読書日記「原発危機と『東大説法』 傍観者の論理・欺瞞の言語」(安富 歩著、明石書店刊)、「幻影からの脱出 原発危機と東大説法を超えて」(同)
原発危機と「東大話法」―傍観者の論理・欺瞞の言語―
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安冨 歩
明石書店
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福島第一原発事故時に、原発の安全性をNHKテレビなどで声高に主張していた東大の原子力専攻教授陣が、被害の拡大とともに画面から姿を消したことを不思議かつ、けしからんことだと思っていた。
これら2冊の本は、これら教授たちの話しぶりの「傍観者性と欺瞞さ」を暴きだしたものだという。
しかも 著者は、京大出身ではあるが、同じ東大の 東洋文化研究所の教授。
一般には知識人の代表と見られている東大というムラ社会にいながら、そのムラ社会の欺瞞さを暴こうとしている。
「You Tube」の 公開対談に映っている著者は、黒のソフト帽に白のTシャツ、茶色の皮ズボンという"ヤーサン・スタイル"。自らの ブログに載せている 写真も、顔をおおうヒゲとサングラスに迷彩服?と、とても"教授"ズラには見えないことも、仕掛けた"けんか"をおもしろくしているように見える。
「東大話法」という言葉は、すでに「Wikipedia」でも紹介されており、著書の最初にも載っている下記のような「東大話法規則一覧」が掲載されている。
- 自分の信念ではなく、自分の立場に合わせた思考を採用する。
- 自分の立場の都合のよいように相手の話を解釈する。
- 都合の悪いことは無視し、都合のよいことだけ返事をする。
- 都合のよいことがない場合には、関係のない話をしてお茶を濁す。
- どんなにいい加減でつじつまの合わないことでも自信満々で話す。
- 自分の問題を隠すために、同種の問題を持つ人を、力いっぱい批判する。
- その場で自分が立派な人だと思われることを言う。
- 自分を傍観者と見なし、発言者を分類してレッテル貼りし、実体化して属性を勝手に設定し、解説する。
- 「誤解を恐れずに言えば」と言って、嘘をつく。
- スケープゴートを侮蔑することで、読者・聞き手を恫喝し、迎合的な態度を取らせる。
- 相手の知識が自分より低いと見たら、なりふり構わず、自信満々で難しそうな概念を持ち出す。
- 自分の議論を「公平」だと無根拠に断言する。
- 自分の立場に沿って、都合のよい話を集める。
- 羊頭狗肉。
- わけのわからない見せかけの自己批判によって、誠実さを演出する。
- わけのわからない理屈を使って相手をケムに巻き、自分の主張を正当化する。
- ああでもない、こうでもない、と自分がいろいろ知っていることを並べて、賢いところを見せる。
- ああでもない、こうでもない、と引っ張っておいて、自分の言いたいところに突然落とす。
- 全体のバランスを常に考えて発言せよ。
- 「もし◯◯◯であるとしたら、お詫びします」と言って、謝罪したフリで切り抜ける。
20もあると、いささか煩雑でわかりにくいが、著書の裏表紙には、代表的な例として、規則2,3,5を挙げている。
安富教授は、以前から東大で見聞きする「自分が所属する立場ばかりにこだわる」姿勢に違和感を持っていた。「東大話法」という言葉を発案したのは、福島第一原発1号機が爆発した際、NHKに登場した東大大学院の原子力工学の専門家である 関村直人教授(= 写真)が 「爆破弁を作動させた可能性がある」と発言したのを聞いて、驚愕したのがきっかけだった、という。
関村教授は「原発は安全」という「立場」から 水素爆発はありえない」と繰り返してきたため、建屋が吹き飛ぶ水素爆発事故を、爆破弁という減圧装置の作動という「詭弁」を平然と使った。
まさしく、「東大話法」の規則2であり、3であり、5でもある、という。 関村教授がトップをしている東大 「原子力国際専攻」のホームページに掲載されている 「原子力工学を学ぼうとする学生向けのメッセージ 福島第一原子力発電所事故後のビジョン」にも「厚顔無恥な『東大話法』が使われている」と、安富教授は書く。
この文書は「世界は、人類が地球環境と調和しつつ平和で豊かな暮らしを続けるための現実的なエネルギー源として、原子力発電の利用拡大を進め始めていました」という言葉で始まっている。
