読書日記「円朝芝居噺 夫婦幽霊」(辻原 登著、講談社刊)
円朝芝居噺 夫婦幽霊 (講談社文庫)
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辻原 登
講談社
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講談社
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おすすめ度の平均:
三遊亭圓朝は口演のできる小説家重なるイメージの美しさ
湘南ダディは読みました。
円朝作としては、物足りない・・・。
非常に上手い構成の洒落た作品
この本も、前回同様、昔いた会社の大先輩の推薦。「へそ曲がりにふさわしい夏の読み物」と伺ったからには見逃せない。さっそく図書館で借りてきた。
著者の作品を読むのは「翔べ麒麟」(読売新聞刊)以来。この著書も2007年に発刊された頃に気にはなっていたのに読みそびれていたが、大当たり!夢中になって読んでしまった。
「メタフィクション」という文学手法があることを、浅学にして知らなかった。Wikipedia(WEB上のフリー百科事典)には「フィクション(小説、虚構)の一種で・・それが作り話であることを意図 的に読者に気付かせることで、虚構と現実の関係について問題を提示する」とある。
物語の仕掛けはまず、江戸末期から明治の時代に一世を風靡した三遊亭円朝の芝居噺(鳴物噺)の説明から始まる。
高座の背後に書割をしつらえ、芝居の気分をかもし、あるいは台拍子、宮神楽、あるいは駅路の鈴、山下し、浪の音などの鳴物を入れ、役者の声色(こわね)は使わないけれど、聴客(ききて)は芝居をみるように喜び、円朝の芝居噺と評判を取った。
彼は自ら創作した噺を高座にかけ、さらにその速記を本にしたり、新聞に連載したりした。
そして、なぜか速記の歴史の説明があり、円朝の芝居噺「怪談牡丹燈籠」が田鎖式という速記法で本になったことを明らかにする。
これからが仕掛けの第2弾。著者(辻原登)自身が登場し、ある国文学者の遺品にあ った速記録を手に入れる。それは「夫婦幽霊 三遊亭円朝・・・」と解読された。
円朝に「夫婦幽霊」という作品は存在しなかった。だが、いま、それが目の前にある。幽霊なのか。
それからがメタフィクションの真骨頂。辻原創作の芝居噺が「円朝にござります」と始 まる。この話しがめっぽう面白い。
年も明けての安政二年三月六日の夜のことでござります。江戸場内で、とんでもない大事件が出来(しゅつたつ)いたしました。
御金蔵から、千両箱4箱を盗みだした大工たちの仲間割れ、奉行所の面子をかけた捜 査・・・。円朝自身も登場し、安政の大地震や吉原、深川の情景がたっぷりと描かれる。
芝居噺は、大川端での円朝などの幽霊演技で「おあとがよろしいようで」と大団円を迎 えるが、その合い間、合い間に挟まれた「訳者注」がくせもの。
『符号(速記)原稿の中に幽霊がいる』。・・・この原稿が書かれたはずの時代より以前のの速記符号が使われている・・・
そして、最後にアット驚く大仕掛け。
「訳者後記」の後に「円朝倅 朝太郎小伝」という一節があり「夫婦幽霊」は「朝太郎と芥川龍之介の共同作業だった」と・・・。この小伝も、もちろんメタフィクションなのだ。
ああ、おもしろかった!
もう1冊、江戸を舞台にした小説を読んだ。
「麗しき花実」(乙川雄三郎著、朝日出版刊)。
乙川 優三郎
朝日新聞出版
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おすすめ度の平均:
「喜知次」読後の爽快感を期待したのだが・・・・。文庫化まで待てない
麗しくも苦い蒔絵の世界
江戸・根岸の里にある蒔絵工房の世界が詳細に描かれ、知っているようでほとんど無知に近かった蒔絵の世界を堪能できる。
西国の蒔絵師の家に生まれた主人公、理野(りの)が女性としてはじめて工房で修業にあけくれるという設定だが、工房の主の原羊遊斎、江戸琳派の絵師、 酒井抱一、その弟子の鈴木其一らは、実在の人物。
理野と、これらの人物のからみが情感たっぷりに描かれ、4ページの口絵にある蒔絵の写真もすばらしい。
この本のおかげで「蒔絵博物館」というWEBページを知ったのも収穫だった。
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