島崎 藤村
岩波書店
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情報と人間行動
奔騰する時代の波の中で
希望と不安の夜明け前 第一部(上・下)
山口村の騒動が気になったら
アンドルー ゴードン
みすず書房
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おすすめ度の平均:
庶民生活の変遷から見る視点が良い
日本近代史の激動を鮮やかに説明。
高い値段を出して購入したのに・・・って、後悔してます。
教科書の補強にはグッド
とにかく面白い!
昨年の晩秋に、木曽路を旅した。その旅は
『中山道木曽11宿と「夜明け前」の舞台を巡る旅』という親睦旅行である。
事前に、「夜明け前」を全部読みたかったが、文庫版とはいえ第一部・第二部にそれぞれ上下があって、小さな字でぎっしりと印刷されて 1400 ページあまりある。
旅行から帰ってきて続きを読み始めたが、年寄りのあいまあいまの読書ではなかなか読み終わらない。最近になって、ようやく読み終えた。
この小説が題材となっている時代は、米国ペリー来航の1853年前後から1886年までの幕末・明治維新の激動期である。前半は、ちょうど家内が一生懸命みていた NHK の大河ドラマ「篤姫」の時代と一部が重なっている。
「夜明け前」の主人公青山半蔵は、島崎藤村の父親がモデルらしいが、中山道木曽11宿の一番名古屋より馬籠の本陣・問屋・庄屋を父親から譲り受けた主人である。
この時期、京都から江戸へ旅するには、東海道と中山道があるのだが、女性は東海道のように河留めの多い大井川、あるいは浜名の渡し、桑名の渡しなど 水による困難がほとんどない中山道を選んだようだ。「篤姫」に出てくる和宮の降嫁はこの中山道を利用している。
木曽路を旅して昔の街道跡を見たが、河留めがないとはいえ、あのような急峻な山道を御輿をかつぎ、大量の荷物を運んだのは想像を絶する道中だったにちがいない。そのときの様子は第一部第六章あたりに、史実にもとづいた描写がある。
そのような意味で、「夜明け前」は小説ではあるが、江戸末期から明治初期における木曽路だけではなく明治維新の歴史を知る上で面白い。
全体を通して、青山半蔵が理想とする国学と江戸幕府が守ってきた儒学・仏教や期待した明治新政府の圧政との葛藤がテーマのような気がする。晩年
村の寺万福寺に火をつける狂気は、そのような葛藤からの行動であろう。最終章の終わりにある次の描写が、「夜明け前」の主テーマではなかろうか。
その時になってみると、旧庄屋として、また旧本陣問屋としての半蔵が生涯もすべて後方(うしろ)になった。すべて、すべて後方になった。ひとり彼の生涯が終を告げたばかりでなく、維新以来の明治の舞台もその十九年まであたりまでをひとつの過渡期として大きく廻りかけていた。人々は進歩を孕んだ昨日の保守に疲れ、保守を孕んだ昨日の進歩にも疲れた。新しい日本を求める心は漸く多くの若者の胸に萌してきたが、しかし封建時代を葬ることばかりを知って、まだまことの維新の成就する日を望むことも出来ないような不幸な薄暗さがあたりを支配していた。
「夜明け前」を読む以前から、毎日新聞の書評か何かで見て Amazon に注文した「日本の200年」(上・下)を読んでいた。ハーバード大学の教授であるアメリカ人著者が見た日本の歴史観に興味があったからである。
この本もちょうど徳川末期から2002年くらいまでの日本の歴史を日本・海外の厖大な資料をもとに克明に学術的に記している。
自分が生きてきた戦後 60 年近くの背景とそれを形作ってきた明治維新からの歴史を知ることで、自分の生き様を考え直す機会を与えてくれた、最近にない知的満足度の高い本となった。
ただ、この本は上下で700ページあり、大きさも A5 版で厚さが 3cm ほどあるからポケットに入る大きさではないので、読む時間が限られてしまったが。
