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2007年11月10日

シルクロード紀行⑤ 「氷河がつくった湖」

 急に秋の世界が拓けてきた。

 これまでの針葉樹林帯に広葉樹の木々が混じり始めた。それがすでに黄葉し始めている。紅葉樹の林もある。

 天山北路の西のはし、イリの空港から一挙に東に1時間強のアルタイ。この街から、バスで、ロシア国境に近いカナス湖を目指した。

 バスが、急峻な山道を登り、高度を上げているたびに、周辺の森が深みを増していく。イリ周辺の草原の山々まったく違う、密度の濃い樹林帯が続く。

 「高度は1700メートル近くありますね」。古い友人で、このツアーに誘ってもらったKさんが、腕時計についている高度計をのぞき込んだ。

 黄葉している林を、最初は信州の山でよく見るダケカンバかと思った。「白樺ですよ。幹がまっすぐ伸びているでしょう」。ツアー仲間で、植物に詳しいMさんが教えてくれた。日本とは比較にならない広大な白樺の樹林帯と、まだ落葉していないシベリアカラマツ(落葉松)やトウヒ、モミなどの針葉樹林帯との対比が際立っている。

 アルタイから約150キロ・メートル。カナス湖は、海抜約1300メートルのアルタイ山脈の奥深い森のなかにある。

 この湖は太古の昔は、氷河だった。その後の、温暖化で氷河が消え、そこにアルタイ山脈の雪解け水や雨水が流れこんで湖になった、という。

 氷河がつくった湖だから、全長24キロ・メートルと、三日月のように細長く続き、近くの山に登っても、なかなか全貌がつかめない。

 氷河が大きくえぐったからか、一番深いところは188メートルもあり、中国で最も深い淡水湖でもある。

 この深さのせいか、この湖には一つの伝説がある。長さ10メートルを越える怪魚が生息している、というのだ。

 旅に出かける前に「You Tube」の画面で見た映像では、確かに小船のようなUMA(未確認生物)らしきものが動いているのが映っていた。開高健の著書「オーパ、オーパ!!」にも、このカッシー(別名・ハナス湖からハッシー)のことが書かれているらしい。

 もう一つ、この湖には、有名な不思議がある。季節と時間で湖の色が変わるらしい。

 確かに、初日の夕方にみた「月亮湾」は、夕日を受けて黄色に見えたし、竜のような中州を抱えた「臥竜湾」は逆光のせいか深い緑に見えた。翌日、約30分かけて上った「観魚亭」から見たカナス湖は青白く輝いていた。

クリックすると大きな写真になります 湖の湖底には、氷河がつくった大量の小石が風化して堆積し、その粒上の石が、太陽の光を受けて、季節と時間で異なる色で反射する、という。

 観魚亭から見た湖の対岸に広がるアルタイ山脈の山並みが見事だった。大きく延びる裾野にカラマツの緑と白樺の黄葉が広がり、峻険な頂上を飾っている。

 ここカナス自然保護区は、中国で唯一の西シベリア系動植物分布地域。この風景が、遠くロシア・シベリアまで続いている、ということだろうか。

開高健の著書「オーパ、オーパ!!」

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3 完結編だが・・・
4 宝石
3 東の端に生まれて


2007年10月31日

シルクロード紀行④ 「ジンギスカンが来た草原・下」

 翌日は、カザフスタン国境に近いサリム湖へ。

クリックすると大きな写真になります イリから国道312号線(天山北路)に出て、東へ向かう。別名「果物の道」と言われるだけあって、国道沿いにあるテント張りの屋台には、果物が堆く積まれている。小ぶりだが、甘さたっぷりのリンゴやブドウ、そしてザクロ。ナツメ(500グラムが2元)は、スカスカのリンゴのような味。干したらうまいらしい。スモモ(1キロで4元)は、堅いが甘酸っぱい素朴な味がした。

 昼前に着いたサリム湖は、海抜2073メートルと、世界で一番高いところにある内陸湖(流れ出す川がない湖)。面積は458平方キロ、一番深いところで98メートルあり「天山の真珠」という別名があるとおり、透明で澄んだ湖面が広がっていた。

 魚も多いらしいが、捕獲禁止。水はアルカリ性が強く、飲めないため、周りの草原で羊などを放牧しているモンゴル族の人たちは、湧き水しか使えない。ちょっと飲んでみたが、冷たくてうまい天山山脈の地下水だった。

 夏の最盛期は、約45万頭の羊や牛が放牧されるという、大草原観光(一人140元)に出かけた。まず、モンゴル族独自の儀式。それぞれがハーターという白い絹の布を首に巻き、ツアー仲間のMさんが代表して、白酒を入れた杯に指をつけて天と地面を指し、額につけて飲み干した。

 この儀式は、後日、アルタイのカナス湖畔だけに住むモンゴル族トア人の住居を訪ねた時も同じだったし、数年前に内モンゴルを旅したZさんも同じ体験をした、というからモンゴル族共通のものらしい。

クリックすると大きな写真になります 小型自動車に分乗、湖畔を走る。湖の向こうに山並み、後ろに大草原が広がる。モンゴル族ガイドの指示に従って、川に下りて、小石を3個拾って首の布に包んだ。車で丘にあがると、小石を積み上げた小山が4つほど築かれている。その周りを3回回って、小石を一つずつ落とし、小山の上にある柱に白い布を巻きつけ、儀式は終わった。

 この小山の横に、表に中国語、裏はモンゴル語で書かれた大きな石碑があった。その赤い字を、帰国してから通っている中国語教室の先生に教えてもらいながら拾い読みし、この儀式が、なんとなく理解できた。

 「紀元前1219年、天驕(北方民族の君主)である成吉思汗(ジンギスカン)率いる20万の西征軍は、アルタイ山を越え、サリム湖に入り、将台(兵を指揮し、謁見する台)とオボを築いた。人々は長年、蒙古人民の供養のため朝拝した・・・」。

 オボとは、モンゴル族特有の祭壇、我々が小石をささげた小山のことだった。

 この故事を記念するため「西海草原」と名付けられた石碑がある大草原で、毎年7月中旬にあらゆるモンゴル族が集まって「ナーダム」という祭りが開かれ、競馬や相撲、歌や踊りを楽しんできた、という。

  石碑の百メートルほど横にぽつんとたっている棒は、祭りの時の国旗掲揚のためのものだった。

 しかし、この祭りも「草原が荒れる」のことを理由に、昨年禁止されてしまった。ここの地主は、中国政府。少数民族保護政策と、なにか関係があるのだろうか。

 祭りができなくなった草原に向かって、大きく風を吸い込んでみた。山から駆け下りてきたジンギスカンを思った。