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2009年6月20日

読書日記「グローバル定常型社会 地球社会の理論のために」(広井良典著、岩波書店・2009年刊)

グローバル定常型社会―地球社会の理論のために
広井 良典
岩波書店
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おすすめ度の平均: 4.0
4 新しい視点の経済学史として、経済学の可能性として


 なんとも難解極まる著作に手を出してしまったものだ。しかし、今回のグローバル経済危機に対するアンティテーゼを示そうとする著者のこん身のエネルギーと荒削りだが雄大な構想に引き込まれる。

 著者は、旧厚生省勤務を経て千葉大学の教授に転じた人。2001年に「定常型社会 新しい『豊かさ』の構想」(岩波新書)という著書で、経済成長を目標にしなく(ゼロ成長下)ても、十分な豊かさが実現されていく「定常型社会」という構想を明らかにしている。
物質、エネルギーの消費が一定となり、経済の量的拡大を目的とせず、自然、コミュニティ、伝統など変化しないものにも価値を置く社会像だ。


さらに2006年には「持続可能な福祉社会――『もうひとつの日本』の構想」(ちくま新書)を出し、ゼロ成長下での公共政策の重要さを強調した。
 「持続可能な福祉社会」とは、個人の生活保障や分配の公平が、環境・資源の制約と両立しながら長期に存続できる社会。経済成長を絶対的な目標しない点で「定常型社会」の社会像とそのまま重なる。


 今回の著書「グローバル定常型社会」では、これらの考えを、さらにグローバルな視点にまで広げた構想を示そうとしている。
その基点にあるのは「二一世紀後半に向けて世界は、高齢化が高度に進み、人口や資源消費も均衡化するような、ある定常点に向かいつつあるし、またそうならなければ持続可能ではない」という認識である。


 著者は、個人、コミュニティ、自然の相互関係がバランスをとることによって定常化(ゼロ成長)社会でも生活満足度は損なわれないと見る。
「自然[環境]――コミュニティ(福祉)――経済」が一体となった自立的システムをつくるのが目的。・・・かっての「鎮守の森」が果たしてきたような自然とスピリチュアリティが一体となっているコミュニティ空間を再生していこうとする試みだ・・・

地域コミュニティづくりの拠点として、学校や福祉・医療関連施設、公園・農園、商店街、神社・お寺が重要といえる。これらの場所をケアや世代間交流、環境保全などの拠点として活用しつつ・・・団地などの世代ミックスを高めていくことが「持続可能な福祉国家」と呼ぶべき都市の実現につながる。


 そして、このような社会をグローバル・レベルにまで高めるために"地球レベルの再分配"政策を実現すべきだと提案する。
投機的な国際金融取引を抑える「トービン税」、フランスなどで一部実施されている「国際連帯税」、途上国への医療品援助などにあてるためのフランスの航空券税や国際炭素税などが考えられる・・・


 いやー、定年退職者の軟弱な頭ではとても消化し切れない。

 しかし、インターネットで見つけた千葉大学の機関紙に掲載された著者の「序論」や「自治体チャンネル」という雑誌での著者との対談が、軟弱頭の理解を少し助けてくれる。

「私利の追求」を有効なインセンティブとして拡大・発展した市場経済の領域が、今むしろ飽和しつつある。これに代わって・・・組織的にはNPOや社会起業家といった形態が浮上している。「市場経済を超える領域」の展開において、営利と非営利、貨幣経済と非貨幣経済が交差するのだ。(千葉大学 公共経済 第2巻第3号より)


経済の成熟・定常化という変化のなかでもっとも大きな変容をとげるのが「労働」のあり方。・・・「生存のための労働」から「賃労働としての労働」に変わり、最後の次元は「自己実現のための労働」である・・・(同)


 今月12日に放映されたフジテレビ「BSプライムニュース」で、田坂広志・多摩大学大学院教授が「これからは、働く喜びを感じるボランタリー経済(善意の経済)とこれまでの貨幣経済が融合するハイブリッド化が始まると、同じような予想をしていた。
 しかし、ゼロ成長といえども肥大化した貨幣経済のなかでボランタリー経済がどれだけの比重を占めていけるのかに疑問が残るが。

