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2010年1月10日

読書日記「森里海連環学への道」(田中 克著、旬報社刊)、「日本<汽水>紀行 森は海の恋人を尋ねて」(畠山重篤著、文藝春秋刊)


森里海連環学への道
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田中 克
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日本<汽水>紀行―「森は海の恋人」の世界を尋ねて
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4 文明の発達により失うもの
4 皆読むべき久々の本


 「森里海連環学への道」は、私のブログにリンクさせてもらっている友人、岡田清治さんのブログ「人生道場、独人房」に紹介されていた。

 なにかと新しい名前の学部や学問分野が生まれる昨今。「森里海連環学」というのも、おかしな名前だなあと当初思った。だが、ふとこれは以前に著書で知った牡蠣養殖業、畠山重篤氏の「森は海の恋人」運動と関係があるのではと、気がついた。

田中 克・京都大学名誉教授は、海洋資源生物学が専門で、長年ヒラメやカレイの稚魚の汽水域での研究を続けるなかで、森と海のつながりの大切さに注目、2003年に理学部と農学部の研究を融合、森と海の科学を統合する「フイールド科学教育研究センター」を立ち上げてセンター長に就任、新しい学問領域として「森里海連環学」を提唱してきた。

 この本は、田中名誉教授が「森里海連環学」という領域に至った道程を綴るとともに、この新しい学問分野に先行して様々な運動をしてきた人たちとの交友録ともなっている。

 著者が、新しい学問領域が必要と思ったきっかけになったのは、各地の先行する運動を紹介した「森と海とマチを結ぶ」(矢間秀次郎編著、北斗出版刊)という本だった。

 その中には、北海道の森林の荒廃がニシン資源の壊滅をもたらしたこと、・・・『百年かかって壊した森を百年かかって再生し、ニシンを復活させよう』」を合言葉に、漁民による森づくりが進められて話が掲載されていた。さらに、宮城県気仙沼にそそぐ大川上流の室根山に、カキやホタテガイ養殖の復活を願った漁師さんによる森づくり「森は海の恋人」運動に、私はたいへん興味を抱いた。この本のタイトルにあるように「マチ」の存在が森や海の再生に不可欠であることに思い至った。さらにこうした運動はすでに十五年近く経過していたにもかかわらず、それを支える学問が存在しないことに気づかされたのである。


 田中名誉教授と畠山さんの出会いは、なかなかドラマチックだ。
 2003年4月にフイールド研が発足、11月に開所記念シンポジウムを開催することになったが、基調演説に予定して予定していた海外の海洋学者が来日できなくなり、急きょ畠山さんに白羽の矢が立った。

 出迎えられた畠山さんは京都からわざわざ三名の教授が訪ねたことに恐縮されて、『何事ですか』と驚かれたようすであった。
 ともあれ、こちらへと案内されたのは事務所の奥の部屋であった。三面の壁にはびっしりと本が並んでいた。その中からこれが最近のですよと三人に謹呈していただいたのは『日本<汽水>紀行』であった。日本各地の河口域をめぐって、森と川と海のつながり、そしてそこに住みつづける人びとの森や海への思いをつづったものである。2003年度の日本エッセイスト・クラブ賞を受賞した名著である。


 本棚から畠山さんの著書「森は海の恋人」(北斗出版刊、1994年)、「牡蠣礼讃」(文春文庫、2006年)を引っ張り出した。

 「森は海の恋人」は、海の栄養分には、山の土に含まれる鉄分が欠かせないことが分かり、計画されていたダム建設を断念させたり、「牡蠣の森を慕う会」を発足させて漁師たちが山に大漁旗を翻らせて木を植えたりする感動のエピソードがしるされている。

 「牡蠣礼讃」は、牡蠣を愛してやまない著者が、宮城種牡蠣の養殖にうんちくを傾け、世界の牡蠣を食べつくす「口福のエッセイ」。牡蠣と細く切ったうどんでつくる「オイスター・スープ」、牡蠣とトマト味のジュースにスパイス、ウオッカを注ぎ込んで一気に飲む「オイスターショット」のレシピが、牡蠣大好き人間にはたまらない。

 「日本<汽水>紀行」は、図書館ですぐに借りることができた。

 アジアモンスーンの降雨量の多い緯度に位置し、背骨のような山脈の森から日本海側と太平洋側に血管のように川が注ぎ、沖積平野で稲穂が波うつこの国を瑞穂の国とたたえて呼ぶ。だがそれは日本列島を包んでいる汽水域を含めての呼び名のような気がする。


 (面積がほぼ等しい)東京湾と鹿児島湾のどちらの海が漁獲量が多いかご存じだろうか。ほとんどの人は水がきれいな鹿児島湾と答えるだろう。正解は逆である。この汚れに汚れたと思っている東京湾が、今でも鹿児島湾の約三十倍の漁獲があるのだ。秘密は川の存在だ。東京湾には一定以上の流量の川が十六本流入している。この水量は、二年で巨大な東京湾を満杯にする量だという。


