読書日記「三千枚の金貨 上・下」(宮本 輝著、光文社刊)
「最近の一押しは、宮本 輝のこの本。手練れの究極のワザを見る思い。結局は誰が真の主役か分からないように出来ているが、それぞれの登場人物が実に面白くかかれている」
昔、勤めていた新聞社の大先輩からこう伺って、さっそく本屋に走った。この本、まだほとんど広告も出ず、書評で紹介されていないのに、大先輩はどこで知られたのか・・・。
すごい読書家であるこの大先輩から紹介してもらった本が、しばらくたって話題になり、なんだかとても得をした気分になったことが幾度かある。
桜の木の根元にメープルリーフ金貨を埋めた。・・合わせて三千枚。
盗んだものではないし、何かいわく付きのものでもない。みんな自分が自分の金でこつ こつと買い集めたのだ。
場所は和歌山県。みつけたら、あんたにあげるよ。
男はそう言って、自分の病室に戻って行った。
盗んだものではないし、何かいわく付きのものでもない。みんな自分が自分の金でこつ こつと買い集めたのだ。
場所は和歌山県。みつけたら、あんたにあげるよ。
男はそう言って、自分の病室に戻って行った。
小説は、いささか荒唐無稽とも思える、こんな設定から始まる。
金貨を埋めたと語った芹沢由郎は、闇の世界を自らの力ではい上がり、支配してきたファイナンス会社の経営者。肝臓がんの末期と知った芹沢は、その秘密をじっこんにしていた女性の妹で看護師の室井沙都にしゃべったつもりだった。
しかし、室井は急患で席をはずし、モルヒネで意識がもうろうとしていた芹沢がしゃべった相手は、たまたま談話室にいた40代のサラリーマン、斉木光生だった。
5年前に聞いたこの話しを思い出した斉木は、同じ40代の仲間2人と30代の室井と語らって、宝探しを始める。そして、ついにその桜の木がある無人の農家を見つけ、購入する。
だが4人は、金貨を掘り出す夢を20年間、凍結してしまう。これから20年の間に、金貨以上に大切な宝物を見つけるために。
この物語は、金貨と闇の世界と熟年男女の絡み合いという筋を借りて、日本が歩んできた成長とこれからの衰弱、成熟を描こうとしたのかもしれない。
そのためか、話しの展開の合い間、合い間に、大人の美学を彩る豊潤な材料がちりばめられている。
斉木光生が幻想までみるほど満喫したシルクロード・フンザ、への旅・・・。
シャンパンの「ヴーヴ・クリコ」、ヘミングウエイが愛したダブルの「フローズン・ダイキリ」、「仄かに海草の香りがするシングルモルトのロック」(たぶん、アイラ島産?)・・・。
骨董店で見つけた伎楽天女の石像、水墨画、故郷の母が経営するこだわりの蕎麦店、指 物師の名人が作った菓子入れ、フォアグラのおかか和え、おでん屋でシメに食べる鯨の身 とコロが入った餅・・・。
そして、いささかへきえきするが、ゴルフについてのあくなきうんちく・・・。
斉木光生は、こう語る。
「人生って、大きな流れなんだな。平平凡凡とした日常の連続に見えるけど、じつはそうじゃない。その流れのなかで何かが刻々と変化している」
ところで、読み進むうちに著者の誤謬ではないかと思われる箇所を見つけた。
小説の冒頭では、秘密をもらした男は「自分の病室に戻って行った」と書かれている。
とろが終わりに近い箇所ではこんな記述がある。(看護師の室井沙都が)「やっと談話 室に戻ると、斉木光生はいなくて、芹沢由郎だけが車椅子に座っていた」
これは、小説が連載されていた雑誌「BRIO」(光文社)が突然、休刊になったためのちょっとした校正ミスなのか、それとも著者の読者に対する「ちゃんと読んだかい」という問いかけなのか・・・。
ここまで書いて、パソコン机の脇に同じ著者の「にぎやかな天地 上・下」(中央公論 新社刊)が読んだ後、横積みしたままだったのに気づいた。
にぎやかな天地〈上〉 (中公文庫)
posted with amazlet at 10.08.09
宮本 輝
中央公論新社
売り上げランキング: 71422
中央公論新社
売り上げランキング: 71422
おすすめ度の平均:
ステレオタイプの権化しっかりした展開で一気に読ませるが、ラストが...
発酵食品と人間関係の不思議
新刊が出ると必ず読む
発酵食品に付いて学べます
にぎやかな天地〈下〉 (中公文庫)
posted with amazlet at 10.08.09
宮本 輝
中央公論新社
売り上げランキング: 70239
中央公論新社
売り上げランキング: 70239
おすすめ度の平均:
連綿と繋がる生死にぎやかな発酵!?
本年のベストワン
勤めていた出版社がつぶれ、非売品の豪華限定本制作で生計をたてている船木聖司は、スポンサーである謎の老人・松葉伊司郎から日本伝統の発酵食品の本を作りたいと依頼される。
滋賀県高島町「喜多品」の鮒鮓、和歌山県新宮市「東宝茶屋」のサンマの熟鮓、同県湯浅町「角長」の醤油、鹿児島県枕崎市の「丸久鰹節店」。聖司が取材をした発酵食品の名店はすべて実在の老舗。著者自身が取材を重ねたところらしい。
祖母が育て、母親が受け継いだ糠床のレシピがすごい。「昆布茶の粉末、いろこの粉末、鮭の頭、和辛子、鷹の爪、残ったビール、魚や野菜の煮汁・・・」
鹿児島の「丸久鰹節店」で、夫人に勧められた木の椀に入ったお汁。「削った鰹節に熱湯を入れ、ほんの少し醤油をたらした」もの。「これにとろろ昆布を入れたら・・・」
今晩やってみようか、と思う。しかし、気づいたら、小袋に入った花ガツオはあっても 鰹節がない、鰹削り箱がない・・・。
コメントする
(初めてのコメントの時は、コメントが表示されるためにこのブログのオーナーの承認が必要になることがあります。承認されるまでコメントは表示されませんのでしばらくお待ちください)