読書日記「インビクタス 負けざる者たち」(ジョン・カーリン著、八坂ありき訳、NHK出版)、「ジョン・ガブリエルと呼ばれた男」(イプセン原作、笹部博司著、メジャーリーグ刊) - Masablog

2010年3月16日

読書日記「インビクタス 負けざる者たち」(ジョン・カーリン著、八坂ありき訳、NHK出版)、「ジョン・ガブリエルと呼ばれた男」(イプセン原作、笹部博司著、メジャーリーグ刊)

インビクタス〜負けざる者たち
ジョン カーリン
日本放送出版協会
売り上げランキング: 3138
おすすめ度の平均: 5.0
5 映画がさらによくわかる
5 期待以上のおもしろさ

 

 最近、クリント・イーストウッド監督の映画は見逃さないようにしている。
新作の「インビクタス」も、友人のブログ「人生道場ー独人房」で取り上げていたこともあって、さっそく見に出かけた。
実話の映画化にしてはドラマチックな展開で、引き込まれる作品だった。「これだけのストーリーなら原作本があるはず」と図書館の検索ページで探し、すぐに借りることができた。

 映画は、南アフリカのアパルトヘイト政策に反対する運動を続けてきたネルソン・マンデラが初代黒人大統領に就任した1994年から1年間に焦点を当てている。
 一方、原作はマンデラがまだ投獄されていた1985年から南アフリカのラグビー・ナショナルチーム「スプリングボクス」が自国で開催されたワールドカップで奇跡的な優勝をとげるまでの10年間を、詳細なインタビューを重ねて描いている。

 終身刑に服して23年がたったとき、マンデラは当時の司法長官、コビー・クッツエーヲ味方にすることを決意、看守のクリント・ブラントとも親しく付き合う。独房の責任者ファン・シッテルト少佐もにこやかな笑顔で接し、ついに公邸で大臣との面会にこぎつけ、持ち前の笑顔とユーモア精神を駆使して自由への一里塚を築いていく。

 マンデラが大統領になった時は、内戦が起こってもおかしくない政情不安が続いていた。対立が続く旧勢力の白人「アフリカーナ」と国民の大多数を占める黒人との対立をなんとか避けるため、公式行事ではこれまでの国歌「ディ・ステム」と、黒人国民の非公式国歌だった「ンコシ・シケレリ」を同時に演奏することや、白人中心のラグビー・ナショナルチームの存続を必死の説得で認めさせる。

  マンデラはある時、こう語っている。
 スポーツには、世界を変える力があります。人びとを鼓舞し、団結させる力があります。・・・人種の壁を取り除くことにかけては、政府もかないません。


 そして「スプリンボクス」のキャプテン、フランソワ・ピナールを公邸でのお茶に招いて信頼関係を築き、前回のワールドカップチャンピオン、オーストラリア戦を前に練習中のチームをヘリコプターで激励に行く。
 この戦いは君たちが祖国に貢献し、国民をひとつにするまたとない機会です。


 フランス戦は豪雨に見舞われた。その日の試合が行われなければ、規定によりフランスが勝者になる。前の試合でラフプレーをし、一時退場処分を受けた選手がいたのだ。
 軍の兵士が必死で整備にとりかかると、軍のヘリコプターも応援にかけつけ上空からグラウンドに風を送った。が、その日の窮状を救ったのは、モップとバケツを手にした大勢の黒人女性だった。


 最終のニュージーランド・オールブラックス戦の開始直前、南アフリカ航空(SAA)のボーイング747機がスタジアム最上席のわずか60メートル上空に飛んできた。機体には「Go Bokke(がんばれ ボクス)」と書かれていた。市当局、民間航空局などが綿密な事前協議をし、規則の適用を一時的に停止させた結果だった。
 観客の衝撃は歓喜に変わった。


 マンデラがチームのユニホームを着て、グラウンドに立った。白人のアメリカーナが叫んでいた。「ネルソン!ネルソン!」

 この国がひとつになった一瞬だった。

 チーム全員が、相手チームの巨漢、ジョナ・ロムにタックルで襲いかかって倒した。しかし、こちらもトライができない。延長戦、ドロップキップでやっと勝てた。

 キャプテンがカップをつかむと、マンデラは自分の手をピナールの右肩に置いた。・・・「フランソワ、君がこの国にしてくれたことに、心からお礼を言います」
 ピナールはマンデラの目を見て答えた。「いえ、大統領。あなたに、あなたがこの国にしてくださったことに、心から感謝します」


   今月のはじめ「ジョン・ガブリエルと呼ばれた男」という芝居を見た。新劇を見るのは、何年ぶりだったろうか。

 ある雑誌の新聞広告のなかで、主演の仲代達矢が「運命の出会いをした作品に挑み、過酷な人生を生き抜く覚悟です」と書いていたのに引かれた。

 ネットに載っていた仲代の言葉を見て、さらに興味がわいた。
 舌を巻いた!あまりの面白さに!
 最初の一行を目にした。気がつくと最後の一行にいた。
 短い時間の間に、とてつもない高みにいた。
 目眩がした。体が熱かった。
 本を読んで、そう感じることなど、そうあることではない。


 図書館で探してもらったが、イプセン全集にもこの脚本は収録されていなかった。結局、演劇プロジューサー兼脚本家の笹部博司が書いた表記の本をAmazonで買った。
解説も入れて、たった160ページの薄い文庫本で、価格は400円+税。森鴎外の翻訳を参照して書かれた今回の公演の上演台本だった。

 あっという間に読めたが、その内容は?と聞かれるとウーン・・・。
巻末に載っている仲代の言葉が分かりやすい。
 裸一貫でたたき上げ、我儘に一生自分の夢を追い続けた男の物語である。
 そのことが自分自身も、周りのすべての人間をもどんどん不幸にしていく。
 でも人生を途中でやめるわけにはいかない。
追い込まれれば、追い込まれるほど、その男は、強く激しく夢を見る。
この男のように夢を見ながら死んでいければと思った。

   3月7日(日)、兵庫県立芸術文化センター・中ホールの公演を見に行った。最後列の席だったから、コンサートやオペラを見に行く時の大型双眼鏡は欠かせない。

「夢を生きる男」ジョン・ガブルエル・ボルクマンは、もちろん仲代。ガブリエルの妻で「憎しみに生きる女」グンヒルが大空真弓、グンヒルの双子の妹で、ガブリエルを愛しながら裏切られた「愛を売られた女」エルラは十朱幸代、台本には書記となっている「誰でもない男」フォルダルは米倉斉加年

 たった4人の登場人物の真摯なからみあいが小さな舞台を大きく見せる。美術(伊藤雅子)も、作品のイメージに合ってなかなかよい。

 劇場を出て、舞台を思い出しながら宙を浮くように歩く。芝居見物の醍醐味だろう。



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