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2009年1月 3日

読書日記「ジャガイモのきた道――文明・飢餓・戦争」(山本紀夫著、岩波新書)


ジャガイモのきた道―文明・飢饉・戦争 (岩波新書)
山本 紀夫
岩波書店
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おすすめ度の平均: 4.0
4 岩波新書にしては読みやすい、ジャガイモ文明論
4 ジャガイモで文明はおきるのかを説明
5 まさに「歴史ドラマ」を垣間見せてくれる一冊
4 ジャガイモで発展したインカの山岳文明
3 ジャガイモの歴史と役割をサクッと読める一冊


 昨年5月に発刊されて以来、気になっていた本だった。「また食べ物の本もなあ」という、つまらない〝自制〟のおかげで手にしないでいたが、昨年末の新聞書評欄の「今年3冊」に何度か取り上げられるのを見て、ついにがまんできなくなった。

おもしろかった。

 国立民族学博物館名誉教授の著者は、初めてアンデスを旅した際「アンデス・インカ文明を生んだのはトウモロコシ」という世界的な通説にふと疑問を持つ。そして毎年のようにアンデスに通い、それまでの専門だった植物学から民族学に転向してしまう。

 そのへんのいきさつは、ある機関紙の対談にも載っている。数年間の滞在研究の結果、インカ帝国の主食はジャガイモであり、トウモロコシは太陽にささげられる酒の原料になる儀礼的な作物であったことを〝発見〟してしまうのだ。

 筆者がジャガイモに興味を持ったのは、京大2年の時に中尾佐助の「栽培植物と農耕の起源」(岩波新書)という本に運命的に出会ったからだという。このブログにも、以前に書いたが、あの宮崎駿監督が人に勧めてやめない本である。

 山本名誉教授によると「わたしたちが日常食べている『栽培植物』はすべて人間が作り出したものである」という。そして野生の雑草だったジャガイモを食物として栽培することに成功したインダス文明。そのすごさを、フイールドワークで見つけた事実を積み重ねて実証していく。
インカの人々は、チューニョ加工と呼ばれる毒抜き(イモ類にはすべて有毒成分が含まれているという)、乾燥技術を開発し、栽培化されたジャガイモを、標高4000メートル近いアンデス高原をその花で埋め尽くす(山本紀夫写真展から)大量生産品種に育て上げた、というのだ。
 「イモ農耕では文明を生まれない。穀物文明こそ文明社会成立の必須基盤だ」という、これまでの考古学、歴史学の常識に反論していくのも痛快な記述だ。

 著書は、副題にある〝文明〟から〝戦争・飢餓〟へと展開していく。ヨーロッパにジャガイモが伝播・普及していく歴史である。

 最初は、「聖書にも出てこない作物」と気味悪がれたり、食べるとらい病になると信じられて「悪魔の植物」と呼ばれたりしたジャガイモがフランスで普及していったのは、7年戦争後の飢餓を経験した18世紀。ルイ16世の呼びかけに応じてジャガイモの普及に努力したのが、農学者のアントワーヌ・パルマンティエ
パリ市内や地下鉄の駅には銅像が建てられており、今でもフランスではジャガイモ料理に〝パルマンティエ〟の名前をつけた料理がいつも添えられ、その功績をたたえているという。

 ルイ16世の王妃・マリーアントネットが、普及のためにジャガイモの花の髪飾りをつけたという話しは「キャベツにだって花が咲く」(稲垣栄洋著、光文社新書)に書かれていたのを思い出した。

 ジャガイモがオランダで普及したことを示す、有名な名画を口絵で紹介している。
 ファン・ゴッホが1885年に描いた「ジャガイモを食べる人たち」だ。
 著者は「ジャガイモを掘り起こした(泥のままの)手で皿に山盛りされているイモを食べている農民の家族を描いたもの」と「ゴッホの手紙」を引用しながら紹介している。ジャガイモが、当時の生活に欠かせない食物だったことが分かる。

 ジャガイモの疫病が生んだアイルランドのジャガイモ大飢饉についても、著者は多くのページを割く。大飢饉で100万の人が死に、アイルランドから去っていった人は150万人に達したという。その一人が、米国大統領になったJ・F・ケネディの祖父だった。

 イギリスとアイルランドの抗争は、大飢饉の時のイギリス政府の植民地政策のせいだった、という。イギリスのブレア元首相が謝罪して、1998年にIRAとイギリスの和解が成立したという記述があるWEBページに載っている。

 日本へのジャガイモ伝ぱ・普及の歴史は「川田男爵の開発したダンシャクイモ」「明治文明開化とカレー」「大正時代のコロッケ」「戦中、戦後の代用食」など、これまでも聞いたり、知っていたりしていたりしたことも多い。

 ただ、終章で著者は、こう説く。
日本の食糧自給率は、主要先進諸国で最下位である。...自給率の高い国一〇カ国のうち六カ国・・・カナダ、フランス、アメリカ、ドイツ、イギリス、オランダは・・・ジャガイモの生産量が大きい国である
飽食といわれる日本こそ、そして小麦やトウモロコシなどの穀物価格が高騰している・・・今こそ、過去に学び、食糧源として大きな可能性を秘めるジャガイモなどの・・・長所を見直し、将来に向けて準備をしておく必要があるのではないだろうか


