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2010年6月29日

読書日記「高峰秀子の流儀」(斎藤明美著、新潮社刊)



高峰秀子の流儀
高峰秀子の流儀
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斎藤 明美
新潮社
売り上げランキング: 5366
おすすめ度の平均: 4.5
5 大女優の流儀とは -質実剛健とも言える力強さ-
5 すがすがしい
4 客観的な視野はない、けれど・・・・


 フリーの雑誌記者である著者は、55歳で引退して以来世間との交際を見事に絶っている高峰秀子松山善三夫妻の自宅に自由に出入りできる、おそらく唯一の人。

 著者が見聞きしたエピソードを積み重ねたこの本は、元・大女優の"流儀"、生きざまを見事に浮かび上がらせてくれる。
 動じないーーー。恐らくこの言葉ほど、高峰秀子を象徴する言葉はないだろう。


 その性格は「デブ」と呼ばれる養母の前で「いつも鎧をつけていた」なかで培われたものらしい。
 養母との葛藤は、高峰秀子自身の著書「わたしの渡世日記 上」(文春文庫) 「同 下」(同) にも詳しい。
わたしの渡世日記〈上〉 (文春文庫)
高峰 秀子
文藝春秋
売り上げランキング: 8402
おすすめ度の平均: 5.0
5 希有な女優
5 デコさんはこの上下巻から読みました。(‾o‾)
5 銀幕とは裏腹に
5 20代の私でも。
5 おもしろかった
わたしの渡世日記〈下〉 (文春文庫)
高峰 秀子
文藝春秋
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おすすめ度の平均: 5.0
5 さっぱりした読み応えです。
5 文章の巧みさと面白さ
5 読み終わって気持ちが暖かくなりました。
5 ポツダム宣言から。



 4歳で映画界入りして以来、高峰秀子の両肩には、義母とその親族10数人を養うという重荷がのしかかる。義母はあからさまな男性遍歴を続ける。
 昭和26年、大邸宅を義母の名義に換えて、逃げるようにパリに向かう。半年後、帰国すると自宅は旅館に替わっていた。1週間後、女中に「1泊3千円」の請求書を突きつけられた。知人に前借りをして「1泊2千7百円」の帝国ホテルに移った。その他の雑費も重なり1本100万円の出演料は、入ったとたんに消えていった。

 義母の死、そして月給1万2千5百円の助監督、松山善三との結婚で「一切"振り返らない"」生活が、やっと始まる。
 「かあちゃん(高峰秀子)は子供の時から働いて働いて・・・。だから神様が可哀相だと思って、とうちゃん(松山善三)みたいな人に会わせてくれたんだね」
 流しでサラダ菜を洗いながらそう言った高峰さんの笑顔が、幸せの意味を私に教えてくれた。


 大邸宅をつぶし、2人のための小さな家に建て直す。家財道具の大半も処分した。
 松山家でお昼に煮素麺をごちそうになった時。松山氏と私に、大きな朱の椀に入れたのを運んでくれて・・・いつまでも高峰さんの分を運んでくれる気配がない。・・・しばらくして松山氏が「はい」と、食べ終えた椀を高峰さんに押し出した。すると高峰さんは台所に戻り、その椀に自分の分を入れてきた。つまり、大きな朱の椀が二つしかないのだ。いや、二つだけにしたのだ。


 
 ―――人を尊敬する理由は?
 「やっぱり、人として潔いことね」


 
 ―――一切昔話をしないのは、なぜですか?
 「そんなもの、してどうなるの」


 ホテルの喫茶店でのインタビューを終えたあと。
 高峰さんが小さく言った。「見てご覧なさい。みんな女よ」。・・・客は中高年の女性ばかりだった。・・・「家に帰って、本でも読め」、ポツリとそう言うと、高峰さんは出口に向かった。


 昭和40年、故・市川昆監督の映画「東京オリンピック」に非難の嵐が巻き起こった時。高峰秀子は、たった一人援護射撃の論陣を張る。
 市川昆は高峰に言う。
 <あんたの場合は、いつも一本通っているもの。何をしてもあんたの個性をなくさないもの。そういうものはいつもきちんと出ているよ>


 この春、高峰秀子は、八十五歳になる。


▽最近読んだ、その他の本

  • 「ナニカアル」(桐野夏生著、新潮社刊)
    ナニカアル
    ナニカアル
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    桐野 夏生
    新潮社
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    おすすめ度の平均: 4.5
    4 純粋に小説として楽しんだ
    5 林芙美子に憑依する桐野夏生の妖しい魅力
    5 頭で読み、本能で感じ、肉体に味あわせる力作
    4 絶賛したいところですが

     「ナニカアル」。なんだか、意味深長な表題の出所と思われる箇所が、冒頭のプロローグのなかに出てくる。
     林芙美子のめいが、芙美子の死後、その夫と再婚。その夫も死去したのを機会に芙美子の遺品を整理していて、芙美子が残した1節の詩を見つける。
        
    刈草の黄色なるまた
    紅の畠野の花々
    疲労と成熟と
    なにかある・・・

     浅学非才の身には、まったく意味不明だが、著者は「あれほどすごい小説を残した芙美子が、文壇で評判が悪すぎるのはなぜなのか」と考えたのが、執筆のきっかけだったと語っている。
     史実を忠実に調べ、想像力を駆使したこの作品は、表題の魅力に見事に答えている。  芙美子の作品を読みたくなる。本棚から「放浪記」 と「浮雲」を引っ張りだした。
  • 放浪記 (新潮文庫)
    放浪記 (新潮文庫)
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    林 芙美子
    新潮社
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    おすすめ度の平均: 4.5
    5 やられた
    4 からっと明るいダダイズム
    5 放浪の中にある人生
    4 ある女性の生き様
    3 極めて私的な視点から
    浮雲 (新潮文庫)
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    林 芙美子
    新潮社
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    おすすめ度の平均: 4.5
    4 男女の恋愛感の違い
    5 恋愛小説の傑作
    5 消えた光


  • 「頭の中身が漏れ出る日々」(北大路公子著、毎日新聞社刊)
    頭の中身が漏れ出る日々
    北大路 公子
    毎日新聞社
    売り上げランキング: 79309
    おすすめ度の平均: 5.0
    5 この文章構成能力は天才!
    5 最高の女性、北大路公子。
     「いたたまれない三十秒」という1項。午前8時のコンビニでビールを12本買う。周りの冷たい目・・・。レジで鞄から財布を出そうとして、注射器が飛び出した。糖尿病を患う飼い犬用だが・・・。石像のように固まりながら並び続ける。
     著者は、北海道在住の40代、独身。両親と同居。趣味、昼酒。
     あほらしくて、おもしろくて・・・。


  • 「旅の絵本Ⅵ デンマーク編<アンデルセンの世界>」(安野光雅、福音館書店発行)
    旅の絵本〈6〉
    旅の絵本〈6〉
    posted with amazlet at 10.06.29
    安野 光雅
    福音館書店
    売り上げランキング: 223442
    おすすめ度の平均: 5.0
    5 アンデルセン童話集もいっしょに!
    5 今度の旅はデンマーク。

     デンマークの街を訪ねて描いたメルヘンの世界に、アンデルセンの作品がいっぱいちりばめてある。
     表紙と裏表紙には、馬に乗って走りながら小さなリングを槍で突き通す競技の絵。写真で見たことはあるが、実際の競技はどんな雰囲気なのだろう。
     作者の旅の追っかけをしたくなる。