読書日記「久世塾」(塾長・久世光彦、平凡社刊)
シナリオを書く気なんて、毛頭なかったが、昨年の初めだったか。この本を本屋で見つけて、ちゅうちょなく買ってしまった。最近も、横積みされているのを見たから、再版されたか、どこかの書評で紹介されたのだろう。
「久世塾」は2000年7月、「21世紀の向田邦子を作ろう」というキャッチフレーズのもとに開講されたシナリオライター養成講座。この本は、一流講師陣による特別講義録であり、2006年3月に急死した久世光彦の追悼集でもある。
久世光彦の朝礼から始まり、計7時限の講師の講義や久世光彦との対談で構成されているが、いたるところに苦しみながら脚本を生み出してきたシナリオライターらの"光る言葉"がちりばめられている。
大石 静(NHK朝の連続テレビ小説「ふたりっ子」「オードリー」などの脚本家)
「人生にはある日ぶわっと波が来るときがある。私はそこにうまく乗れたんだと思う。そうなると、沈んでいるときのこともすべて材料になる。人には必ず波が来るので、あきらめないということが大きかったように思いますが、波が来たときに乗れるだけの実力を蓄えてほしいですね」
内館牧子(NHK連続テレビ小説「ひらり」、大河ドラマ「毛利元就」など)
「どん底であればあるほどていねいに生きていくことが、難しいけど大切」
「何でもおもしろく思ったり、こういうことがあるよねということがわかれば・・・自分の深さ・厚さになっていくのではないか」
「いろいろな生き方があって、いろいろな風が吹いていて、本当に嫌なことも世の中にいっぱいあるよということが自分の中に蓄積されていくことが、一番遠まわりに見えながら一番の強みではないだろうか」 「週刊誌の、週一回エッセイを書いていますが、身辺雑記というものは、ていねいに生きていかないとネタがないのです」
糸井重里(コピーライター、人気WEBサイト「ほぼ日刊イトイ新聞」主宰)
「本当に満足している人は、表現なんかしないのですよ。耕して、産んで、育てて、死ぬんです」
久世光彦
(大石 静に受講者が「脚本家としての挑戦と抱負を話してください」と質問したことに対し)「あなたが今使った『挑戦と抱負』というのはすごく難しくてすてきな言葉に見えるけれども・・・あなたの気持ちがこもっていない。もっと人にばかにされていいような、たどたどしい素朴な気持ちの言葉のほうが、何を聞きたいかということがわかると思う」
演出家である久世光彦の書いた本を最初に買ったのは「触れもせで 向田邦子との二十年」(講談社刊)だったと思う。
そのなかに、こんな一節がある。
「向田さんの方は、学生のころ読んだものをもう一度、この年齢、いまの気持ちで読みたいと言った。・・・漱石と鴎外・・・プルースト、それからヘミングウエー・・・」。
「久世塾」で、現在の自分の生きざまを、この本で最近の読書傾向が恥ずかしくなり、同時に"言葉"というものが持つ力のすごさに、改めて気付かされた思いだ。
触れもせで―向田邦子との二十年 (講談社文庫)posted with amazlet at 08.06.16久世 光彦
講談社
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清々しい読後感。