読書日記「権力と新聞の大問題」(望月衣塑子、マーティン・ファクラー著、集英社新書)
望月衣塑子は、東京新聞社会部記者。政治部記者の牙城である内閣官房・管 義偉官房長官定例会見に出て、既存政治部記者から異端視されながら矢継ぎ早に質問してネットでも話題になっている。
マーティン・ファクラーは、ニューヨーク・タイムズ前東京支局長で、日本のマスコミへの厳しい批判で知られるジャーナリスト。
この本は、その2人の対談で構成されているが、マスコミと権力の問題だけでなく、安倍内閣の密かな狙いを批判するなどホットな話題に満ちている。
知らなかったが、望月記者によると、経済産業省は2017年2月から「執務室全部に施錠を始めた」という。「これは明らかな記者の締め出しであり、取材拒否の姿勢に見える」。これまで取材対応をすることが多かった課長補佐が対応しなくなったらしい。
古い話しだが、私が経済記者だった頃は、通産省(現・経済産業省)や大蔵省(同・財務省)執務室への出入りはもちろん自由だったし、課長や課長補佐の横に座り込んで、無駄話をしながら、取材をしたものだ。
そんな、当たり前だったことが、もうできなくなっている。
「安倍政権がやろうとすることに対してゴチャゴチャ言うヤツは邪魔だ。余計なことは言わず書かない、すべて忖度して都合のいい報道をしてくれる記者だけを受け入れようとするわけです」
門外漢にはよく分からないことだが、望月記者によると、安倍政権は2013年に特定秘密保護法、2015年に安保法制、2017年にテロ等準備罪(共謀法)を成立させ、昨年は巡航ミサイル導入の報道が相次ぐなど「いつでもアメリカと一緒に戦争ができる」体制を整えつつある。
2013年に発足した国家安全保障会議(日本版NSC)は、マスコミも実態がつかめないブラッックボックスだという。
同記者は最近、埼玉県入間市で、自衛隊基地に防衛省所管の病院を作る計画を聞いたという。「ミサイル導入や日米軍事協力を想定して、負傷者の受け入れ体制を想定」しているらしい。
ファクラー氏は「他国にミサイル攻撃を仕掛ける装備を持つということは、日本にとって戦後最大の方向転換だということを海外の政権やメディアは注意深く見ている。それなのに、日本国内でそういう議論が行われていないのは非常に危険な状態だと思う」と警告する。
望月記者は言う。「憲法九条の論議が始まる前に専守防衛を超えて敵基地攻撃を持つ装備(巡航ミサイルやイージス・アショア)を一気に持とうとしている。憲法九条の議論の前に現実論として装備してしまえと。民主主義の手続きをすっ飛ばして『そっちを先にやってしまえ』みたいな空気もあり、すごく怖いなあと思っています」
その法制や装備が現実に使われるのは、我々が死んで孫たちの時代になってからかもしれない。いや、もっと近い話しかもしれない。本当に「すごく怖い」ことである。
最後に「記者が身の危険を感じたり、国家権力から監視されたりすることがあるのか」という質問に、ファクラー氏はこう答えている。
「アメリカではビックデータによる監視が可能だから、取材先との秘密裏の情報交換などに、外部の人には解析不可能な暗号を用いた通信方法、例えば "Signal" といったSNSを使う」
NHKの人気番組ではないが、日本の国民、記者諸侯に、こう呼びかけることにしよう。
「ボヤーと生きてんじゃないよ!」