 広井教授は「自治体チャンネル 平成20年2月号」の対談でさらにこう解説している。

人々の消費構造は、時間そのものを過ごすことに充足を感じる「時間消費」の段階にあります。時間消費は、余暇やレクリエーション、福祉・ケア、生涯学習・自己実現に対するニーズで、コミュニティや自然などローカルで展開されます。


今後、世界が進むべき方向は2つです。1つは、ローカル・ナショナル・グローバルそれぞれのレベルで「共」「公」「私」のバランスを保つこと、もう1つは、ローカルを起点にナショナル、グローバルへと積み上げていくことです。「地域社会(地域福祉)から地球社会(地球福祉)へ」という方向が、時代の潮流になります。


  ただ、現在の政府、経済界や一般消費者が、一層の経済成長、それによってもたらされる豊かさの追求を簡単に捨て切れるとは思えない。

 ゼロ成長下での豊かさを満喫するというイメージをどう描き、日本の社会にソフトランディングさせていくのか。もっと具体的な提案と模索が必要なのだろう。

 この視点から、評判になった中谷巌・三菱UFJリサーチ&コンサルティング理事長 の著書「資本主義はなぜ自壊したのか」(集英社インターナショナル刊)のなかにあった記述が気になった。
 中谷先生は現役記者時代に非常にお世話になった方だが、グローバル資本主義の本質的欠陥として
  1. 世界金融経済の不安的要素となる。
  2. 格差拡大を生む
  3. 地球環境汚染を加速させる
の3点を挙げておられる。
さらに、私もこのブログで書いたが、ブータンの「国民総幸福量」にも言及しておられる。広井教授が提唱している新しい豊かさという考えと相似点があるのではないだろうか。

その他、参考になった本など

  • 「共生の大地 新しい経済がはじまる」(内橋克人著、岩波新書)
    1995年の刊行だが、すでにコミュニティーの新しい協働へのうごめきを、きっちり視点を定めて記述しておられるのはさすがである。

  • 「『豊かな社会』の貧しさ」(宇沢弘文著、岩波書店)
    本棚にあったこの本は1989年刊と、もっと古い。「経済の繁栄は人間的貧困をもたらした」と序章にある。
    現在は東大名誉教授である著者は、雑誌「現代思想」の今年5月号で「社会保障の充実が、多くの人の不安を取り除き、単なる経済効果以上の効果を発揮しうる」と書いておられるらしい。これも、表題の著者と同じ視点なのだろう。

  • 「社会起業家 -社会的責任ビジネスの新しい潮流」(斎藤 槙著、岩波新書)
    「自己実現のために、環境などの課題に使命感をもつ」ソーシャル・ビジネスの概要がよく分かる。社会起業家と呼ばれる人たちには、このブログ(2008/01/23)でも書いた。
    世界の善意の資金を集めて社会貢献事業をする「ルーム・ドウ・リード」のジョン・ウッドなどと、利益を生む携帯電話ビジネスをしながら貧困を救おうとしているグラミン銀行のムハマド・ユヌス総裁など、2つの潮流があるのでは、というのは間違った認識だろうか。
    斎藤 槙さんは最近、新著「世界をよくする簡単な100の方法」(講談社刊)を出した。気になる本である。図書館に借り入れ申し込みをしたら、近く手元に届くらしい。

     NHK「クロズアップ現代」
     6月16日放映のこの番組で「人にやさしい企業」をテーマに、不況でも解雇を絶対しない企業や研究開発費を削らない岡山の林原などを取り上げていた。

     現役記者時代の最後のほうは「人に優しい企業」とか「美しい企業」といった本ばかりを読んでいた。「カット・スロート・コンペティション」の時代から潮目が変わってきた,と思いたい。

    定常型社会―新しい「豊かさ」の構想 (岩波新書)
    広井 良典
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    4 スロー・ライフでいきましょう・・・
    4 興味深い
    4 優れた知見の創出
    5 成長=絶対的価値ではなくなった
    5 新たな発想に基づく提案

    資本主義はなぜ自壊したのか 「日本」再生への提言
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    3 「提言」というには聊か主観的
    3 アメリカかぶれの私が悪うございました、ということだけなのか?
    4 中谷先生の本だからこそ、これだけレビューが辛口なのかな
    1 変わり身の早さが資本主義的
    1 中身なし

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    5 心ある経済学者の視座に感銘
    5 地方・農業・老人こそ、国の宝!

