津和野紀行・下 「安野光雅美術館」と三国志の世界(2010・7・18-19)
安野光雅美術館は、津和野の駅から数分のところにある白壁と赤い煉瓦のコントラストが見事な堂々とした和風建築だ。
入場すると「すぐにプラネタリウムが始まる」という。津和野の夜空を彩る星座群を眺めながら心地よい午睡を愉しみ、第1展示室へ。幸運なことに、見逃していた「『安野光雅 繪本 三国志』展 ~中国、悠々の大地を行く~」が、開催されていた。
入口に行程図があった。安野光雅画伯は、中国文学者の中村愿(すなお)氏とともに2004年から約4年にわたって「魏・蜀・呉」三国の歴史を巡った。この展覧会には、1万キロに及んだ旅の成果98枚が展示されている。
これが「繪本」だろうか。
淡い絵具で描かれた黄河や長江、山河の大作があり、三国志時代の「露天市場」がある。もちろん「曹操出盧」「荷進暗殺」「赤壁の戦い」「流星未捷(諸葛亮の死去)など、三国志おなじみの人物が安野ワールドらしいきめ細かなタッチで描きこまれている。
美術館で買った図録「安野光雅 繪本 三国志展」のなかで、画伯は「少しでも中国に近づ くために」未晒し(みさらし)の絹本(けんぽん)を用い、黄河、長江の土、敦煌の砂から作った絵具も使った、と書いている。紙の実用化に功績のあった 蔡倫の記念館を訪ねて、はじめて作られたのと同じ技法の紙を使った作品もある。「長江群青(ぐんじょう)」という作品の山腹を彩る見事な蘭青色の絵具、ラピスラズリは、北京の画材店で求めた、という。
作品に押されている落款印は、日本の小林 斗盦(こばやし とあん)や中国の有名な篆刻家らに依頼、それらの作品がガラスケースに入れて展示されていた。
宿に帰って図録を眺めていたが、どうももの足りない。翌朝、美術館の開館を待って安野画伯が書いた「繪本 三國誌」を購入した。
A5大横開きの大型本で、A5大の絵画作品ごとに2ページにわたる画伯の説明文がつ いている。これは、そのまま読み応えのある「安野 三國志」である。
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世界にひたれます。もう1冊、衝動買いしたのが、三国志取材旅行に同行した中国文学者の中村愿(すな お)氏が著した「三国志逍遥」(山川出版社)。著者のサインがあった。安野画伯の作品を随所に挿入した「共同作業」の本だという。
おもしろいのは、明代に書かれた歴史小説「三国志演義」や、最近ヒットした映画「レッドクリフ(赤壁)」で、悪者になっていた魏(ぎ)の曹操を高く評価していることだ。
後漢王朝の衰弱のみならず、世の中の人びとと共に歩むべき政治家・軍人たちの道義が地に落ちきった時代にあって、曹操ほどひたむきに文・武の字義に違わぬよう生きる努力をした為政者が他にいただろうか
この本が脱稿される寸前に「曹操の墓を発見」というニュースが流れた。
ニセものでは?という論議もあるようだが、前の奈良文化財研究所長の町田章氏は、先日の読売新聞で「副葬品の銘文からも間違いないだろう」と書いている。
三国志ブーム再燃の気配である。
津和野から帰って、図書館で 「三国志談義」(安野光雅、半藤一利著、平凡社)を借りた。
安野 光雅 半藤 一利
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もっと三国志してるかと...2人が「三国志」の舞台となった黄河、長江流域の遺跡への旅を語りあい、曹操 、劉備ら英雄・豪傑や孔明、周瑜など軍師、謀将を人物評を採点し合うのがおもしろい。 三国志に出てくる「蟷螂の斧」 「豚児」 「涙をふるって馬謖(ばしょく)を斬る」 「死せる孔明、生ける仲達を走らす」などの名言至言についての半藤のうんちくもナルホドと・・・。
最後の章では、日本の俳句や川柳に読みこまれた名場面を解説しており「三国志」がここまで日本人の心のなかに溶け込んでいたのか、と感心させられる。
月刊・文藝春秋で、宮城谷昌光が「三國志」を連載している。先月号では、孔明が死去するところまで書き進められていた。先日、本屋をのぞいたら、すでに9巻目の単行本になっている。
宮城谷 昌光
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宮城谷版『三国志』は揚震からはじまる。文芸春秋で見かけて、最近ハマりました。
正史中心
三国志最高峰
これこそ次世代三国志
1冊ずつ、図書館で・・・。短い夏の初めに始まった"三国志逍遥"はまだながーく続きそうだ。
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