立つわけではないだろう」と厳しく指摘する。

 なぜ、日本とヨーロッパ人との間で、森とのかかわりが、こんなに違ってしまったのだろうか。

 国木田独歩の小説「武蔵野」にある雑木林に逆風が吹きはじめたのは、第二次世界大戦後であるという。都市の近郊にあったために、住宅、工業団地の候補地に真っ先になってしまった。そのうえ、農家の燃料が薪や木炭から灯油に代わったため、あっという間に雑木林は消えてしまった。

 ところが著書によると、1年間に森で伐られる数量のうち薪や木炭に使う数量は、フランス、スペイン、イタリアなど地中海沿岸の国々では20%を越えている。日本の1%弱と雲泥の差だ。

 森が住居の近くにあるため、森の世話をする対価として、ヨーロッパの人々は暖炉用の薪を手にすることが出きる。年中、冷暖房完備の住居に住むことを選んだ(選択の余地なく?)日本人は、代わりになにを失ったのだろうか。

 しかし、ヨーロッパ人が常に森を大切に守ってきたわけではない。先にふれたジョン・パーリン著「森と文明」の帯封には「人間はいかに森を破壊してきたか」とある。

 長い歴史の末に、森への取り組みを変えてきた国民性の差を思う。

 海と農漁民を橋渡しする“魚つき林”が、まだ日本にも脈々と守られているという記述には、ホットさせられる。

 森の周辺の海域は森から流れてくる栄養塩に富み、水中微生物の増殖を促すだけでなく、水温に大きな変動がない。森が豊かになるほど、海の幸も豊かになる。

 以前に読んだ本を思い出した。気仙沼の牡蠣養殖業者・畠山重篤が書いた「森は海の恋人」(北斗出版、1994年刊))。畠山は、海の環境を守るには海に注ぐ川、そして上流の森を大切にしなければならないと気付く。そして、1989年から湾に注ぐ川の上流の山に漁民による広葉樹の森づくりを始める。

 その成果は、同じ著者の「牡蠣礼讃」(文春新書、2006年刊)にも詳しい。海の恋人が産んだ収穫によだれが出る思いがする。

 最後に著書「森と人間」は「地球環境を守るために森の木を切ってはいけない」という日本人の常識になっている誤謬に警告している。

 森が若々しい木の集まりであれば、大量の二酸化炭素を吸って有機物を作る。ところが、年を経ると老体を維持するために二酸化炭素を吐き出す量が増える・・・


 森は、伐らないで温存だけを考えていると、二酸化炭素を吐き出す。つまり、地球環境を悪くしている人間と同じになるのである。

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5 森との共生をどう再生するか。


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3 タイトルとおりの内容、気持ちのいい読書はできるが。
5 避けては通れない。
4 自分を見つめろ
4 裏読みすれば起業家の指南本



森と文明
森と文明
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5 森林との関わりを考えていく上で・・・


森は海の恋人 (文春文庫)
畠山 重篤
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5 山に大漁旗


牡蠣礼讃 (文春新書)
牡蠣礼讃 (文春新書)
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畠山 重篤
文藝春秋
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3 紀行文としても十分成立している
4 牡蠣から拡がる世界