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    3 ちょっと古い
    4 日本の事例もフォローしている。構成もよい。入門書として最適。

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    4 社会起業家には、なれないけど

2008年10月28日

読書日記「中国 静かなる革命」(呉軍華著、日本経済出版社)


 北京オリンピックの前後から急に中国論の出版が目立ってきた。一般紙の書評欄に取り上げられたものを、書名だけ列記してみてもこんなにある。
「幻想の帝国」「中国低層訪談録」「不平等国家 中国」「中国社会はどこへ行くか」「トンデモ中国 真実は路地裏にあり」「和諧をめざす中国」「愛国経済」「中国の教育と経済発展」・・・。

 いわゆる「中国崩壊論」をめぐるものが多いようで、読む気になる本は少なかった。そのなかで、この本に興味を持ったのは、表紙のサブタイトルに「官製資本主義の終焉と民主化へのグランドビジョン」とあったからだ。

 このブログで先に取り上げた「中国動漫新人類」でも、近未来での中国の民主化の可能性を示唆していたが「民主化へのグランドビジョン」を教えてくれるというのは、極めて魅力的だ。芦屋市立図書館で探したが、新刊本なので在庫なし。購入申し込みをしたら、予想外に早く借りることができた。

 最初の「謝辞」を見てびっくりした。「真っ先に感謝の意を表したのは柿本寿明日本総合研究所シニアフエロー」とあるのだ。柿本さんは、私が現役の新聞記者時代に多くの示唆をいただいたバンカー・エコノミスト。著者は、その柿本さんから長年指導を受けた中国人エコノミストで、2児の母。先日、たまたまお会いした三井住友銀行の某首脳も「日本総研が誇るチャイナ・ウオッチャー」と絶賛されていた。

 この本の結論は「まえがき」にほぼ書きつくされている。

 「中国崩壊論」はすでに崩壊しているという楽観論を示した後、中国で「2022年までに共産党一党支配の現体制から民主主義的な政治体制に移行」という"革命"が起きる、と断言しているのにまずびっくりする。
 社会主義市場経済という名のもとで、中国はこれまで共産党・政府という官のプランニングによって改革を実施し、官とその関係者が恩恵の多くを享受するような『官製資本主義』的改革を進めてきた

 しかし実際の中国では、腐敗の浸透や所得格差の拡大、社会的対立の先鋭化といった問題が深刻化・・・共産党は背水の陣で政治改革に臨まなければならないところまで来ている


 それでは、2022年までに政治改革という名の"革命"を起こすのは、一般市民や学生なのか。そうではないらしい。

 著者は、ポスト胡錦濤体制では、これまでとは「異質」なリーダーが指導部入りをはたすと予測する。

 彼らは、改革開放後の中国や海外で高等教育を受け、自由や平等、人権尊重といった民主主義の理念を自らの生活体験を通じて実感している。

 文化大革命時代に青春を過ごした彼らは「知識青年」として農村に送り込まれ、中国、個人の将来を深く思考し続けてきた。
 2012年には、時代の流れを正しく読み取り、理想主義的で使命感の強いリーダーが誕生する可能性が高い。そして、中国共産党はこのリーダーの任期が満了する2022年までに、民主化に向けての本格的な政治改革に踏み切ると予想される

 あまりに楽観的すぎる感もあるが、なんとも明確かつスッキリしていて、分かりやすい結論だ。

 第六章にある「(共産党・政府)中堅幹部の政治意識」というアンケート調査がおもしろい。
  1. 「現体制の民主化水準に不満足」と答えたのが62・8%
  2. 望ましい政治制度として民主主義を選んだのが67・3%
  3. マスメディアに訴えるのは憲法で保障された国民の権利と答えたのは73・0%
  4. 多党制が社会的混乱をもたらさないという答えが50・0%で「もたらす」(35・8%)を大きく上回っている。


 著者によると、中国の中央党校(高級幹部を養成する中央レベルの学校で、最も影響力のある政策立案研究機関)では、シンガポールやスウエーデンの政治システムの研究が進められているし、アメリカの選挙やブータン王国の議会制民主主義への移行に関する報道も目立つという。

