読書日記「ブータンに魅せられて」(今枝由郎著、岩波新書) - Masablog

2008年7月 3日

読書日記「ブータンに魅せられて」(今枝由郎著、岩波新書)

 
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 「ブータンって、どんな国?」。友人Mに聞かれ「国民総幸福(GNH)を国家の理念にしていて・・・」とまで言って、それ以上答えられなかった。

 ちょうど、ブータンが今年から国民の多くが望んだ国王親政を国王自らが廃止し、立憲君主・議会民主制に移ろうとしている一方で、隣国ネパールでは議会が王制廃止を決め、国王が王宮を追われるニュースが流れた。

 そんな時に、この本を書店で見つけた。チベット仏教を学んだ著者は、鎖国状態にあったブータンに5年がかりで入国し、たまたま国立図書館顧問に就任したことから、10年もの長居をして、この国の魅力に取り付かれてしまう。

butan.jpg そして、第4代国王ジクメ・センゲ・ワンチェック=写真=の信任を得て、国王の人柄を忠実に反映したブータンの近代化を体験する。

 GNHを提唱する第4代国王政治の特色は「開発は必須だが、伝統文化や生活様式を犠牲にはしない」ということ。

 1980年代初め、観光政策の一環として登山が解禁された。7000メートル級の未踏処女峰が世界の登山家の垂涎の的となった。登山のポーターとして農民が駆り出された。しかし、農民たちは国王に直訴した。「仕事もない人たちのために、わたしたちの仕事ができません」。登山永久禁止条例が作られた。

 インドに輸出され、国家歳入の40%を占める水力発電も、巨大なダムを建設して村落が水没したり、生態系に危害がおよんだりすることがないよう、川の流れの落差を利用したものしか建設されない。

 衆愚に近くなってきたどこかの島国大国の民主主義に比べ、1本筋が通った国家の運営の見事さに感銘させられる。

 もう1冊。同じ著者が訳した「幸福大国ブータン 王妃が語る桃源郷の素顔」(ドルジェ・ワンモ・ワンチェック著。日本放送出版協会刊)を図書館で借りた。

 副題にあるように、著者は、4代国王ジクメ・センゲ・ワンチェックの王妃。

 ブータンの冬の首都だったプナカ県の小さな村に育った王妃は、自然と人間が共生する桃源郷の姿を生き生きと描きだしている。

 ブータンの近隣諸国では森林が伐採され、地下資源の採掘で空気が汚染されているのに、ブータンでは、40年前には国土の5割以下だった森林面積が72%にまで増えた。

 虎、雪豹、サイ、レッサーパンダ、オグロヅル 、アカエリサイチョウ、ニジキシといった世界では絶滅が心配されている動物たちも快適な生息地で繁殖している。

 海外から来た旅行者は、ブータンの澄んだ空気と透き通った河川の水に目を見張る、という。

 ブナカ・ゾンなど、自然と調和した白亜の城塞や動物、植物などの多様性を実感できる王立マナス自然公園、温泉での湯治など、王妃はブータンの魅力を誇らしげに語る。

 世界各国では、環境保護の法律や規制があるのに環境が破壊されているのに、ブータンでは自然が守られているのは、ブータン仏教の教えに根ざした価値観が打ち立てられているからだという。

 日本には伝来しなかったブータン特有の仏教は「生きとし生けるものを敬う」ために、食べるために動物を殺すことに強い抑制が働くし、木、森、山、川、湖、岩、洞窟などの自然に神が宿っていると信じられている。

 王妃は、ブータンという国を有名にした「国民総幸福(GNH)」という指針も、仏教的人生観に裏打ちされたものだと、話している。

 GNHは、どんな指標を集約したものかと、著書「ブータンに魅せられて」でも探しまわったが、具体的な記述がない理由が分かった。GNHとは、ブータンの人たちの生き様を現したものなのだ。

 「国民の約97%が幸福と感じている」。2005年の国勢調査で、こんな信じられないような結果が出たのもうなずけないではない。

 もう1冊。ブータンのことを少し書いた本「太古へ ニュージランドそしてブータン」(辰濃和男著、朝日新聞社刊)を、本棚で見つけた。

 ブータンの項は青いけしを見つけに行く話しだが、ガイドとの間でこんな会話が交わされる。
  「このごろ野犬がふえました。でも犬は殺しません。仏教の教えです」

  「牛や鶏は」「殺しません」「蝿は」「殺しません」

 「でも肉は好きでしょう」「大好きです」

  「そこが問題ですね」「そこが問題です」

  「ですから、私たちはヤクの肉を食べます。輸入肉も食べます」


 最近、読んだ本

  • 「月の小屋」(三砂ちづる著、毎日新聞社)

     リプロダクティブヘルス(女性の保健)を中心とした疫学という専門分野で国際的にも活躍した津田塾大学教授が、初めて書いた短編小説。

     ラジオの著者インタビューで知ったが、最後の「小屋」がおもしろい。

    年頃になった娘は昔、月経小屋に入る習慣があった。そして、母親や地元の老女から女性の体やセックス、出産の不思議さについて実地教育を受ける。67歳の独居老人が、これまで知らなかった世界を知る気品ある作品。

  • 「オニババ化する女たち 女性の身体性を取り戻す」(同、光文社新書)
    同じ著者が2004年に書いたベストセラー。

    「このままだと、女性の性と生殖のエネルギーは行き場を失い、女性は総てオニババ化する」と予測する怖い本。


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今枝 由郎
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3 GNHの秘密には迫り切れていないかな・・
4 仏教が生活と一体化した国の奇妙な日々
5 豊かさとは? 人間らしさとは?

幸福大国ブータン―王妃が語る桃源郷の素顔
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オニババ化する女たち 女性の身体性を取り戻す (光文社新書)
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2 オニババとは?
4 力のある本だとおもいます
5 実感を言葉に紡ぐ過程
5 一本の糸で繋がりました!
5 必要な声だと思う


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