読書日記「やさしいため息」(青山七恵著、河出書房新社刊)
この小説は、こんなトーンの文体に終止する。
風呂を沸かすあいだ、ベッドに腰かけ前かがみになって、膝の上に頬杖をついてみる。お湯が湯船にたまっていく音が聞こえた。頼りがいのある音だった。ほかほかの湯気の中をまっすぐに落ちていくお湯の柱が目に見えるようだ。数分後には、わたしはいい匂いのするあたたかいお湯の中にいる
昨年の芥川賞を「ひとり日和」(同社刊)を受賞した著者の第2作の購読申し込みを芦屋市立図書館にしたのは、朝日新聞の書評欄に作家の阿刀田 高がこんな文章を書いていたからだった。
小説家は"人が歩き、犬がほえ、車が走る"というただそれだけのことを書いても文章に巧みさが、おもしろさが光る、と私は信じているが、この作家の筆致には、それが漂って、読み心地がよい
OLである主人公のところに、4年間音信不通だった弟が転がり込み、姉の観察日記をつけ始める。しゃべる日常が、あまりに平凡、平穏なので、時々うそをまじえて話す。ただ、それだけのあらすじ。
もう少し引用してみる。
疲れていたけれども、まだ歩きたいと思った。そうやって歩いていると、わずらわしいものからどんどん遠のいていけるようで、生活がどうとか人生がどうとか、そんなことより何か陽気で楽しい考え事ができるような気がしてくるのだ
マグカップから、オレンジ色の液体が喉を通り、胸とお腹の境目くらいに流れ着く。上半身を揺らしてみると、そのあたりのなまぬるいところを冷たいものがさわっていく。冷たいものはわたしのなまぬるさを含んで、だんだん消えてなくなって、お腹の中が少し重い感じがするだけになる。わたしはジュースのことなど忘れてしまったように、もう次の行動を始めている。流しにたまったコップや皿を洗う。風呂を沸かす
分からないようで、分かるような感覚。阿刀田 高は書評で「40~50代の読者は『このヒロイン、なにを考えているんだ』と鼻白むかもしれない」と書いているが、60歳後半に突入したじじいの読後感は、そう悪くはなかった。
あえて言えば、こんな感じ。
淡いパステル画のちょっと引かれる展覧会をざっと見た昼過ぎ、レストランで季節野菜のパスタを注文する。いつもはフルボディの赤ワインだけど「今日は、軽めのグラスワインに。なんだか頼りないけれど、まあ、おいしかった」
ついでに、芥川賞受賞の「ひとり日和」も借りてみた。本館にはなく、打出分室の一般書棚に並んでいたのを、すぐに借りることができた。昨年の受賞作が、小さな分室に1冊しかなく、借りる人もなく書庫に残されているのは・・・。
東京の遠縁の老女の家に同居し、老女とそのボーイフレンドとなんとなく交流し、自分の恋人には、ふられたり、ふられかけたりする。時々、周りの人のつまらないものを盗んで、秘密の小箱にしまい込む20歳のOL。
著者によると、最後に自立へのきっかけをつかむから「ひとり日和」なのだそうだ。受賞決定の記者会見で、選考委員の石原慎太郎は「都会のソリチュード(孤独)が一種のニヒリズムに裏打ちされ・・・」と講評していたが、この作品にニヒリズムを感じるとは、さすが大作家。
図書館で「年をとって、初めてわかること」(立川昭二著、新潮選書)という、えらくたいそうな題がついた本を借りてみたらなんと、この本の選評が載っていた。
本表紙裏の著者紹介には「生老病死を追求する北里名誉教授」とあり、老いに関する小説を中心に論評している。
「ひとり日和」は、第六章「老若の共生」のなかにあり、こんな一節を引用している。
『あたしこんなんでいいと思う?』。吟子さんは答えなかった。静かな視線が、わたしの顔や、肩や、胸や足の上に筆を当てるように、順に動いていった。そのたびに、淡い色をのせられていくような感じがした
まもなく死んでいくものと、これから生きていかなければならないもの同士の淡く、温かい心のふれあい。
青山七恵
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『ひとり日和』の続編かも青山 七恵
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買いですが・・・。書き方が乱暴
海面はベタ凪でも、潮の流れは・・・
大して面白いとは・・・
淡々と‥4
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