読書日記「あなたと共に逝きましょう」(村田喜代子著、朝日新聞出版刊)
あなたと共に逝きましょう
posted with amazlet at 09.05.05
村田 喜代子
朝日新聞出版
売り上げランキング: 17371
朝日新聞出版
売り上げランキング: 17371
おすすめ度の平均:
一心同体の軌跡たしかに傑作だが好き嫌いは分かれるだろう
間違いなくこの小説は、これからの高齢化社会を考える上での必読書となるだろう
福岡県在住の芥川賞作家である著者が、著者夫婦に実際に起こったことを下敷きに5年をかけて完成させたという。60歳代前半の夫婦に突然襲いかかった死の恐怖。それに立ち向かう姿が、ある種のユーモアを含みながら切々、淡々と綴られていく。
巷には戦後生まれの新老人が歩いている。ジーンズのパンツに、ナイキのスキーカーを履いた男や、カーリーヘアの女の、新しい、歳取ることに不器用な老人たちが歩いている。
64歳の夫は機械の設備設計事務所を経営し、62歳の「私」は大学の教員。久しぶりに夫婦で東北へ温泉旅行に出かけても、口げんかが絶えない。「歳取ることに不器用な」夫婦である。
夫の声がある日突然出なくなり、検査で大動脈瘤が発見される。いつ破裂してもおかしくない。20人に1人が命を落とす手術をしないと死ぬしかない。そんな恐怖に直面した2人は、寄り添うように生きようともがく。
義雄の使うお湯の音が響いてくる。とりあえずその音のする間は、彼の命がつながっている証拠だ。
「いいですか奥さん。ご主人は破裂物ですよ」・・・医師は念を押した。
お湯の音がやんだ。
私の耳は青ざめた。
浴室まで縛られたように歩いていって・・・湯気が漏れてきて、その向こうに彼の背中が見えた。
久しぶりに自分の夫の裸の後ろ姿を眺めていると、懐かしいものを見ているような気持になる。
手を伸ばしてその背中に触れてみたくなる。
「いいですか奥さん。ご主人は破裂物ですよ」・・・医師は念を押した。
お湯の音がやんだ。
私の耳は青ざめた。
浴室まで縛られたように歩いていって・・・湯気が漏れてきて、その向こうに彼の背中が見えた。
久しぶりに自分の夫の裸の後ろ姿を眺めていると、懐かしいものを見ているような気持になる。
手を伸ばしてその背中に触れてみたくなる。
結婚以来10数年食事を作り続け、夫の肉体は自分が作ったのだと思う。
手術を恐れる夫は、民間食事療法に頼る。玄米に替え「食事は絶対100回噛め」という勧めを忠実に守り、妻に付き添われて信州にある岩盤浴の温泉に出かける。妻は「よく効く」と言われて鯉こくを煮る。
他人から見ると滑稽にも見える必死の試み。しかし、もちろん大動脈瘤は縮まらない。
手術は成功した。しかし、妻の心に思いもよらない心情が湧きおこる。
生きてますけど、負けたのよ。私たち。
これで義雄の自然は刈り倒された。もう元の義雄の手つかずの体はない。・・・わけのわからない怒りが後から後から突き上げてくる。
心配する友人にこうメールする。
医学のおかげで命を助けられたわけですが、私は自分の亭主のその秘部に人の手が入った事実に打ちのめされているのです。
夫が治って置いてけぼりになったような気持になった妻は「私は死にます」と叫ぶ・・・。周りの人は、うつ病ではと心配する。
ストーリーの合い間に、妻がおかしな夢を見るシーンが何度も挿入されている。女郎になった「私」が、男に何度も身請けを迫られる・・・。
無意識下の[生」へのあがきだったのだろうか。
「共に逝きましょう」は、「共に生きましょう」という思いへのかけ言葉だと分かる。
それにしても、夫婦の身体的一体感を、ここまで書きつくすことができるとは。
コメントする
(初めてのコメントの時は、コメントが表示されるためにこのブログのオーナーの承認が必要になることがあります。承認されるまでコメントは表示されませんのでしばらくお待ちください)