読書日記「夜も昼も」(ロバート・B・パーカー著、山本博訳、早川書房刊)
先日、図書館(芦屋市立図書館打出分室)の司書ボランティアにでかけたら、この本が新刊本の棚に並べられているのを見てアレッ!と思った。
先月下旬、NHKが週末のBSでやっている「週間ブックレビュー」の「翻訳ミステリー・単行本10月月間ベストテン」コーナでこの本が7位に顔を出していた。「久しぶりにロバート・パーカー を読んでみようか」と思った矢先だった。
この人の著作に夢中になった時期がある。とくに「私立探偵スペンサー・シリーズ」は、いつもなぜか師走のこの時期(本棚に並んだ本の奥付を見ると、発行はほとんど12月15日になっている)に、書店に並ぶのを心待ちにして買ったものだ。
この本は、スペンサー・シリーズでなく「忍び寄る牙」以来の「警察署長ジェッシイ・ストーン」シリーズだ。
忍び寄る牙 ジェッシイ・ストーン・シリーズ (ハヤカワ・ミステリ文庫)
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ロバート・B・パーカー
早川書房
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訳者は"あとがき"で「スペンサーが陽となれば、ジェッシイは陰である」と書いている。
スペンサーは、ボクシングとグルメ、酒、そして美人の精神科医の恋人スーザンを愛する、とびっきりかっこいいタフガイ。それに対し、ジェッシイは「妻ジェンの浮気と離婚でアルコール依存症になり」「精神科医のカウンセリングを受ける(田舎の)警察署長」という設定だ。
ジェッシイは、一人でいる時は、わびしさ、さびしさだけを漂わす熟年男でしかない。
誰もいない部屋を見回し、(スコッチを)一口飲んだ。
「これがすんだら、次は何だ?」空っぽの部屋で声を出した。
彼は座ったまま、自分が今口にしたことを考えてみた。それからゆっくりうなずくと、かすかに微笑んだ。
「何もないさ。どうみても何もない」
「これがすんだら、次は何だ?」空っぽの部屋で声を出した。
彼は座ったまま、自分が今口にしたことを考えてみた。それからゆっくりうなずくと、かすかに微笑んだ。
「何もないさ。どうみても何もない」
しかし、警察署長の仕事に戻り、理不尽な事件に真正面からぶつかっていく正義感は、スペンサーそっくり。ロバート・パーカー独特のかっこいい文体、表現が、このシリーズでもたっぷり楽しめる。
ジェッシイが署長をしているボストン郊外、パラダイスの街の中学校で突然、女校長のベッツイが生徒たちのパンティ検査をして、親たちが騒ぎだす。
校長はしつけのためだと言い張る。校長の夫が地元の有力な弁護士であることもあって、地方検事はこの件から手を引くよう圧力をかけてくる。
しかし、署長は「子どもたちの人権を侵害したことが許せない」。女校長の説明をウソと見破り、本当の理由を知りたいと秘かに捜査する。
パンティ事件の直後に、女生徒の一人が「両親が街の人たちと、自宅でスワッピングをしている。辞めさせられないか」と相談に来る。
違法ではないのだが、その様子を嫌でも見ざるをえない女生徒や泣いて怖がる弟を"虐待"する親を署長は許せない。
そんな街に覗き魔が現れ、白昼、家に押し入り、主婦を裸にして写真を撮るまでにエスカレートする。
こうなると、りっぱな犯罪。署長は女性署員のモリイをおとりに覗き魔犯人を追いつめる。
女校長の事件は、浮気を続ける夫の関心を自分に向けたいためだと分かり、スワッピングを主催していた夫婦は離婚、母親に引き取られたこどもたちは救われた・・・。
著者のロバート・パーカーは、今年の1月に死去している。
いつものように朝食をすませ、妻が1時間後にジョッギングから帰ってみると、書斎の机にうつぶせになって死んでいた、という。77歳だった。
亡くなって1年近くなるのに、著作が出て来るのは原作と翻訳の"時差"がなせるわざでしかない。「夜も昼も」の後に、すでに3冊が売りだされた。
ジェッシー・シリズの最終作「暁に立つ」(早川書房刊)も、今日7日に発売されるようだ。
この15日。スペンサーシリーズの最新刊が書店に並んでいないだろうかと"夢"みてしまう。
ロバート・B・パーカーのすべてが分かる「ロバート・B・パーカー読本」(早川書房) 、追悼集の「ミステリー・マガジン 5月号」(同)も読みたくなってきた。「ミステリー・マガジン」の定価は840円。ところが、この号はAmazon経由で古書店から買おうとすると、3000円前後出さないといけない。
ロバート・パーカーの根強いファンが健在なことを改めて思い知った。
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