 著者は最後に言う。「中国は今後、どのような戦略で民主主義的体制『和諧社会主義』に向けて移行していく可能性が高いかを見極めなければならない」

 「和諧」というイメージが、もうひとつつかみ切れなかったが、現体制のなかでも、現状打破へのマグマが盛んにうごめいていることを感じ取れる新鮮な本だった。

著者へのインタビューと近影

最近、読んだ本
  •    「月曜の朝、ぼくたちは」(井伏洋介著、幻冬舎)
     大学を卒業して7年、30歳目前の元ゼミ仲間の人生模様。合併された銀行で悪戦苦闘する北沢、上司やユーザーの理不尽な叱責に会う人材派遣会社の里中、友人のアイデアでベンチャー企業支援のコンテストに合格しながら、出資希望者(資本家)の横暴を知って逃げ出す亀田。なんとなく「分かる、分かる」と声をかけたくなる。もう関係のない世界だけれど、なにか、なつかしさを感じてしまう小説。
     2003年もののロゼシャンパン「ランソン」、ベルギービールの「デュベル」「シメイブルー」、ブラックベルモット、モルトウイスキーの「ストラスアイラ」・・・。最近の若いサラリーマンって、いい酒を飲むんだなあ!


  •   「人生という名の手紙」(ダニエル・ゴットリーブ著、講談社)
     四肢麻痺患者として車いす生活をする精神科医の祖父が、自閉症の孫に送る「人生 知恵の書」。

     「人は本当は何に飢えているのだろう?それは安心感と幸せだ。真の安心感は自分自身に満足した時にだけ手に入る。誰かと愛し合い、理解し会う関係を築けば、その感覚はさらに強くなる。真の幸せは、充実した人生がもたらす『ごほうび』なのだ」


  •   「金田一京助と日本語の近代」(安田敏朗著、平凡社新書)
    「アイヌを愛した国語学者」という、これまでの社会イメージを「これでもか、これでもか」と覆すことを試みた驚愕の書。
     1954年、天皇にご進講をした内容にについて、当時の入江侍従はこう回想する。「(金田一)先生のお話は、日本語がアイヌ語に与えた影響はたくさんあるけれど。逆にアイヌ語が日本語に与えたものは、非常に少ない。つまり文化の高い民族は、その低い民族からは影響を受けないものである。こういう趣旨のことをかなり詳しくお述べになり・・・」


中国 静かなる革命
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呉 軍華
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1 中国への「愛」ゆえか、議論は粗雑
5 2012〜2022年は歴史の転換期

月曜の朝、ぼくたちは
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5 日曜に読んでください
4 30代でも共感!
4 20代後半世代への応援歌

人生という名の手紙
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5 劣等感にさいなまれているひとにも

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4 金田一京助像の書き換えを迫る


2008年7月 3日

読書日記「ブータンに魅せられて」(今枝由郎著、岩波新書)

 
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 「ブータンって、どんな国?」。友人Mに聞かれ「国民総幸福(GNH)を国家の理念にしていて・・・」とまで言って、それ以上答えられなかった。

 ちょうど、ブータンが今年から国民の多くが望んだ国王親政を国王自らが廃止し、立憲君主・議会民主制に移ろうとしている一方で、隣国ネパールでは議会が王制廃止を決め、国王が王宮を追われるニュースが流れた。

 そんな時に、この本を書店で見つけた。チベット仏教を学んだ著者は、鎖国状態にあったブータンに5年がかりで入国し、たまたま国立図書館顧問に就任したことから、10年もの長居をして、この国の魅力に取り付かれてしまう。

butan.jpg そして、第4代国王ジクメ・センゲ・ワンチェック=写真=の信任を得て、国王の人柄を忠実に反映したブータンの近代化を体験する。

 GNHを提唱する第4代国王政治の特色は「開発は必須だが、伝統文化や生活様式を犠牲にはしない」ということ。

 1980年代初め、観光政策の一環として登山が解禁された。7000メートル級の未踏処女峰が世界の登山家の垂涎の的となった。登山のポーターとして農民が駆り出された。しかし、農民たちは国王に直訴した。「仕事もない人たちのために、わたしたちの仕事ができません」。登山永久禁止条例が作られた。

