読書日記「ぼくと1ルピーの神様」(ヴィカス・スワラップ著、子安亜弥訳、ランダムハウス講談社刊)
ぼくと1ルピーの神様 (ランダムハウス講談社文庫)
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ヴィカス スワラップ
ランダムハウス講談社
売り上げランキング: 960
ランダムハウス講談社
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小説の名人芸+インドのことがよくわかるラム・ムハンマド・トーマス
時を忘れて読みました。
たまには流行りのエンターテーメントもいいか、とAMAZONで衝動買いしたこの本。今年の米アカデミー賞8部門を独占したインド映画「スラムドッグ$ミリオネア」の原作本である。
作者は、インドの外交官。このほど、文庫版の出版と今月18日の映画公開に合わせて来日、記者会見の記事が3月15日付け産経新聞に載っていたが、6年前のロンドン勤務の際、家族がいない寂しさを埋めようと初めて書いた小説という。「どんな環境の子供でもトンネルの先には明かりがある、と言いたかった」と話す47歳の働き盛り。この夏には大阪総領事として赴任するらしい。
なじみの少ないインドの小説だが、けっこう楽しめた。
舞台となるのは、日本でも司会者のみの・もんたが叫ぶ「ファイナルアンサー」で有名になった「クイズ・ミリオネア」。そのインド版のテレビ番組に出場したスラム育ちの少年、ラム・ムハンマド・トーマスが見事、史上最高額の10億ルピー(26億円)を獲得する。
しかし、孤児で教養もない少年が、難問に答えられるはずがないと警察に逮捕され、厳しい拷問で自供を強要される。
そこへ現れた謎の女性弁護士によって、少年は救われる。この弁護士は、ラム少年が酒乱の父親に乱暴されようとしたのを救いだした少女・グディアだった。
ラム少年はなぜ、難問に全問回答できたのか。それは、これまで歩んできた人生で体験したことばかりが出題されたからだった。その人生は、貧困、幼児虐待、人身売買、組織暴力、腐敗など、インドが抱える社会問題との戦いだった。
話しがあちこち入り込んでちょっと分かりにくいのが難点だが、1章ごとのエピソードの最後に、クイズ番組が配されており、最後には10億ルピーにたどり着くという構成も楽しめる。
日本語訳を発刊したランダムハウス講談社が、この本を紹介するWEBページに、ラム少年に出された12の質問を載せている。
このなかで私が知っているのは、質問2だけ・・・。「答えは本書で」と書いてある。読了した〝本書〟によると、正解は、d、b、c、b、・・・の順となる。
最後となる12番目の質問は、こうである。
ベートーベンのピアノソナタ第29番作品106は『ハンマークラヴィーア』として知られていますが、その調はどれ?
選択肢が絞られて、a:変ロ長調とc:変ホ長調が残る。
答えが分からないラム少年は、これまでの人生を支えてきた幸運の1ルピーコインを取り出す。「表が出たらa、裏ならcです」。出たのは表だった。
実はこのコイン、表しか出ないものだった・・・。
少年は巨額の賞金(一部は『クイズ賞金税』という名目で、政府に徴収される)を手にし、ムンバイに建てた豪邸に恋人と幸せに暮らしましたとさ、というおとぎ話・・・。
自宅の最寄り駅から10分弱のところに、シネコンプレックスがオープンしたため、最近映画を見る機会が多くなった。
同じ今年の米アカデミー賞外国語映画賞を獲得した「おくりびと」も見たが、日本の雪国(山形・月山山麓)の豊かな自然のなかで展開する死者をいたわる独自の風習がかもしだす〝優しさ〟を、米国の審査員は評価したように思える。
「スラムドッグ$ミリオネア」も、これまで受賞してきたハリウッドの超大作とは異なるポリウッド発のサクセスストーリーである。
二つの異色作品が受賞したのは、米国で吹き始めた新しい風、意識の変化のせいであるような気もする。
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