読書日記「イカ干しは日向の匂い」(武田 花著、角川春樹事務所刊)
「おひさしぶりです、武田 花さん」。一度もお会いしたことがない10歳も年上の見知らぬ男が、こんな風にお呼びする失礼をお許しください。
実は私、お母様の故武田百合子さんの大ファンです。「富士日記」(上、中、下、中央公論新社刊)は3、4回。「犬が星みたロシア旅行」「ことばの食卓」「日々雑記」だけでなく、武田 花さんが写真を撮られた「遊覧日記」も、もちろん読みました。お父様の故武田泰淳さんの本は、1、2冊をのぞいただけなのに。
「富士日記」で、☆マークがついているところは、お母様でなく武田 花さんが書かれたのでしたね。この本の舞台となった富士山麓「武田山荘」が建てられた昭和39年当時は、確か立教中等部に在学されていた。
庭でスキーを楽しんだり、愛犬「ポコ」のびっこを心配したり・・・。作文を書いているような中学生らしい一生懸命の文体がほほえましかった。
ところが、武田 花さんの新しい写真エッセイを一気に読んでびっくりしました。「天衣無縫の文章家」と評された武田百合子さんの文体そっくりだと。
お母様そっくりと言われるのは不本意でしょうが「にやり」「くすり」としながら読んだいくつかの文章を引用させてください。
飼い猫の「くも」に伊勢神宮を見せてやろうとバッグの中から首だけ出してやったら、若い神主に、四つ足は入ってはいけないと注意された。
「四つ足がいけないって?お狐様や狛犬や神馬は四つ足だぞ。因幡の白兎を助けた大国主命は神社関係者じゃないのか。四つ足は人間よりずっと上等だぞ・・・」(生き物)
「四つ足がいけないって?お狐様や狛犬や神馬は四つ足だぞ。因幡の白兎を助けた大国主命は神社関係者じゃないのか。四つ足は人間よりずっと上等だぞ・・・」(生き物)
日本海岸の半島で通りかかった家の座敷で、白無垢姿の花嫁さんが椅子にかけて俯いている。留袖や割烹着の女たちが出てきて、障子やガラス戸を開け放った。
「途端、眩しい光が射しこんで、花嫁さんの背後に日本海が広がる。まるで唐組のお芝居のラストシーン。空が黒雲に覆われ、海が荒れ狂っていたら、もっといいのに・・・。」(花嫁)
「途端、眩しい光が射しこんで、花嫁さんの背後に日本海が広がる。まるで唐組のお芝居のラストシーン。空が黒雲に覆われ、海が荒れ狂っていたら、もっといいのに・・・。」(花嫁)
旅の途中で見つけた造り酒屋で店のお嬢さんらしい若い人が出てきて、利き酒をさせてくれた。
「三つのお猪口それぞれに注いでくれたお酒を私が味見していると、トクトクトク、いい音がするので目を上げたら、後ろ向きで俯き加減になったお嬢さんがガラスのコップに酒を注ぎ、くいーと一息に呷ってしまった。・・・また奥から一本。そして、私のお猪口にトロッ、自分のコップにドクドクドク、後ろ向きになって、くいーっ。『お客には、お猪口かい』・・・」(土産話)
「三つのお猪口それぞれに注いでくれたお酒を私が味見していると、トクトクトク、いい音がするので目を上げたら、後ろ向きで俯き加減になったお嬢さんがガラスのコップに酒を注ぎ、くいーと一息に呷ってしまった。・・・また奥から一本。そして、私のお猪口にトロッ、自分のコップにドクドクドク、後ろ向きになって、くいーっ。『お客には、お猪口かい』・・・」(土産話)
ローカル線の駅前にしゃがんでアイスクリームを舐めている高校生らしい少女。
「制服がはち切れそうなむちむちとした体格。短いスカートから剥き出した太腿の逞しいこと。よく日に焼けた頑丈そうな少女から、付けまつ毛や青いアイシャドウを取り除いたら、棟方志功の版画のふくよかな天女にも似ていそうで・・・」(雲の行方)
「制服がはち切れそうなむちむちとした体格。短いスカートから剥き出した太腿の逞しいこと。よく日に焼けた頑丈そうな少女から、付けまつ毛や青いアイシャドウを取り除いたら、棟方志功の版画のふくよかな天女にも似ていそうで・・・」(雲の行方)
「インドのホテルで、ドキドキ」は、大変でしたね。
今日、図書館で「季節のしっぽ」の借り入れ申し込みをしました。楽しみです。
時々、ちらっと登場される正体不明の「家人」様によろしく。
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淡々と。
奇跡のような
日記といえば、、、
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思い出は皿の上の果物のようにごろんとそこにある唯一無二のエッセイ
純粋無垢というよりは野性的な感覚
ほかに誰も書けない
とっても新鮮なセンスを楽しめますよ
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ブラックにユーモアで孤独年月の澱を背負い込んで
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いわゆる見物結局は「富士日記」を超えられないか
ありのまま。
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