ウイーン紀行②「ドウナ川、そしてクライン・ガルテン」 - Masablog

2009年9月 6日

ウイーン紀行②「ドウナ川、そしてクライン・ガルテン」



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世界遺産「ウイーン歴史地区」の中心にある「リングシュトラーセ(環状道路)」の沿道には、様々な時代の建築様式の建造物が並び、まるで歴史博覧会のパビリオン群のようだ。

 市役所は中世の都市の自治を象徴するゴシック様式、国会議事堂は民主主義の原点・ギリシャにならって新古典様式、ウイーン大学は文藝復興にふさわしいルネサンス様式バロック様式がいかめしい旧陸軍省(政府合同庁舎)。この建造物群は、その建築様式の時代に建造されたものではない。皇帝フランツ・ヨーゼフⅠ世の命令で19世紀の半ばから城壁(市壁)を取り除いて次々と造られ、ちょっと、特異な都市景観を形づくっているのだ。

 この建造物を楽しむには、リングを回るトラム(路面電車)に乗るのが、手っとり早い。ウイーン大学の前をトラムがぐっと右に回ると、すぐに川にぶつかる。
「ドナウ川の向こうは、中心街と違って近代的な建物が多いですね」。ゲストルームをお借りしているパン文化史研究者、舟井詠子さんに、いささかトンチンカンだった問いかけをしたら「あれはドナウ川でなく、ドナウ運河」と。観光客も、よく間違えるらしい。さっそく、ほんもののドナウ川を見に連れて行ってもらった。

 夕方、街の中心・カールスプラッツ駅地下ターミナルで待ち合わせ、地下鉄U1に乗って10番目の駅・ドナウインゼル(ドナウ島)駅で途中下車する。2つの川の間に、中州(ドナウ島)があり、そこにかかっている橋の上に地下鉄の駅と歩道橋がある。

 川の1つは、洪水対策のために、20世紀後半に約10年をかけて掘られた全長20キロの放水路・ノイエドナウ(新ドナウ)川。島の森越しに見えるのが、ドナウ川本流。ドイツ南部の泉に始まって東欧10か国を流れ、世界遺産ドナウ・デルタ にそそぐ国際河川だ。教会の下に国際航路の大型船が停泊しているのが見える。

 長さ21キロもあるという中州、ドウナ島に降りてみる。広い公園があり、中国系らしい人たちが草地に座り込んでトランプを楽しんでいた。ここは、アジア、トルコ系の人たちのたまり場になっているらしい。
 この中州は長い間、川土を積み上げた荒地だったようだが、今では川辺に水草が繁り、生物が生きられるビオトープとして生き返っている。

 再び地下鉄に乗り、2つ目のアルテドナウ(旧ドナウ川)駅で降りる。IAEA(国際原子力機関)などが入っている国連都市(UNOシティ)のビル群を右に見ながら左折、大きな橋を渡り切って、アルテドナウの河畔に出た。

 アルテドナウは、19世紀末の治水工事でドナウ本流から切り離されて、ドナウ川の東端にできた約160ヘクタールの三日月型の湖。今ではウイーン市民の最大のレクリエーションの場になっている。
 もう午後の7時前というのに、ヨットがいくつも浮かび、艇庫からカヌーを運び出す人がおり、河畔で憩う水着姿の人、水に飛び込んで抜き手で泳ぐ人・・・。湖畔では、以前はヌーディストクラブだったという庭園でバーベキューを楽しむ風景が見られ、水辺のいくつものレストランも火曜日の夕方というのに大盛況だ。

 ぜひに、とお願いして、湖畔にある「クラインガルテン」をのぞかせてもらった。クラインガルテンはドイ語で「小さな庭」という意味。市民が公共団体から300平方メートル前後の小屋付き農園を借り、週末に野菜づくりを楽しむ。日本でも少しづつ普及しており、私も兵庫県下にあるクラインガルテンまがいの貸農園2か所ほどを借りたことがある。

 しかし、ウイーンのクラインガルテンは少し様子が違う。車の乗り入れを禁止した路地の両脇にある敷地に野菜畑は一つもなく、すべて整備された芝生と木々、季節の花であふれている。寝椅子でくつろいでいる老人や、アルテドナウで泳いできたのだろうか、バスタオルを身体に巻いたまま花の世話をしている女性の姿が垣間見える。ラウベと呼ばれる住宅も小屋と呼ぶのにはほど遠いりっぱなものばかりだ。なかには、敷地を買い取って地下室まで作った"別荘"もあるようだ。

 ネットサーフインをしてみると「調査した300区画のなかで、菜園らしいのは1区画しかなかった」という報告「州法の改正で、規制がなくなったことが生んだウイーンの特異性」というレポートもあった。ウイーンの市民が、クラインガルテンの快適性を追求して勝ち取った権利なのだろう。

   ヨハン・シュトラウスの「美しく青きドナウ」で歌われる歌詞は次のように始まる。(「横顔のウイーン」=河野純一著、音楽之友社刊より)
  いとも青きドナウよ
  谷や野を越えて
  静かに波うちながら流れていく
  わがウイーンはお前に挨拶する
  銀色の流れは国々を結びつけ
  喜ばしい心が美しい岸辺ではずんでいる


 アルテドナウ河畔やクラインガルテンで、ウイーンの人たちの気持ちがウインナーワルツに乗ってはずんでいるのが見えてくるようだ。

 川の水が「青きドナウ」から程遠いのが、ちょっぴり残念だが・・・。



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