いきなり「世界は」と書き始めるという感覚に驚かされます。彼らは自分が「世界」を代表しうる資格を持っている、と認識しているわけです。しかもそこに善かれている内容は、手前味噌の無責任な自己正当化にほかなりません。
「世界は‥...・原子力発電の利用拡大を進め始めていました」と書いていますが、原子力発電の利用拡大を進めていたのは、もちろん「世界」ではありません。世界」にそんなことはできません。一部の国の、愚かで強欲な、政治家・官僚・電力会社と、それを支える原子力関係の御用学者・技術者が推進してきたのです
「世界は」と言うことによって、そういう責任関係を暖昧にし、つまりは自分自身を免責しているのです。
いきなり「世界は」と書き始めるという感覚に驚かされます。彼らは自分が「世界」を代表しうる資格を持っている、と認識しているわけです。しかもそこに善かれている内容は、手前味噌の無責任な自己正当化にほかなりません。
「世界は‥...・原子力発電の利用拡大を進め始めていました」と書いていますが、原子力発電の利用拡大を進めていたのは、もちろん「世界」ではありません。世界」にそんなことはできません。一部の国の、愚かで強欲な、政治家・官僚・電力会社と、それを支える原子力関係の御用学者・技術者が推進してきたのです
「世界は」と言うことによって、そういう責任関係を暖昧にし、つまりは自分自身を免責しているのです。
「幻影からの脱出」は「原発危機と『東大説法』」の続編。
このなかで著者は「プルトニウムは、水に溶けにくいので飲んでも大丈夫」と発言した 同じ原子力工学の専門家である 大橋弘忠=( 写真)・東大教授について「『東大話法』を使う人は、この話法がうまいのでなくむしろ下手なのだ。だからその欺瞞と隠蔽が露呈してしまう。特に下手くそなのが大橋教授」と、大橋教授が公開した 「プルサーマル公開討論会に関する経緯について」という文書をやり玉に挙げている。
安富教授は、こう書く。
この文書が恐ろしいのは、何よりも「格納容器は一億年に一回しか壊れない」など、いわゆる
「原発推進トーク」を連発しておいて、それが事実によって否定された、という点を、完全に無視していることです。原発関係者は、そういうことが、認識から自動的に排除されるようになっているのです。これは、大橋氏が特別に変わった人だから、ではありません。彼らは基本的に、こういうふうに考えているのです。こういう連中に、原子力などという危険なものを弄ばせてよいものか、本当によく考えないといけません。
「原発推進トーク」を連発しておいて、それが事実によって否定された、という点を、完全に無視していることです。原発関係者は、そういうことが、認識から自動的に排除されるようになっているのです。これは、大橋氏が特別に変わった人だから、ではありません。彼らは基本的に、こういうふうに考えているのです。こういう連中に、原子力などという危険なものを弄ばせてよいものか、本当によく考えないといけません。
確かに、今年の2月に書かれたこの文書には、福島原発事故については、1度もふれられていない。
恐ろし、恐ろし!
著者は「東大話法」について「この話法は、東大関係者やOBだけでなく、政治や社会をリードしてきたリーダー、知識人の間で平気で使われている」と、何度も書いている。
そして「幻影からの脱出」のなかで、千数百回も リツイートされた、自らのツイート(2012年4月7日発)を紹介している。
政府が大飯原発の再稼働に固執するのは、原発ゼロで夏を乗り切れば、もう再稼働の口実がなくなるからだ。そうなると原発を支えたシステム全体が問われることになる。そのシステムは、国債や年金や天下りにも繋がっており、日本の全システムを揺るがすことになる。まさに、日本戦後史の関ケ原である。
「原発危機と東大話法」は今年の1月、「幻影からの脱出」は7月の発刊だが、9月には、同じ著者の「もう『東大話法』にはだまされない」(講談社+アルファ新書)が出ている。
著者の主張する『立場主義」をサラリーマン社会や夫婦関係にまで拡大しているが、読後感は「もう、ひとつ」
もう「東大話法」にはだまされない 「立場主義」エリートの欺瞞を見抜く (講談社プラスアルファ新書)
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安冨 歩
講談社
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