 現在、田中名誉教授は畠山さんが代表をしているNPO法人森は海の恋人の理事を務め、京大フイールド研は畠山氏を「社会連携教授」(非常勤)として招へいしている。

 「森里海連環学」は、社会との連携なしには成立しない学問だからである。

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5 山に大漁旗

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5 日本の牡蠣が世界を救った
3 紀行文としても十分成立している
4 牡蠣から拡がる世界


2008年4月 3日

「森と人間 生態系の森、民話の森」田嶋謙三・神田リエ著、朝日選書

 以前から森が好きだった。

 よく山に出かけた若いころは、急峻な岩山が続く北アルプスや北八ヶ岳より、トウヒ(唐檜)の森が続く南八ヶ岳を好んで歩いた。

 白神山地のブナの森に分け入ってブトにやられ、北岳を目指す土砂降りのなか、長時間大木に抱きついて遊んだりして腰痛で動けなくなったこともある。ニュージランド南島の太古の森に入り、森に住むペンギンの不思議な生態にふれたことも忘れられない。

 畑を借りて野菜つくりをしていたころ、近くの里山は焚き火用の小枝をいっぱいくれる森だった。

 ヘンリー・D・ソローの「森の生活」(JICC出版局)、ジョン・パーリン著「森と文明」(晶文社)・・・。本棚には、ほとんど読んでいないのに、森に関する本がやたらと並んでいる。

 しかし、それ以上に自分の生活ののなかに“森”が入りこむことは、残念ながらなかった。「森と人間」の著者が言っているように、単に「イメージとしての森」が好きだっただけかもしれない。

 著者2人の恩師である北村昌美・山形大学名誉教授は「東洋の森・西洋の森」のなかで、森が好きということでは、ヨーロッパ人も日本人も変らない。しかし、日本人は頭の中で考えているのに対し、ヨーロッパ人は実際に森のなかを歩いて実感している、と書いているという。

 共著者の一人・田嶋謙三は「都会の人が年に1、2回森に出かけ・・・山小屋に泊まったことで・・・人と森の共存が成り立つわけではないだろう」と厳しく指摘する。

 なぜ、日本とヨーロッパ人との間で、森とのかかわりが、こんなに違ってしまったのだろうか。

 国木田独歩の小説「武蔵野」にある雑木林に逆風が吹きはじめたのは、第二次世界大戦後であるという。都市の近郊にあったために、住宅、工業団地の候補地に真っ先になってしまった。そのうえ、農家の燃料が薪や木炭から灯油に代わったため、あっという間に雑木林は消えてしまった。

 ところが著書によると、1年間に森で伐られる数量のうち薪や木炭に使う数量は、フランス、スペイン、イタリアなど地中海沿岸の国々では20%を越えている。日本の1%弱と雲泥の差だ。

 森が住居の近くにあるため、森の世話をする対価として、ヨーロッパの人々は暖炉用の薪を手にすることが出きる。年中、冷暖房完備の住居に住むことを選んだ(選択の余地なく?)日本人は、代わりになにを失ったのだろうか。

 しかし、ヨーロッパ人が常に森を大切に守ってきたわけではない。先にふれたジョン・パーリン著「森と文明」の帯封には「人間はいかに森を破壊してきたか」とある。

 長い歴史の末に、森への取り組みを変えてきた国民性の差を思う。

 海と農漁民を橋渡しする“魚つき林”が、まだ日本にも脈々と守られているという記述には、ホットさせられる。

 森の周辺の海域は森から流れてくる栄養塩に富み、水中微生物の増殖を促すだけでなく、水温に大きな変動がない。森が豊かになるほど、海の幸も豊かになる。

 以前に読んだ本を思い出した。気仙沼の牡蠣養殖業者・畠山重篤が書いた「森は海の恋人」(北斗出版、1994年刊))。畠山は、海の環境を守るには海に注ぐ川、そして上流の森を大切にしなければならないと気付く。そして、1989年から湾に注ぐ川の上流の山に漁民による広葉樹の森づくりを始める。

 その成果は、同じ著者の「牡蠣礼讃」(文春新書、2006年刊)にも詳しい。海の恋人が産んだ収穫によだれが出る思いがする。

 最後に著書「森と人間」は「地球環境を守るために森の木を切ってはいけない」という日本人の常識になっている誤謬に警告している。

 森が若々しい木の集まりであれば、大量の二酸化炭素を吸って有機物を作る。ところが、年を経ると老体を維持するために二酸化炭素を吐き出す量が増える・・・


 森は、伐らないで温存だけを考えていると、二酸化炭素を吐き出す。つまり、地球環境を悪くしている人間と同じになるのである。

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5 森林との関わりを考えていく上で・・・


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