検索結果: Masablog

このブログを検索

大文字小文字を区別する 正規表現

Masablogで“五木寛之”が含まれるブログ記事

2010年1月16日

読書日記「偏愛ムラタ美術館」(村田喜代子著、平凡社刊)

偏愛ムラタ美術館
偏愛ムラタ美術館
posted with amazlet at 10.01.16
村田 喜代子
平凡社
売り上げランキング: 87499


  このブログにも書いたことがある芥川賞作家の村田喜代子が、小説を書く時の「栄養剤」として"偏愛"している絵画の数々を独断と偏見で書き綴った、なんとも凄みのある本である。

「大道あや」という画家を、この本で初めて知った。「しかけ花火」という絵について書くなかで、聞き取り「へくそ花も花盛り」という本に書かれた大道あやの言葉を引用している。あやの夫は経営していた花火工場が爆発して死ぬ。

 主人は焼け焦げとりました。でも誰も主人を運び出してくれようとせんのです。(中略)じゃから、私が主人の頭を抱くように抱え、弟が布を添えて足のほうを持って、運び出した。そしたら、主人の頭がパカッと割れて、脳味噌がドロッと落ちました。倉庫にあった茶箱に白い布を敷いて、主人を入れ、脳味噌も、こんなところに一滴でもおいていけんと思うて、みんな手ですくうて、紙につつんで、シーツにつつんで茶箱に入れて、家に帰りました。


 その事故の2年後に「しかけ花火」は描かれた。さく裂し、崩れ落ちる花火の間を魚が泳いでいる・・・。すべてのものでカンバスを埋めつくさずにはおられない「巨大な空間に対する圧倒的な畏怖の念」を著者は感じる。

 村山槐多「尿する裸僧」について著者はこう書く。

 これは彼のもう一つの自画像だろう。彼が死んだあばら家の壁は落書きだらけで、その中に男が放尿する絵も幾つもあったらしい。槐多の絵の放尿はまるで「爆発」だ。思いっきりの射精であり、エネルギーの放出であり、それから何だろう。まるで滝だ。人体のなかに滝を落下させている。


 この絵は信州上田市の「信濃デッサン館」にある。昨年、近くの「無言館」を訪ねた時に、時間がなくて行きそびれたのが、なんとも残念だ。

   著者は、大分県湯布院町の老人ホームに隣接している「東勝吉常設館」を訪ね「由布岳の春」など、デフォルメされた独特の絵を飽きずに眺める。
 東勝吉は長年木こりを生業としてきたが、老人ホームに入ってから院長に勧められて83歳で初めて絵筆を握り、99歳で死ぬまで絵を描き続けた。

 人間というのは、つくづくびっくり箱だと思う。何十年も生きているうちに、ある日ひょいと、とんでもないものが飛び出してきたりする。

 19世紀から20世紀にかけて素朴派と呼ばれる画家たちがいた、という。普通の生活をしていた人たちが、70歳を過ぎてから絵筆を握っている。

 そうか、年を取るというのは、身軽に自在になるということだったのか・・・。


 私でも遅くないかなと、思ってみたりする。

 まだまだある。著者はロバート・ジョン・ソーントンの奇怪なボタニカル・アートに引き込まれ、このブログにも書いた河鍋暁斎の想像力に「負けないでいこう」と、わが身を奮い立たせる。

 数々の「受胎告知」の作品のうち、私も何年か前のイタリア巡礼で見たフイレンツエ・サン・マルコ修道院にあるフラ・アンジェリコの壁画について、こう書く。

 微光に包まれたような柔らかさが好きだ。・・・

絵は完全飽和なのだ。アンジェリコの「受胎告知」は受諾と祝福で飽和して、一点の矛盾も不足もない。満杯である。


▽参照
    平凡社のこの本の紹介WEBページ

▽その他、最近流し読みをした本
  • 「林住期を愉しむ 水のように風のように」(桐島洋子著、海竜社刊)
     「林住期」 といえば、2007年に発刊された五木寛之 の著書 がベストセラーになったが、なんとこの本は1998年の刊である。 図書館の返却棚に並んでいるのを見つけて、思わず借りてしまった。この著者 のエッセイは、その明るさが好きでいくつか読んだが、相変わらず生活力と活動力にあふれたタッチがいい。ほかにも「林住期が始まる」「林住期ノート」という著書もあるようだ。

  • ・「バブルの興亡 日本は破滅の未来を変えられるか」(徳川家広著、講談社刊)
     著者 は徳川将軍家直系19代目にあたるエコノミスト。
     エコノミストの経済予測ほどいいかげんなものはないと読まないことにしているだが、結構評判がよかったので、昨年10月の発刊直後に図書館に予約を入れて、先日借りることができた。
    昨年9月の政権交代直後に書かれたが「史上最大の予算出動」など、けっこう当たっている。「バブルが発生するのは、だいたい危機の二年後」「その規模は空前の巨大規模」「そのバブルも崩壊して廃墟経済がやって来る」「バブル期には金の価格が下がる」・・・。小気味のよい予想は続く。マー、まゆつばで流し読みも一興。

