読書日記「小銭をかぞえる」(西村賢太著、文藝春秋) - Masablog

2008年12月 2日

読書日記「小銭をかぞえる」(西村賢太著、文藝春秋)

 なんとも風変わりな作家に巡り合ってしまった。

 すでに4冊の著作を出しているらしいが、すさまじい貧乏物語、底辺小説である。

 「格差社会」が社会現象になり、小林多喜二の「蟹工船」の復刊版がベストセラーになる風潮が背景にあるのだろうか。

 「私小説の救世主」とか「骨太な私小説作家」とか、呼ばれているらしい。

 略歴によると、著者は中卒ながら、いくつかの芥川賞候補作を書いている。一方で、藤澤清造という、昭和7年に東京・芝公園で凍死体として発見された破天荒な小説家にほれ込み、その全集(全5巻、別巻2)を個人編纂、刊行の準備をしている、不思議な人物。

 表題作の「小銭をかぞえる」では、この「藤澤清造全集」を刊行する資金を得るために、何人もの知人に金をせびりに回って罵倒されてケンカ別れする"私事"が延々と続く。

 そして、同棲している女性を「怒鳴りつけ、喚き散らし、半ば恫喝するように嘆願、押し問答を繰り返して何とか説き伏せて」その父親から借金をするのを承諾させる。

 しかし、借りることにした50万円のうち20万円は自分の小遣いにするつもりだった賤しい心根を見透かされ、大ゲンカをしてしまい、結局"小銭"すら手にすることができない。

 ケンカした女性とのことを著者は、こう結ぶ。
ひとりになった途端、自ら予期していたとおり彼女に対する憫然の情が激しく噴出してくるのである。但、それは先程の涙を浮かべてジャラ銭を漁っていた、女の惨めであさましい姿に、何か私自身のケチな稟性、もう腐っているのかも知れぬいがんだ性根を図らずも見たような寂しさを感じた故の、所詮は自己愛にすぎぬものだったかもしれいない


 もう1篇の「焼却炉行き赤ん坊」も、ぬいぐるみを溺愛する彼女ととのいさかいが悲惨な結末を迎える話し。

 読んだ後、ふと気づくのである。「著者の心情にひかれるのは、読んでいる自分自身がなんとか隠そうとしている自虐的な本性とそっくりなせいかもしれない」。私小説が、いつの時代もすたれないのはそのせいなのかと・・・。

  「あとがき」に、こうある。
「『小銭をかぞえる』は昨夏、八月に丸十日間を費やし、半ばヤケな了見でもってものにした。『焼却炉行き赤ん坊』は今年三月下旬から四月初めにかけ、寒いので主に布団の中で腹這いながら記したものである」「ともに発表の場も定まらぬまま・・・」


 著者の「どうで死ぬ身の一踊り」という本もおもしろいらしい。芦屋市立図書館のホームページで見ると、一般書架にあるようだ。この本を返しに行った時に借りてみよう。

   最近、読んだ その他の本
  •   「森の力」(浜田久美子著、岩波新書)
     著者は、精神科のカウンセラーを経て、木の持つ力に触れたことから森林をテーマにした著述業に転じた人。
     第1章は、幼稚園児を森で育てる「森の幼稚園」のルポ。森で野放しにすると「遊ぶときと落ち着くときの緩急がつけられるようになる」「森を利用すれば本当に大人が楽になれる」という話しが印象的だ。
     山梨県清里にあり、このブログでも書いた映画「西の魔女が死んだ」のロケハウスを管理している財団法人キープ協会も、週末や長期の休みを利用して、森を利用して幼稚園児を育てる活動をしているらしい。
     第5章には、我が家でも使っている「ペレットストーブ」用のペレット(間伐材などを2センチ前後の形に乾燥成形したもの)について「石油に代わるエネルギーとしての位置づけが明確にある」という記述がある。本当にそこまでいくかどうかは、いささか疑問だが「ペレットストーブ」は、なかなかいいものです。

     手入れ不足の森を再生し、外材依存の体質から、どう抜け出すか。この本は、森を蘇らせる様々な活動を紹介しながら、森の国・日本を見直す勇気を与えてくれる。


小銭をかぞえる
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西村 賢太
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4 洗練か堕落か
1 小銭を捨てた
4 なんとも言えない味わい


どうで死ぬ身の一踊り
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5 自棄糞文学の誕生
5 端正な文章
4 仕上がったら、ドメ男
1 厚顔な男に辟易した
4 私小説


森の力―育む、癒す、地域をつくる (岩波新書)
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5 森と人の共生で健やかになる




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