この本の「徳川後期の知的状況」(第一部第三章)に、国学者「平田篤胤」についての記述がある。この記述と、「夜明け前」青山半蔵の思想・行動とを読み合わせると儒教と国学の違いがはっきりし、明治維新の出来事が今まで以上に理解ができるようになった。恥ずかしながらこの歳になって知ることが多く、恥じ入るばかりである。
この本には、「へえー、ソウだったんやー!」という記述が多くある。例えば、戦時中の戦争支持知識人の「近代の超克」に関する次のような記述がある。ジャズ好きにとっては、ちょっと面白い話である。
ジャズ禁止令が公布された当初、カフェの蓄音機は何日間か鳴り止んだ。しかし、カフェのオーナーたちはまもなくなつかしの人気曲のレコードを、最初は小さい音でこつそりとかけはじめ、そのうちしだいに大胆にかけるようになった。軍隊内でさえ、「敵性音楽」は抹殺しきれなかった。たとえば、四名の神風特攻隊員は、出撃を控えて訓練をうけたり待機したりするあいだに川柳 100句を合作して遺稿として遺したが、そのうちの二句を次のように詠んだ。
アメリカと戦う奴がジャズを聞き
ジャズ恋し早く平和が来れば良い
近代文化を超克しようという試みは政治や経済、社会新体制の構築を目指したさまざまな運動とおなじように---矛盾にみちていた。
この本は、上の記述のように、その時々の日本を支配した思想を背景にした庶民の生活の模様なども詳しく描かれて物語風に読めて楽しい。
また、政治とか経済に関する記述も多くあって、不勉強な私でも名前を知っている政治家や経済学者もでてくる。ただ、名前は知っているが脈絡がなかった頭の中を、よく整理してくれる。例えば、小沢一郎が歩いて来た道も、記述されているその時々の政治状況の中ではよく理解できるような気がする。
この本は学術書であるので、注釈、索引、参考文献も充実しており、明治以降の日本の首相や1945 年以降の衆議院議員総選挙における議席数などの補遺もついている。日本の近現代史の参考書としても非常に有用であると思う。
著者は、まえがきで、本書の狙いを以下のように述べている。
本書のタイトルト A Modern History of Japan (日本の近現代史)は、近現代性と相互関連性というふたつのテーマの重要性を表現している。本書のような作品には、Modern Japanese Hitory (近代日本史)というタイトルをつけるのが普通だろう。そのようなタイトルをつけるということは、日本的特殊性が叙述の中心になることを示唆する、という意味をもつはずであり、「近代」と呼ばれている時代にたまたま生じた、特殊「日本的な」物語へと読者の目を向けさせる、というニュアンスをもつだろう。本書は、日本的であることと近代性とのあいだのそのようなバランスを転換したいという狙いから、A Modern History of Japan を採用した。ここでは、日本と呼ばれる場でたまたま展開した、特殊「近代的な物語が語られることになる。
言い換えると、日本の近現代史は、一貫して、より広範な世界の近現代史と不可分のものだったのであり、したがって、相互連関性が本書の中心的なテーマのひとつでなければならない。国外からもたらされた思想、できごと、製品やモノ、物的・人的資源は、あるときはプラスの方向に、あるときはマイナスの方向に向けて、日本におけるできごとに大きな影響をおよぼしてきたし、逆もまた真であった。このダイナミックな過程で、日本で暮らす人々は、他の地域で暮らす人々と多くを共有してきた。このテーマは、以下の各章でわれわれが政治、経済、社会、文化史にかかわるトピックを論じてゆくにつれて明らかになるはずである。
以前のブログにも書いたが、ネット時代に入って、私は世界が明治維新と同じように大変革の時期であると思う。世界との関連性で世の中を見ていくことはますます重要となるだろう。もういくばくも生きていけないだろうが、どのように変化していくのか見ていきたいものだ。