読書日記「朗読者」(ベルンハルト・シュリンク著、松永美穂訳、新潮文庫) - Masablog

2009年7月12日

読書日記「朗読者」(ベルンハルト・シュリンク著、松永美穂訳、新潮文庫)

朗読者 (新潮文庫)
朗読者 (新潮文庫)
posted with amazlet at 09.07.12
ベルンハルト シュリンク
新潮社
売り上げランキング: 128
おすすめ度の平均: 4.0
4 ある時代が生み出した皮肉な物語だった
5 ハンナはわたしだ、という作者の声が聞こえる
5 みんななんか変ですよ
5 映画を見た方へ
2 あるときは献身的で、あるときは退廃的


 14年前に発刊されたこのベストセラーの文庫本が品切れの人気だという。

 この原作が、このほどようやく「愛を読む人」として映画化・公開され、主演女優のケイト・ウインスレットが今年のアカデミー主演女優賞を数度のノミネートの後で獲得したのがきっかけらしい。
あの映画「タイタニック」で、レオナルド・ディカプリオと共演した22歳の若手が、その後結婚し、子どもももうけて33歳の円熟俳優として、主演女優賞にふさわしい演技を披露してくれた。

 映画を見た後、1階下の本屋に走ったが、入荷は1ケ月以降というチラシ。AMAZONも2-5週間かかるというし、図書館も70人待ち。ところが駅前の本屋で3冊並んでいたのをひょいと手にすることができた。

 舞台は、第2次大戦が終わって10数年後のドイツ。15歳のマイケルは、21歳年上のハンナと突然恋に落ちる。

 しかしハンナは、いつも不思議な行為に出る。

 
 ハンナは僕が学校で何を勉強しているかを知りたがった。・・・ギリシャ語やラテン語を聞いてみたいというので「オデュセイア」や「カティリナへの演説」の一節を読んだ。
 「あんたはドイツ語も習っているの?」
 「どういう意味?」・・・
 「読んでみて」
 「自分で読みなよ。持ってきてあげるから」
 「あんたはとってもいい声をしているじゃないの、坊や、あたしは自分で読むよりあんあたが読むのが聞きたいわ」


 
 一度か二度、ぼくは彼女に長い手紙を書いた。でもそれに対する反応はなく、どう思ったかと尋ねると、彼女は次のように答えるのだった。
 「あんたったら、またその話?」


 二人で自転車旅行に出たある早朝、ハンナにメモを残して外に出た。
 「おはよう!朝食を取りに行って、すぐに戻ってくるよ」
 そんな文面だった。ぼくが戻ってくると、彼女は部屋の中に突っ立ち、服を半分着た状態で、怒りに震え、顔面蒼白になっていた。・・・
 「触らないで」
 彼女はドレス用の細い革ベルトを手に持っていて、一歩下がるとぼくの顔をベルトで殴った。唇が裂け、血の味がした。メモはどこにもなかった。


 ある日、彼女は突然、姿を消した。

 ハンナが車掌をしていた市電の人事課をマイケルは訪ねた。
 
 彼女に、運転手の資格を取らせてあげよう、と提案したんだが、彼女は何もかも放り出してしまった


 9年後、大学の法学部生として法廷に傍聴に来たマイケルは、43歳のハンナに再開した。彼女は、戦時中に強制収容所の看守として働き、連合軍の空襲を受けた際に教会に閉じ込めたユダヤ人囚人を焼死させた罪で裁かれようとしていた。

 そして、ハンナが他の看守の罪をかぶり、無期懲役の判決を受けることになった直前に、マイケルはやっと気づいた。

 ハンナは非識字者(字が読めない)だったのだ。貧乏ゆえの"恥"という秘密を隠すために、ジーメンス者の職長という勧めを断って看守になり、市電の運転手を薦めらたばかりに、愛するマイケルの前から姿を消したのだ。

 そしてハンナ自身も、どんな罰を受けようとも「死んだ人は帰らない」ことへの"罰"も、深く心に刻んでいた。

 マイケルは、それを裁判長に告げることも、監獄にハンナを訪ねる勇気もなかった。
 代わりに、弁護士になったマイケルは、朗読したテープをハンナに送り続けた。それを聞くことはハンナにとって生きていくことの証しだった。
 ハンナは、字が書けるようになった。

 そして、ハンナが特赦で出所することになった前日、ハンナは首を吊って死んだ。もう、マイケルからの朗読テープは届かず、彼の愛も去ったことを知ったからだ。

 この小説には、もう一つのテーマがある。文中にこうある。

 
 ぼくたちの場合その親たちは、・・・ナチの犯罪に手を染めた者、それを傍観していた者、目をそらしていた者、あるいは一九四五年以降においても戦争犯罪を追及しないどころか、戦犯を受け入れてしまった者――そんな人間が、子どもに何を言う権利があるだろう。しかし、親を責めることができない子どもや責めたくない子どもたちにとっても、ナチの過去というのは一つのテーマだった。・・・ナチズムの過去との対決は世代間の葛藤のヴァリエーションではなくて、自分自身の問題だった。




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