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2008年2月21日

読書日記「黄砂 その謎を追う」(岩坂泰信著、紀伊國屋書店刊)

 黄砂に持っていた、これまでのあまりよくない常識を覆させられる、ちょっとショッキングな本である。

 「バカにならない読書術」(養老孟司、池田清彦、吉岡忍・共著、朝日新書)で、吉岡、養老両氏が推薦しているのを見つけたのが、この本に出会ったきっかけ。

 名古屋大学環境学研究科教授の著者は、82年の南極観測隊に参加しながら、黄砂研究の先鞭をつけた成果で、世界的な評価を得ている、という。

 まず「黄砂は『空飛ぶ化学工場』」という記述に驚かされる。

 飛行機に乗って上空の黄砂を直接採取して、電子顕微鏡で調べたところ、黄砂が大気中を浮遊している間に、汚染物質(おそらく二酸化硫黄=SO2)と化学反応を起こして、粒子の表面に付着するらしい、という結果が得られたという。

 人間活動によって排出された二酸化硫黄は、大気中でミスト化して漂っている。それが黄砂に付着すれば、太陽放射を反射、地球温暖化の抑制に役立つ効果を生むかもしれないらしい。

 また、黄砂の通り道に当たる地域で雨の酸性の程度が予想以上に低く「黄砂が酸性雨を緩和する」可能性もあることも分かった。

 酸性雨の原因となる硫黄酸化物や窒素酸化物を取り除いているのか、それとも雨に黄砂が取り込まれたときに黄砂粒子から溶け出したカルシュムなどの金属が中和反応を引き起こしているのか、学者の間で熱い議論が続いている、という。

 「太平洋上に飛んできた黄砂が海に落ち、プランクトンのえさになっている」という推測にも驚かされる。

 大気中に浮遊している窒素酸化物(NOx)は、生き物に欠かせない。それを付着させた黄砂の粒が海に落下したのをプランクトンが食べ、排泄物と一緒に海中に放出する。海底には、黄砂が堆積しているのが発見されているようだ。

 2003年に中国が開いた砂塵嵐をテーマにした会議で、アメリカの研究者が砂塵嵐の風景と握り寿司の写真を並べ「黄砂はプランクトンの餌になり、それを大型の魚が食べている。私たちは、その魚を食べている」と主張し、大きな拍手を受けた。

 「あとがき」には、こうある。

 黄砂がとうとうと流れるところは、言い換えるなら擬似的な大地でもある。小さな生き物にとって、黄砂の粒子一つ一つが広い地面であるかもしれない。「黄砂にくっついた小さな生き物が偏西風に乗って、どこかに着地することはありそうに思われる。」


 飛行機や気球で黄砂を捕らえ、中国・敦煌でフールド調査をするなど、徹底した実地研究の苦労話もおもしろい。

 ただ書き出しには、こんな表現がある。「黄砂という言葉は、日本列島に住む私たちにとって、春一番とともに訪れる春の到来を告げるというのどかなイメージがある」

 科学者らしい楽観主義と言えなくはないが、春になると目がチカチカしたり、車や洗濯物をほこりだらけにしたりする厄介者を、とても「春の風物詩」と呼ぶ気持ちにはならない。

 昨年6月19日付けの読売新聞には「アレルギー疾患が、黄砂によって悪化する」という奈良県大和高田市民病院のアレルギー専門医の話が載っていた。

 「国境を越える黄砂の影響は、中国などの経済発展と密接に関連し"黄砂テロリズム"と呼ぶ向きもある」「韓国では、黄砂から病原菌なども検出された」というウイキぺディアの記述も読むと、著者の見解に、いささかの違和感を持ってしまう。

 参考文献:「ここまでわかった『黄砂の正体―ミクロのダストから地球が見える』」(五月書房)。著者の三上正男氏は、気象庁気象研究所環境・応用気象研究部研究室長。

 

黄砂―その謎を追う
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4 偏向しないための読書はありえないのかな
4 新たな本にきっと出合える。
4 面白い!でも題名は・・・
5 子どもは裸足で育てよ
2 意思の疎通