読書日記「やんごとなき読者」(アラン・ベネット著、市川恵里訳、白水社刊)
白水社
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三つの愉しみ
〝やんごとなき〟なんて、いささか古色蒼然とした言葉は、どんな原語を訳したのだろうと、訳者あとがきを見ると〝Uncommon〟とあった。「なるほど〝非日常〟ということか?」と、友人M。和英辞書を引くと〝noble〟とか〝royal〟といった訳が出てきた。
現代イギリスを代表する劇作家である著者が描くこの小説の主人公は、女王エリザベスⅡ世。欧米でたちまちベストセラーになったこの本は、女王が80歳になって突然、読書に目覚めるというのがあらすじ。もちろんフィクションである。
小説は、こんなシーンから始まる。
禿げ頭の劇作家兼小説家について何の説明も受けていなかった大統領は、きょろきょろと文化大臣の姿を探したが・・・。長い夜になりそうだ
ふとしたきっかけで、宮殿に来ていた移動図書館にまぎれこんだ女王は、厨房に働く少年・ノーマンを侍従に抜てき、その指導で読書にはまってしまう。
読書の魅力とは、分けへだてをしない点にあるのではないかと女王は考えた。文学にはどこか高尚なところがある。本は読者がだれであるかも、人がそれを読むかどうかも気にしない。すべての読者は、彼女も含めて平等である。文学とはひとつの共和国なのだと女王は思った
公務がどんどんとおろそかになる。国会議事堂の玉座で読む施政方針演説が「いかに駄文でおそろしく退屈」なことに気づいてしまう。
女王の読書を阻止しようとする側近との攻防がユーモアたっぷりに描かれる。侍従・ノーマンは大学で勉強するようにと、体よく宮殿を追われるが、画策したニュージランド人の侍従長も女王命で高等弁務官として故郷に帰っていく。
読んだ本についてノートに書き込む習慣が身につき「人間的に成長した女王は、みずから文章を書くようになり、ついに驚くべき決断をする・・・」(訳者あとがき)
もう1冊。同じ時期に、普通ならたぶん見向きもしない〝やんごとなき〟本に出会ってしまった。
「橋をかける 子供時代の読書の思い出」(美智子著、文春文庫)。国際児童図書評議会世界大会での、皇后さま(読売新聞用字用語辞典による)の基調演説や祝辞を本にしたものである。
2002年、スイス・バーゼル大会での祝辞には、竹内てるよのこんな詩が引用されている。
母よ 絶望の涙を落とすな
その頬は赤く小さく
今はただ一つの巴旦杏(はたんきょう)にすぎなくとも
いつ 人類のための戦いに
燃えて輝かないということがあろう・・・
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美しい日本語