「デンマーク紀行」(20104・29-5.5)・下
デンマークから帰ってから、同行した友人Mが知り合いの骨董屋の亭主から、こんなことを聞いてきた。「あそこは"世界一美しい美術館"と言われているんです」
ルイジアナ現代美術館。デンマーク語とは思えないこの美術館の名前は、オーナーの妻の名から取られたものらしい。クロンボー城のあるヘルシオンの3つ手前のフムレベック駅から歩いて15分ほどの住宅地のなかにある。
ツタに囲まれた瀟洒な邸宅のドアーを押すと世界が一変する。ガラス張りの明るいロビーが広がり、大きなガラスと木の柱と天井でできた渡り廊下が直角に曲がり、曲線を描いて伸びていく。その向こうには、大木と芝生の庭園、スエーデンを臨むオアスン海峡の碧い海。
渡り廊下の曲り角に、そして池を臨む吹き抜けのガラス窓の脇に、ジャコメッティの作品がさりげなく置かれている。この彫刻家の作品は今年2月、ロンドンでのオークションで94億円もの高値で落札されたばかりだ。
美術館のホームページでは、広い展示場の真ん中に展示されている巨大な金色の親指像が、行った日はなぜか、人でごった返すカフエの片隅にデンと据えられていた。
渡り廊下が結ぶ建物は、庭と碧い海に溶け込むように建っている。大きな建物は地下に潜っている。5期にわたる拡張工事で一番大切にされたのは、周囲の環境との調和だった、という。
「デンマーク デザインの国」(島崎 信著、学芸出版社)という本には、この美術館について「池と踏み石や、庭木の配置なども、日本の建物と庭・・・から大きな影響を受けたと設計者自身が述べている」と書かれている。
そう言えば、渡り廊下から柳と笹の木越しに見えた庭の一隅。濃い緑のツタに埋もれた石柱の向こうにあった石像は、なにか"お地蔵さん"に似ていたような。
午前中の雨もやっと止んだ。庭園にあるヘンリー・ムーア・アレクサンダー・カルダー・イサム・ノグチの作品群をなんども巡回、大木を仰ぐ。入り江に降りる階段に座ってほおづえを突く。北海の時間が悠々と過ぎてゆく・・・。
帰りはバスに乗ろうと思って、つい大勢の人が待っていたのにつられてヘルシオンの街まで戻ってしまった。
おかげで約20分。デンマークのリビエラといわれる美しい海岸線を満喫。茅葺の屋根を載せたコテッジがいくつもあった。
朝の9時半すぎにアメリエンボー宮殿に着いたら、今は宝物展示室になっているクリスチャン8世王宮殿の前にもう観光客の長い列ができていた。
隣の宮殿にはデンマーク国旗が翻っていたから、現・女王が在宮しておられるということらしい。その隣の宮殿は国賓のレセプションルームとして使われ、もう1つは宮内庁。4つの宮殿が広場を囲んでいる。どこかの国とは大違いの簡素ぶりだ。
宮殿の周りを熊の毛皮帽をかぶった衛兵が巡回している。衛兵の赤い待機小屋をよく見ると、ハート型ののぞき穴があいている。これも、デンマーク・デザイン?
時間つぶしに近くのチャーチル公園を歩き、有名デザイナーのものらしいオフイス・チェアのショウルームをのぞき、デンマーク工芸博物館で午前11時の開館を待つ。デザイン専攻らしい3人の若者も自転車でやってきた。元は王立の病院だったらしい。
入って左側すぐのところが日本や中国の日用品展示コーナーで、寿司屋のノレンやヒノキの風呂まで並んでいる。デンマークのモダン様式デザインを創設したアルネ・ヤコブセンが生涯作り続けた簡素なチェアのコーナーや歩行者天国・ストロイエに本店のあるロイヤル・コペンハーゲンの作品群、細く長い木箱に保存されている精緻な刺繍コレクションの前で、デザイン好きの友人は動こうとしない。
アルネ・ヤコブセンといえば、コペンハーゲン滞在中に泊ったSASロイヤルホテル も、この人が1960年に設計し"デザイン・ホテル"と呼ばれる。20階建て、ガラス張りの高層ビルは市内のどこからも探せて、旅行者には便利だが、当時の市民は驚いたことだろう。
建物だけでなく、家具、照明、テキスタイル、ナイフやスプーンまでデザインしている。一階カフェにある皮張りの「セブンチェア」や筒型の「AJランプ」、最上階のレストランにある、体を包み込むような「スワンチェア」、ロビーの「エッグチェア」。いまだに作り続けられている逸品である。
「質素でも実り多い生活、自立のための福祉、木への愛着・・・」
先の本の著者、島崎 新・武蔵野美術大学名誉教授は、デンマークのデザイン力を支えるものとして、こんなことを挙げている。
そんな現場にふれられる機会が来る日を夢みつつ・・・。
ルイジアナ現代美術館。デンマーク語とは思えないこの美術館の名前は、オーナーの妻の名から取られたものらしい。クロンボー城のあるヘルシオンの3つ手前のフムレベック駅から歩いて15分ほどの住宅地のなかにある。
