読書日記「永遠の0=ゼロ」(百田尚樹著、太田出版)
今年の春ごろだったと思う。
NHKラジオの朝の番組で、俳優の児玉 清が、この本を絶賛していて、買ってみようと思った。ところが、大阪の大型書店を何回回っても見つからない。そのころは、図書館に行く習慣がなかったし、どんな内容か見てからと思ったから、アマゾンなどに注文する気にもならなかった。
ところが、1カ月ほどして旭屋書店に入ったら、正面の棚にこの本が横積みされていた。児玉 清の推薦文を載せた帯封まで付いていた。
「深まる謎、胸えぐるストーリー・・・この物語に、僕は本物の“大人の愛”を見た。迫真のミステリー、最高のラブロマンス、心揺さぶられる一冊!」
なんと大げさなと思ったが、読み出したらやめられなくなった。
書名の「0=ゼロ」とは、旧日本空軍の名機と言われた零戦のことだった。
「生きて妻のところに帰る」と言い続けて、仲間から「卑怯者」と蔑まれいた零戦パイロット。その主人公について、孫である姉弟が元戦友たちを訪ねて証言を得ていくうちに、祖父が凄腕のパイロットであり、生に執着しながらも部下を救うために特攻に志願して死んで行く事実が明らかになっていく。
このなかで、零戦という戦闘機の技術水準のすごさや、ラバウル、ガナルカナル、レイテなどの戦局で見せた日本空軍の戦略の甘さ、軍組織、それに追従したマスコミの愚かさなどが、あきさせないストーリー展開のなかで克明に描かれていく。
後半は一変。児玉 清の言う「迫真のミステリー、最高のラブロマンス」。
戦後、残された妻は、だまされてやくざの囲いものになっていたが、その別宅に知らない若い男が乗り込み、そのやくざを殺し、苦界から救ってくれる。戦死した夫の元部下らしい。
主人公に救われた別の元部下は、その恩義に報いようと元上官の妻に尽くす。しかし、次第にその人を愛するようになり、苦しむ。そして「あなたは、夫の生まれ変わり」という言葉に救われて再婚する・・・。
本の紹介では、著者の百田尚樹は「現在、放送作家」となっているが、朝日放送の「探偵!ナイトスクープ」などの番組を構成した人。小説としては、これが第一作。第二作が待たれた。
今週の初めに、また児玉 清がラジオで同じ著者の「聖夜の贈り物」(太田出版)を紹介していた。
図書館に行ったが、未購入。駅ビルの本屋で買ってしまった。
帯封には、こうある。
「恵子はクリスマス・イブに、長年勤めてきた会社から解雇を言い渡された。人のことばかり考えていつも損をしている恵子は、この日もなけなしのお金を、ホームレスにめぐんでしまう。ホームレスは『この万年筆で願いを書くと願いが三つまでかなう』と言って一本の鉛筆を恵子に渡すとニヤリと笑ったのだが・・・。5人の女性たちをめぐる心揺さぶるファンタジー」
小B6版、ちょうど200ページの短編集。それにしても、第一作に比べると、あまりに軽いタッチだ。
作者自身、あるブログに「『永遠の0』に比べると、随分甘い物語ですが、クリスマスのお伽噺として大目に見てください」というコメントを寄せている。
図書館の近くの小さな喫茶店で、上原寛一郎という人の「クリスマス・グラフイティ」という写真展をやっていた。
「なるほど、サンタの贈り物か?」。聖夜の贈り物など期待できない65歳のじじいは、サンタの写真を見ながら、この本の世界を楽しんだ。
百田 尚樹
太田出版 (2006/08/24)
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我らの祖父・祖母たちの、過酷で、それゆえ美しい…“青春”
特攻隊を正面から見据える力作
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大人のためのファンタジー
コメント
まり さま
カラヴァッジョに続く、すばやいコメントをありがとうございます。
「永遠のゼロ」についての的確なコメントに参りました。私のブログより、よほどこの本へのコメントになっている!
コメントに書かれた伯父さんと伯母さんのこと、聞いたことがあるような・・・。問題は、育った息子のグータラさですね。あの二人、少しはましな生き方をしていればよいのですが・・・。
それより、二人の息子を産んだ後、一回り以上下の姉妹を産まれ、この世にいっぱい幸せを残されたその伯母さんの妹さんのすごさに思いをはせています。
masajii
Posted by 土井雅之 at 2008年6月16日 20:31
調べる祖父の評価が証言者ごとに変わっていく。姉弟と一緒になって祖父と言う人にぐんぐん惹かれて読み進みました。多くの優秀な若い人を失ったことに無念を感じ、残された家族の戦後の生活に思いを馳せ、軍部はこんなにも愚かだったのかと、改めて憤りを感じながら読みました。女の立場からすると、二人の素敵な男性から愛された祖母はどんな人だったのかとも思いました。従軍軍医で戦死した伯父と、戦後女手一つで息子二人を育て上げた伯母のことを思いました。
「聖夜の贈り物」は、いくつになっても楽しめますね、こういうファンタジー
Posted by まり at 2008年6月16日 18:20
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