  • ・「ぼくたちが聖書について知りたかったこと」(池澤夏樹著、小学館刊)
     フランスなどに長く住み、聖書の知識なしにはヨーロッパ社会を理解できないことを知った著者 が、父の母方の従弟である聖書学者の碩学、秋吉輝雄 に、自らの深い教養から出てきた疑問を投げかける稀有の本。
    聖書についてより、ユダヤとユダヤ人について多くのページがさかれるが、国境を持たない国に生きてきたユダヤ人への理解がなかなか進まない。聖書とユダヤについて、なにも知らなかった自分に気づかされる。



林住期
林住期
posted with amazlet at 10.01.16
五木 寛之
幻冬舎
売り上げランキング: 46855
おすすめ度の平均: 4.0
3 団塊世代向け
4 平易さを侮ってはいけない
5 人生観が変わるかもしれません。
5 人生設計を考えるにあたり非常に参考になる考え方
3 備えよ常に。

ぼくたちが聖書について知りたかったこと
池澤 夏樹
小学館
売り上げランキング: 30808
おすすめ度の平均: 5.0
5 『聖書』をひもとき歴史にひらく


2008年1月29日

読書日記「アバノの再会」(曽野綾子著、朝日新聞社刊)


 この本を読書仲間・Mに薦められ、図書館で借りた時は「エッ!曽野綾子って、小説も書くの」と、恥ずかしながらちょっと意外な感じがした。

 エッセイはいくつか読んだ覚えはあったし、好き嫌いは別にして、雑誌などで見る横紙破りの発言が目立っていたから。

 ところが、本棚を探していたら、作者の小説が文庫本でいくつも出てきた。「太郎物語」 「生命ある限り「リオ・グランデ」。いい加減な読み方をしているなあ・・・。


 「アバノの再会」の読後感は「なにか、すがすがしい恋愛小説を、久しぶりに楽しんだ」という感じ。 

 妻を亡くした元大学教授の戸張友衛が、北イタリアの温泉保養地・アバノで、昔家庭教師をしていた山部響子と再会。古都パドヴァなどを訪ねながら、32年前の忘れない清い恋を蘇らせる。


 二人が交わす知的な会話、とくに響子の話しがいい。切なく、心細げながら、人生をしっかりつかまえてきた様子が、浮き彫りになっていく。


 「私はあんなに懐かしげに心を込めて、見切りもつけず、動きもせずに、遠ざかる人を見送ってくれた人を見たことがないの」

 「君はよく幸せって言うね」「ええ、見つけるの、うまいのよ」

 「一人の人の行く方向をじっと見ているの、おもしろいものでしょう?マーケットのレジで、私の前に並んだ人が、何を買うのかを見ているのと同じくらい好き」

 「私、虹はいつでも好きだわ。すぐ音もなく消えるから、しつこくないでしょう?」

 「自分が生きているのか、死んでいるのかが分からないような思いになったことはありませんか」

  最後に当然のごとく、別れが来る。「人を深く愛するには、愛する人と遠くにいることが必要だという矛盾です」と・・・。


 恋愛なんかにはまったく疎い独居老人の私見だが、この言葉はどうも気に食わない。小説の結論だから、こういう展開が必要ということだろう。


 現実の作者、曽野綾子は、ご主人の三浦朱門や息子で人類学者の三浦太郎夫婦とのふれあいを中心にした日記を月刊誌に長期連載している。


 随筆集「最高に笑える人生」(新潮社刊)でも、こんなことを書いている。


 「旅に出ていると、私は自分の帰る家と家族がいることを、夢のように感じた。・・・帰る家に家族がいるということは、家が温かいことなのであった」


 本棚からは、小説以外のエッセイなども、いくつか出てきた。

 先の読書日記に書いた、アルフォン・デーケン神父との往復書簡集「旅立ちの朝に」(角川書店)では、著者はこんなことを書いている。

 「あとただ残るのは、自分の気力と本当の徳の力だけという・・・そのような老年の条件のなかで、多くの人はその人なりに成長します」「ユーモアこそは人間性の円熟のあかし」

 「戒老録」(祥伝社)には、こんな文章がある。

 「どんな老人でも、目標を決めねばならない。生きる楽しみは、自分が発見するほかはない」「服装をくずし始めると、心の中まで、だらだらしても許されるような気になるものである」


 デーケン神父の言う「第3の人生」、五木寛之の「林住期」に入って、これらの本に再会できたのも「アバノの再会」、読書仲間・Mのおかげ、と感謝したい。

追記: 「アバノの再会」の文中で、急に有馬頼義・著「赤い天使」という本が登場してくる。話しの筋からは、なぜこの本が出てくるのかが、もう一つ分からないが、気になった。芦屋の図書館を検索してもらったら「以前はありましたが、廃棄処分にしたようです」という返事。

 AMAZONで探したら、新刊古本で見つかった。数日後に、東京・板橋の古本屋から届いた。河出書房新社、昭和41年発行、定価420円の本が、600円に送料340円。

 帯封には「死の深淵しかない戦場で従軍看護婦が見た男たちの激しい生と空しいセックス」とある。しかし「アバノの再会」とは違うけれど、どこか同じような静謐さが流れる小説と思った。

アバノの再会
アバノの再会
posted with amazlet on 08.01.29
曽野 綾子
朝日新聞社 (2007/11/07)
売り上げランキング: 6506


最高に笑える人生
最高に笑える人生
posted with amazlet on 08.01.29
曽野 綾子
新潮社 (2001/03)
売り上げランキング: 796718