ツタに囲まれた瀟洒な邸宅のドアーを押すと世界が一変する。ガラス張りの明るいロビーが広がり、大きなガラスと木の柱と天井でできた渡り廊下が直角に曲がり、曲線を描いて伸びていく。その向こうには、大木と芝生の庭園、スエーデンを臨むオアスン海峡の碧い海。
渡り廊下の曲り角に、そして池を臨む吹き抜けのガラス窓の脇に、ジャコメッティの作品がさりげなく置かれている。この彫刻家の作品は今年2月、ロンドンでのオークションで94億円もの高値で落札されたばかりだ。
美術館のホームページでは、広い展示場の真ん中に展示されている巨大な金色の親指像が、行った日はなぜか、人でごった返すカフエの片隅にデンと据えられていた。
渡り廊下が結ぶ建物は、庭と碧い海に溶け込むように建っている。大きな建物は地下に潜っている。5期にわたる拡張工事で一番大切にされたのは、周囲の環境との調和だった、という。
「デンマーク デザインの国」(島崎 信著、学芸出版社)という本には、この美術館について「池と踏み石や、庭木の配置なども、日本の建物と庭・・・から大きな影響を受けたと設計者自身が述べている」と書かれている。
そう言えば、渡り廊下から柳と笹の木越しに見えた庭の一隅。濃い緑のツタに埋もれた石柱の向こうにあった石像は、なにか"お地蔵さん"に似ていたような。
午前中の雨もやっと止んだ。庭園にあるヘンリー・ムーア・アレクサンダー・カルダー・イサム・ノグチの作品群をなんども巡回、大木を仰ぐ。入り江に降りる階段に座ってほおづえを突く。北海の時間が悠々と過ぎてゆく・・・。
帰りはバスに乗ろうと思って、つい大勢の人が待っていたのにつられてヘルシオンの街まで戻ってしまった。
おかげで約20分。デンマークのリビエラといわれる美しい海岸線を満喫。茅葺の屋根を載せたコテッジがいくつもあった。
朝の9時半すぎにアメリエンボー宮殿に着いたら、今は宝物展示室になっているクリスチャン8世王宮殿の前にもう観光客の長い列ができていた。
隣の宮殿にはデンマーク国旗が翻っていたから、現・女王が在宮しておられるということらしい。その隣の宮殿は国賓のレセプションルームとして使われ、もう1つは宮内庁。4つの宮殿が広場を囲んでいる。どこかの国とは大違いの簡素ぶりだ。
宮殿の周りを熊の毛皮帽をかぶった衛兵が巡回している。衛兵の赤い待機小屋をよく見ると、ハート型ののぞき穴があいている。これも、デンマーク・デザイン?
時間つぶしに近くのチャーチル公園を歩き、有名デザイナーのものらしいオフイス・チェアのショウルームをのぞき、デンマーク工芸博物館で午前11時の開館を待つ。デザイン専攻らしい3人の若者も自転車でやってきた。元は王立の病院だったらしい。
入って左側すぐのところが日本や中国の日用品展示コーナーで、寿司屋のノレンやヒノキの風呂まで並んでいる。デンマークのモダン様式デザインを創設したアルネ・ヤコブセンが生涯作り続けた簡素なチェアのコーナーや歩行者天国・ストロイエに本店のあるロイヤル・コペンハーゲンの作品群、細く長い木箱に保存されている精緻な刺繍コレクションの前で、デザイン好きの友人は動こうとしない。
アルネ・ヤコブセンといえば、コペンハーゲン滞在中に泊ったSASロイヤルホテル も、この人が1960年に設計し"デザイン・ホテル"と呼ばれる。20階建て、ガラス張りの高層ビルは市内のどこからも探せて、旅行者には便利だが、当時の市民は驚いたことだろう。
建物だけでなく、家具、照明、テキスタイル、ナイフやスプーンまでデザインしている。一階カフェにある皮張りの「セブンチェア」や筒型の「AJランプ」、最上階のレストランにある、体を包み込むような「スワンチェア」、ロビーの「エッグチェア」。いまだに作り続けられている逸品である。
「質素でも実り多い生活、自立のための福祉、木への愛着・・・」
先の本の著者、島崎 新・武蔵野美術大学名誉教授は、デンマークのデザイン力を支えるものとして、こんなことを挙げている。
そんな現場にふれられる機会が来る日を夢みつつ・・・。
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多くの名作家具デザイナーを生み出した国を訪れる
デンマーク デザインの国―豊かな暮らしを創る人と造形
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島崎 信
学芸出版社
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心地よい・生活に密着したデザインを一考する上で、必須かも多くの名作家具デザイナーを生み出した国を訪れる
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