読書日記「オレがマリオ」(俵万智著、文藝春秋刊)
「サラダ記念日」で衝撃的なデビューをした著者の第5歌集。世間の評判におされて、つい図書館で借りてしまった。
2011年3月11日14時46分、著者は出張で東京の新聞社の会議室にいた。夕刊締め切り直後の新聞社のけん騒から、この歌集は始まる。
「震度7!」「号外出ます!」新聞社あらがいがたく活気づくなり
40歳で我が子を産んだシングルマザーの著者は、4日後に両親と息子のいる仙台に帰り着く。そして余震と原発事故が落ち着くまでと7歳の息子を連れ西に向かう。
ゆきずりの人に貰いしゆでたまご子よ忘れるなそのゆでたまご
子を連れて西へ西へと逃げてゆく愚かな母と言うならば言え
空腹を訴える子と手をつなぐ百円あれどおにぎりあらず
友人を頼って落ち着いたのは、沖縄・石垣島。豊かな自然のなかで、息子はすこやかに育っていく。
「オレが今マリオなんだよ」島に来て子はゲーム機に触れなくなりぬ
子は眠る
カンムリワシを見たことを今日一日の勲章として
ぷふぷふと頬ふくらます子に聞けば釣られて焦るフグのものまね
縁側に並んでスイカを食べているぷぷぷぷぷっと我が子島の子
「ケンカしちゃダメ」と言いつつおさな子は蝶の交尾をほぐしておりぬ
「ただいま」を言え言えと言われれば「ただいません」と返すおさなご
息子の成長をつぶやいている著者自身の ツイッターを記録したWEBも見つけた。
つかの間のつもりが、この島の豊かな自然に引かれた。2人はいまだにこの島に住み続けている。
ストローがざくざく落ちてくるようだ島を濡らしてゆく通り雨
潮満ちて終了となるモズク採りすなわちこれを潮時という
人の子を呼び捨てにして可愛がる島の緑に注ぐスコール
オヒルギの花ぼとぼと落ちる午後 無言の川をカヤックで行く
「子どもの歌は、刺身で出せる。・・・恋の歌は、じっくり寝かせ、ソースやスパイス、盛りつけや器にも心を砕かねば・・・」。発行社・ 文藝春秋のWEBページで、著者自身が 動画で語っている。
湯上りのビールのように抱きあえり女男(めを)なれば他にありようもなく
石鹸の香りを選ぶひとときに思い浮かべている人のある
こんな笑顔持っていたのか子は君に追いかけられて抱きあげられて
いのちとは心が感じるものだからいつでも会えるあなたに会える
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