「マイクロソフトでは出会えなかった天職 僕はこうして社会起業家になった」(ジョン・ウッド著、ランダムハウス講談社刊
マイクロソフトで、マーケティングが専門のエグゼクティブとして裕福な暮らしをしていた34歳の米国人男性である著者が、なぜ高年俸も恋人も捨てて、発展途上国のこどもたちに本を届けるNPO「ルーム・トウ・リード」を立ち上げたかを語る、ドキュメンタリー。
きっかけは、休暇で訪れた小学校で見た、本が一冊もない図書館だった。「あなたはきっと、本を持って帰ってきてくださると信じています」。校長の、この一言が「僕の人生を永遠に変えることになった」と、著者は書く。
そして、カトマンズに戻ってすぐ、ネットカフェから100人以上の人に「人生で最高のセールストーク」のメールを送信。それで集まった37箱、総重量439キロの本をロバ8頭で届ける。
こうしてスタートした「ルーム・トウ・リード」は、1992年に設立以来、英語の児童書140万冊以上を寄贈しただけでなく、学校287校、図書館3540カ所、コンピュータ教室と語学教室117カ所を建設、2336人の女子児童に長期奨学金を提供、途上国に教育インフラを提供する大きなプロジェクトを推進している。
対象も、ネパールからベトナム、カンボジア、インド、ラオス、スリランカ、南アフリカ、ザンビアまで広がった。
ジョン・ウッドは、無償の慈善行為と思われていたNPOに、マイクロソフトで学んだビジネスモデルを次々に導入していく。運営コストは極力押さえる一方で、活動に使った出費は詳細に報告、優秀な人材を有償のフルタイム・スタッフとして確保する。ある男性から「大きな寄付をしても、光熱費や家賃になるのか。自分のお金の使い道がまったく分からない」と、言われたのがきっかけだった。
大口の寄付をした知人から、こんな評価を得る。「活動の結果がとても具体的。8000ドル集めれば学校が1つ、1万ドルなら図書館のある学校を1つ建設できる。寄付と成果の関係が分かりやすくて、説得力がある」。
このビジネスモデルのもう一つの特色は「チャプター」と呼ばれる資金集めのボランティア拠点をニューヨーク、サンフランシスコ、ロンドン、東京など世界各地に立ち上げたことだ。
ジョン・ウッドに届くメールを見て「たくさんのホワイトカラーが、自分の才能と情熱の一部をどうすれば社会に投資できるかを考えている」と気付き「21世紀のカーネギーとは、関心の高い世界中の市民のネットワークのことだ」と確信した結果だった。
著者は、このNPOの活動を通じて、こんな人生の高揚感を手にする。「ずっと探していたものを見つけたんだ。意義があって、自分が情熱を持てる仕事を。毎朝ベッドから飛び起きてオフイスに直行し、今日はどんなことが起こるだろうかとわくわくする。こんな贅沢は世界中を探してもほとんどないよ」。
「社会起業家」という言葉を始めて耳にしたのは、もう10数年前になるだろうか。大手エネルギー会社のSさんから、確かロンドンだったと思うが、出張のついでに、社会起業家を調査したレポートをもらったことがある。本棚を探してみたが、どうしても見つからない。
ただ長年、経済記者をしてきて「企業のあり方が、ここまで変ってきたのか」という鮮烈な印象を受けたことを記憶している。
本棚から、以前に読んだ「社会起業家―社会責任ビジネスの新しい潮流―」(斎藤 槙著、岩波新書)を、引っ張り出した。
作者は、ロサンゼルスに住みながら、企業の社会的責任(CSR)や社会投資責任(SRI)をテーマにしている女性コンサルタント。
「現代の社会起業家は、働くという行為を単に収入を得る手段としてだけでなく、自己実現の場と考えている」と書き、一般の企業もなぜここまでCSRを意識しないと生き残れなってきたかをレポートしている。
最近、新聞の書評や書店で、同じような本を2冊も見つけた。
「社会起業家という仕事」(渡邊奈々著、日経BP社刊)、「社会起業家という生き方 『社会を変える』を仕事にする」(駒崎弘樹著、英治出版刊)
この言葉。これから若者の企業選びや働く意識、退職していく団塊の世代の生き様を変えていくかもしれない。
これからも、この言葉に注意を払っていきたい。しかし、もう66歳・・・。間に合うかな。
マイクロソフトでは出会えなかった天職 僕はこうして社会起業家になったposted with amazlet on 08.01.23ジョン ウッド (訳)羽野薫
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日本の事例もフォローしている。構成もよい。入門書として最適。
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