読書日記「中国を追われたウイグル人」(水谷尚子著、文春新書)
1か月ほど前、本屋漁りをしていて、ふと目を引かれたのが、この本。目次に「イリ事件を語る」とあるのを見てエット思った。
前回、書いたように「中国・シルクロードウイグル女性の家族と生活」という本のあとがきに、編者の岩崎雅美さんは、国を持たないウイグル人と中国政府との衝突について触れられている。
「中国を追われたウイグル人」という本を見て、この、あとがきを思い出した。
9月の中旬に天山北路のツアーに参加した時は、そんなことはまったく知らず、イリの街ではカワプ(羊肉の串焼き)や野菜などを揚げる屋台の賑わいを、周辺の山や草原では、羊や牛を放牧するウイグル族の牧歌的な生活の観光を楽しんできた。
しかし、まったく無知だったが、郷愁漂うシルクロードが走る中国・新疆ウイグル自治区はウイグル人の祖国だったのだ。この"祖国"を彼らは、東トルキスタンと呼ぶ。
歴史年表によると、1933年に続き、1944年にも東トルキスタンは独立をはたしたことがある。しかし、いずれもソ連の介入や中国政府による占領で、短命に終わっている。
しかし、イリを中心に祖国を持たないウイグル人の反政府、独立運動は続発し、中国政府による弾圧も続いているらしい。
この本は、この独立運動に関与したと見なされて、海外に亡命したり、投獄されたりしているウイグル人たちの実情を記録したものだ。
圧巻は、世界ウイグル会議議長として、ウイグル人の人権擁護活動をしている在米ウイグル人女性、ラビア・カーディルさんへのインタビューだ。
ラビアさんはアルタイ生まれ。中国共産党の軍隊が「東トルキスタン」を占領した際、母、弟妹とともにトラックに乗せられ、タクラマカン砂漠に置き去りにされた。大変な思いで砂漠を抜け出した後、自らの才覚で中国十大富豪の一人と呼ばれるようになり、中国共産党関連組織の要職まで務めた。
だが、江沢民を前に反政府演説をしたのをきっかけに、その地位と財産を奪われて6年間投獄されたが、欧米の人権団体の擁護などもあり、米国に亡命した。
この11月にはアムネスティ・インターナショナルの招きで来日、各地で講演している。11月10日付け読売新聞によると、ラビアさんは「ウイグル族の若い女性が沿岸都市に安価な労働力として強制移住させられている」「政治的迫害を受けて中央アジア諸国に逃亡したウイグル族が中国に強制送還されて投獄されている」など、中国の人権侵害の実態を訴えた。
この本では、こんなエピソードも紹介されている。
「2000年6月、日韓共催サッカーワールドカップで、トルコ対中国戦がソウルのスタジアムで行われた際、世界中のウイグル人が興奮し目を疑い、快哉を叫んだ。中国のゴール裏に広げられた巨大な東トルキスタン国旗(トルコ国旗の赤い部分を青にした旗)が、中継画面に何度も映し出され、全世界に配信された。実況中継のため中国でもそのシーンをカットすることはできなかった・・・」
ただ、この本の著者である水谷尚子・中央大学非常勤講師は「序にかえて」で「ウイグル人亡命者の口述史をまとめる作業は、まるで平均台の上を歩かされているような感覚である。彼らの『語り』は、傍証となる資料を探すことがほぼ不可能で、客観的検証が非常に難しい・・・」と、書いている。
私もこのブログを、その他の本やWEB検索資料で書いている。出所を確かめる作業はまったくしていないが、無責任な記述が許される「おたくメディア」だからと、自分を納得させるしかない。
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中共政府による少数民族弾圧の実態
アジアにおける「人権」を問う
参考文献:「もうひとつのシルクロード」(野口信彦著、大月書店)=岩崎先生からの寄贈
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コメント
向野 兄
思いもよらない方からコメントが飛び込んできました。東京でしょう。
コメント、公開にしてしまいましたが、ご都合が悪ければ、非公開にします。言ってください。
おもしろい本をよみますね。おもろそうで、難しそう・・・。さすが、向野兄らしい
選択です。
また、おひまな時に、本のこと、教えてください。
初孫のうまれたmasajii
Posted by masajii at 2008年1月13日 20:41
土井さん、お元気ですか。早速、ブログにやって参りました。面白いです。こんなに土井さんが雄弁な方だったなんて・・・(なんて怒られますね)。なんせ、僕が経済部に来たときの部長さんですもん。雲の上の方なので、そんなにお話をしたこともないので当然ですね。さておき、僕も土井さんに触発されて本を読むことにしました。忙しいだの何だのと理由を付けては読者から離れて十数年が経っていたもので。今読み終えたのは、岩波新書「悪役レスラーは笑う」。ドキュメンタリー作家の森達也さんが書かれたものです。当初はテレビ向けの企画だったそうですが、お蔵入りになりそうになってしまい、それならば映像ではなく活字で、という流れで出版されたとのことです。内容はグレート東郷という日系プロレスラーの出自を探りつつ、戦後の日本におけるプロレスの意義を検証したものです。ただ、その出自を探る作業は、結局、客観的な検証の裏付けを得ることができずに終わります。でも、その過程がドキドキはらはら、何とも読ませる仕上がりになっています。このコラムの最後の下りを読むにつれ、難しい問題の取材って本当に難しいのね、という思いを改めて感じた次第ですが、同時に、そこであきらめずに突き進むことの大切さを学びました。僕も土井さんにならってこの本を読もうと思います。今後もまさじいずブログ読まさせて頂きますが、まさじいって、まさ爺ってこと?土井さん、おじいちゃんなんて似合いませんよ(笑)。土井さんは永遠の若大将ですもん。では、また。
Posted by 向野晋 at 2008年1月13日 17:48
ki様。コメントありがとうございます。当面は、旅は休み。読書日記を続けるつもりです。おもしろい本があれば、ぜひお教えください。一層のご教示を。
masajii
Posted by masajii at 2007年12月14日 08:44
ITオンチがもたもたしながら、3度目の入力です。うまくいきますように。
貴兄が奥様をなくされながら、人生を楽しんでおられる様子。うらやましく思います。当方も、種々、楽しめる条件はそろっているはずなのに、納得しかねる毎日で、見習いたいもの。シルクロードをさらに西にローマまで、旅の記録を読ませてもらえると嬉しいね。続編、楽しみにしています。 KI
Posted by 市原 賢 at 2007年12月13日 23:22
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