 インドに輸出され、国家歳入の40%を占める水力発電も、巨大なダムを建設して村落が水没したり、生態系に危害がおよんだりすることがないよう、川の流れの落差を利用したものしか建設されない。

 衆愚に近くなってきたどこかの島国大国の民主主義に比べ、1本筋が通った国家の運営の見事さに感銘させられる。

 もう1冊。同じ著者が訳した「幸福大国ブータン 王妃が語る桃源郷の素顔」(ドルジェ・ワンモ・ワンチェック著。日本放送出版協会刊)を図書館で借りた。

 副題にあるように、著者は、4代国王ジクメ・センゲ・ワンチェックの王妃。

 ブータンの冬の首都だったプナカ県の小さな村に育った王妃は、自然と人間が共生する桃源郷の姿を生き生きと描きだしている。

 ブータンの近隣諸国では森林が伐採され、地下資源の採掘で空気が汚染されているのに、ブータンでは、40年前には国土の5割以下だった森林面積が72%にまで増えた。

 虎、雪豹、サイ、レッサーパンダ、オグロヅル 、アカエリサイチョウ、ニジキシといった世界では絶滅が心配されている動物たちも快適な生息地で繁殖している。

 海外から来た旅行者は、ブータンの澄んだ空気と透き通った河川の水に目を見張る、という。

 ブナカ・ゾンなど、自然と調和した白亜の城塞や動物、植物などの多様性を実感できる王立マナス自然公園、温泉での湯治など、王妃はブータンの魅力を誇らしげに語る。

 世界各国では、環境保護の法律や規制があるのに環境が破壊されているのに、ブータンでは自然が守られているのは、ブータン仏教の教えに根ざした価値観が打ち立てられているからだという。

 日本には伝来しなかったブータン特有の仏教は「生きとし生けるものを敬う」ために、食べるために動物を殺すことに強い抑制が働くし、木、森、山、川、湖、岩、洞窟などの自然に神が宿っていると信じられている。

 王妃は、ブータンという国を有名にした「国民総幸福(GNH)」という指針も、仏教的人生観に裏打ちされたものだと、話している。

 GNHは、どんな指標を集約したものかと、著書「ブータンに魅せられて」でも探しまわったが、具体的な記述がない理由が分かった。GNHとは、ブータンの人たちの生き様を現したものなのだ。

 「国民の約97%が幸福と感じている」。2005年の国勢調査で、こんな信じられないような結果が出たのもうなずけないではない。

 もう1冊。ブータンのことを少し書いた本「太古へ ニュージランドそしてブータン」(辰濃和男著、朝日新聞社刊)を、本棚で見つけた。

 ブータンの項は青いけしを見つけに行く話しだが、ガイドとの間でこんな会話が交わされる。
  「このごろ野犬がふえました。でも犬は殺しません。仏教の教えです」

  「牛や鶏は」「殺しません」「蝿は」「殺しません」

 「でも肉は好きでしょう」「大好きです」

  「そこが問題ですね」「そこが問題です」

  「ですから、私たちはヤクの肉を食べます。輸入肉も食べます」


 最近、読んだ本

  • 「月の小屋」(三砂ちづる著、毎日新聞社)

     リプロダクティブヘルス(女性の保健)を中心とした疫学という専門分野で国際的にも活躍した津田塾大学教授が、初めて書いた短編小説。

     ラジオの著者インタビューで知ったが、最後の「小屋」がおもしろい。

    年頃になった娘は昔、月経小屋に入る習慣があった。そして、母親や地元の老女から女性の体やセックス、出産の不思議さについて実地教育を受ける。67歳の独居老人が、これまで知らなかった世界を知る気品ある作品。

  • 「オニババ化する女たち 女性の身体性を取り戻す」(同、光文社新書)
    同じ著者が2004年に書いたベストセラー。

    「このままだと、女性の性と生殖のエネルギーは行き場を失い、女性は総てオニババ化する」と予測する怖い本。


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3 GNHの秘密には迫り切れていないかな・・
4 仏教が生活と一体化した国の奇妙な日々
5 豊かさとは? 人間らしさとは?

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月の小屋
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2 オニババとは?
4 力のある本だとおもいます
5 実感を言葉に紡ぐ過程
5 一本の糸で繋がりました!
5 必要な声だと思う