読書日記「仕事道楽」(鈴木敏夫著、岩波新書)
宮崎駿著の「折り返し点 1997~2008」(岩波書店)という本と、この本は「まるであらかじめ企画されたように相補的な照応関係をなしている」。読売新聞の書評欄で分子生物学者の福岡伸一氏が書いているのを見て図書館に借り入れを申し込んだが、この著書が先に借りられた。
本の軸になっているのは、「もののけ姫」や「千と千尋の神隠し」などをヒットさせたプロデューサーの著者と、宮崎駿、高畑勲両監督との仕事を通じての葛藤ぶり。
「高畑・宮崎の二人との出会いは強烈でした」と、著者は切り出す。アニメ雑誌の記者だった著者は、二人ともっとつきあいたいと思い、そのためになんとしても「彼らと教養を共有したい」と思う。そのため、二人が言ったことを全部、ノートに書きまくる。分かれた後は喫茶店に入って、一生懸命思い出しながら抜けているところを埋める。家に帰って、もう一度ノートに書き写す。寝る時間は極端に減ったが、それを毎日続ける。「これをやらないと、この人たちと五分につきあえないと感じていたのです」
"取材記者″の基本と言ってしまえばそれまでだが、おかげで著者は二人の魅力に引きずりこまれ、スタジオ・ジブリのプロデューサーになってしまう。
二人には「この本読みましたか」と、よく聞かれたという。
高畑監督からは、ドナルド・リーチという人の『映画のどこをどう読むか」という本を教えてもらい、スタンリー・キューブリックの「バリー・リンドン」という映画のおもしろさを知り、目からうろこが落ちる。
宮崎監督には、中尾佐助の「栽培植物と農耕の起源」(岩波新書)のことを聞かれ、読んでないと言うと「無知ですね」とやられる。「日本の精神性と生活の基盤に・・・照葉樹林文化が存在する」とした」(福岡伸一氏)この本は「もののけ姫」などの発想につながっていく。
高畑監督が「おもいで」というアニメを制作する時のこだわりがすごい。
「おもいで」にとりかかった時に、NHK人形劇「ひょっこりひょうたん島」が雑誌で特集されており、高畑氏は、そのなかの2曲をどうしても聞きたいという。ところが、NHKの録画ビデオ、コロンビアのレコード、作曲家の自宅にも残っていない。しかし、高畑監督はあきらめない。そこで、いわゆる「マニア」の子に事情を話し、5日後に北海道の子が持っているのが見つかった・・・。
「おもいで」のテーマは、山形の紅花摘みがテーマ。監督は、紅花作りの現場を見に行き、資料を集めて1冊のノートを完成させる。これを読んだ米沢の紅花の達人が言う。「これはたしかに、いちばん正しいやり方だ」
紹介されているアニメ制作の職人気質のエピソードもおもしろい。
「となりの山田くん」の顔はやたらと大きく、二頭身。これをアニメに描くのは至難の業らしい。そこで、職人気質の二人が話しをする。「どうやって歩かせてる?」。まかされている職人は、2本指を足に見立てて動かせてみせる。「やっぱりそうですよねえ」。「なんか武芸者同士の会話みたい」と、著者はおもしろがっている。
ジブリには4つのスタジオがあるが、ちょっと離れたところに借りた一軒屋があり「力はあるが、時間がデタラメという人は、ここで仕事をしてもらう。一度は辞めたいと言ったある絵描きはここにおり、今回の「崖の上のポニョ」でもすごい力を発揮したらしい。
ジブリの作品が大当たりばかりだと、いささかやっかみ半分の批判も飛び出してくる。
文藝春秋10月号の書評欄には、宮崎監督の作品について″エコブームに悪乗り"めいた批評が載っていたし、雑誌「正論」の11月号にも「もののけ姫などに隠されているメッセージは『上の世代になにをされても恨むな』ということ」という、なんだかよく分からない評論が掲載されている。
しかし、技術者だけで1000人を越えるというディズニーからの提携の申し込みを断わり"町工場"に徹するスタジオ・ジブリの手法は、悩める日本の産業に大きな示唆を与えているように思える。
今年で、高畑監督73歳、宮崎監督67歳、鈴木プロデューサー60歳というシルバー軍団に、バンザイ!
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正直、鈴木さんは「やっぱり凄い人だな」と思った。
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