 減反によってイネを捨て、買いすぎたイモを腐さらす。そして正体不明の輸入食品に頼る飽食・日本は、はたして〝文明〟の国なのだろうか。余談ながら、ふとそんなことも思った。

栽培植物と農耕の起源 (岩波新書 青版)
中尾 佐助
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4 育種に歴史に興味のある方にお勧め。
4 "生"のための農業
5 文明の基盤がいかに作られたかを明らかにする名著

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5 ユニークな発想。おもしろい。


2008年10月20日

読書日記「仕事道楽」(鈴木敏夫著、岩波新書)


 宮崎駿著の「折り返し点 1997~2008」(岩波書店)という本と、この本は「まるであらかじめ企画されたように相補的な照応関係をなしている」。読売新聞の書評欄で分子生物学者の福岡伸一氏が書いているのを見て図書館に借り入れを申し込んだが、この著書が先に借りられた。

 本の軸になっているのは、「もののけ姫」や「千と千尋の神隠し」などをヒットさせたプロデューサーの著者と、宮崎駿、高畑勲両監督との仕事を通じての葛藤ぶり。

 「高畑・宮崎の二人との出会いは強烈でした」と、著者は切り出す。アニメ雑誌の記者だった著者は、二人ともっとつきあいたいと思い、そのためになんとしても「彼らと教養を共有したい」と思う。そのため、二人が言ったことを全部、ノートに書きまくる。分かれた後は喫茶店に入って、一生懸命思い出しながら抜けているところを埋める。家に帰って、もう一度ノートに書き写す。寝る時間は極端に減ったが、それを毎日続ける。「これをやらないと、この人たちと五分につきあえないと感じていたのです」

 "取材記者″の基本と言ってしまえばそれまでだが、おかげで著者は二人の魅力に引きずりこまれ、スタジオ・ジブリのプロデューサーになってしまう。

 二人には「この本読みましたか」と、よく聞かれたという。

 高畑監督からは、ドナルド・リーチという人の『映画のどこをどう読むか」という本を教えてもらい、スタンリー・キューブリック「バリー・リンドン」という映画のおもしろさを知り、目からうろこが落ちる。

 宮崎監督には、中尾佐助の「栽培植物と農耕の起源」(岩波新書)のことを聞かれ、読んでないと言うと「無知ですね」とやられる。「日本の精神性と生活の基盤に・・・照葉樹林文化が存在する」とした」(福岡伸一氏)この本は「もののけ姫」などの発想につながっていく。

 高畑監督が「おもいで」というアニメを制作する時のこだわりがすごい。

 「おもいで」にとりかかった時に、NHK人形劇「ひょっこりひょうたん島」が雑誌で特集されており、高畑氏は、そのなかの2曲をどうしても聞きたいという。ところが、NHKの録画ビデオ、コロンビアのレコード、作曲家の自宅にも残っていない。しかし、高畑監督はあきらめない。そこで、いわゆる「マニア」の子に事情を話し、5日後に北海道の子が持っているのが見つかった・・・。

 「おもいで」のテーマは、山形の紅花摘みがテーマ。監督は、紅花作りの現場を見に行き、資料を集めて1冊のノートを完成させる。これを読んだ米沢の紅花の達人が言う。「これはたしかに、いちばん正しいやり方だ」

 紹介されているアニメ制作の職人気質のエピソードもおもしろい。

 「となりの山田くん」の顔はやたらと大きく、二頭身。これをアニメに描くのは至難の業らしい。そこで、職人気質の二人が話しをする。「どうやって歩かせてる?」。まかされている職人は、2本指を足に見立てて動かせてみせる。「やっぱりそうですよねえ」。「なんか武芸者同士の会話みたい」と、著者はおもしろがっている。

 ジブリには4つのスタジオがあるが、ちょっと離れたところに借りた一軒屋があり「力はあるが、時間がデタラメという人は、ここで仕事をしてもらう。一度は辞めたいと言ったある絵描きはここにおり、今回の「崖の上のポニョ」でもすごい力を発揮したらしい。

 ジブリの作品が大当たりばかりだと、いささかやっかみ半分の批判も飛び出してくる。

 文藝春秋10月号の書評欄には、宮崎監督の作品について″エコブームに悪乗り"めいた批評が載っていたし、雑誌「正論」の11月号にも「もののけ姫などに隠されているメッセージは『上の世代になにをされても恨むな』ということ」という、なんだかよく分からない評論が掲載されている。

 しかし、技術者だけで1000人を越えるというディズニーからの提携の申し込みを断わり"町工場"に徹するスタジオ・ジブリの手法は、悩める日本の産業に大きな示唆を与えているように思える。

 今年で、高畑監督73歳、宮崎監督67歳、鈴木プロデューサー60歳というシルバー軍団に、バンザイ!

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5 仕事が道楽であることの 幸福感
4 個性的な人たちとの仕事のしかた
4 楽しく大変に
5 正直、鈴木さんは「やっぱり凄い人だな」と思った。
4 聞き書きは共著にするべきだ

折り返し点―1997~2008
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5 12年間に渡る作品の軌跡

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