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2013年8月28日

読書日記「時代の風音」(堀田善衛、司馬遼太郎、宮崎 駿著、朝日文芸文庫・朝日新聞刊)


時代の風音 (朝日文芸文庫)
堀田 善衛 宮崎 駿 司馬 遼太郎
朝日新聞社
売り上げランキング: 3,805


 8月4日付け読売新聞読書欄で「私のイチオシ文庫」という2ページ特集で取り上げられていた文庫本を、〝猛暑払い"に何冊か読んだうちの1つ。

 宮崎 駿が、尊敬する堀田善衛 司馬遼太郎の話しを聞きたいと出版社に持ちかけ「どうせなら3人の鼎談で」ということで実現した本。宮崎は、主宰する スタジオジブリから堀田の著書をシリーズで発刊するなど「自分の位置が分からなくなった時、堀田さんに何度も助けられた」と語っているし、司馬遼の国家論に「ひじょうに感動した」と話しており、鼎談と言いながら宮崎は司会役に徹している。

 単行本が1992年、文庫本になったのが1997年と20年ほども前のバブル崩壊以前の鼎談だから、その後の21世紀の展望については「ちょっと違っているな」と思う部分もあるが、世界を知りつくした堀田と司馬遼の国家、文化、時代論には、目を開かせる思いがする。

 「BOOK」データベースには、この本はこう紹介されている。

20世紀とはどんな時代だったのか―。21世紀を「地球人」としていかに生きるべきか―。歴史の潮流の中から「国家」「宗教」、そして「日本人」がどう育ち、どこへ行こうとしているのかを読み解く。それぞれに世界的視野を持ちつつ日本を見つめ続けた三人が語る「未来への教科書」


 20世紀と言う時代を振り返り、ソ連崩壊について堀田は「ソ連(ロシア)は難治の国。・・・イデオリギー独裁だったので、プルーラリズム(複数主義)の用意がない」と切り出し、司馬遼は「ロシア史というものに、政治、経済、文化の成熟はない」と受けて立つ。

 堀田によると「ロシア革命のとき、農民が二人、レーニンに会いにいった。戻ってきていうには『今日はレーニンというツアー(ロシア皇帝の称号)に会った』(笑)という話がある」と紹介すると、司馬遼は「ソ連には、共産党というツア―がいる」と、この大国の変わらないであろう体質を分析している。

 もう一つの大国、中国について宮崎が「 ウイグルとか チベットが中国領というのは信じ難い」と切り出すと、堀田は「困ったことに征服そのものがあの国の歴史の実体」と話し、司馬遼も「ロシアと中国という二つの古い帝国が世界のお荷物になりつつある」と言う。

 北方四島や尖閣諸島の未来が予測できるような発言だ。

 さらに、 アゼルバイジャン スロヴェニア クロアチアなどで「小さな紛争は(冷戦時代より)かえってすごくなるでしょう」(堀田)、「いまや人類にとって(話しの通じない)外国とは、北朝鮮であり、イスラエルかもしれません」(司馬遼)と、その後の世界情勢をピタリと言い当てている。

 スペインに10年滞在した経験のある堀田は「ヨーロッパ人というのは、大ざっぱにいえば二種類ある」と話す。

  
一つは貴族を含む上層階級で、親戚がヨーロッパじゅうにいる。・・・この連中は、戦争が起こると困るわけです。インターナショナルというより、むしろコスモポリタンです。
 もう一つの中産階級から下というのは、これはナショナリストです。・・・
 いまのイギリスの王室はドイツのハノーバー家からきたプロテスタントの人たちです。・・・つい近年までドイツのしっぽをつけていたわけです。・・・
  スペインの王さまといえば、フランスのブルボン朝の人で、嫁さんのソフイーアさんはギリシャの人です。
 上の階層はそういう流動構造になっている。だから、常に平和でありたいと思っている。ヒトラーみたいなのが出てきて、「ガンバロー」とあおったときナショナリスティックに頑張っちゃったのは、中産階級とその下だった。そういう構造になっている。


 そして堀田は、EC統合によって「ヨーロッパは国境のなかった中世に戻ることになり、レジョナリズム(地方分権主義)の塊になっていく」と予測する。

 一方、司馬遼は「日本がアジアの孤児であることは、鎌倉幕府の成立から決まった。精密な封建制をつくったことで、中国や高麗、その他のアジアとは体制として別な国民になった」と言い、アジアが1つの〝塊"になることはありえないと見ている。
 堀田は、元西ドイツ首相のシュミットに「あなたたちはアジアの友達を持っていない」と言われ、ガーンときたという。

   日本がアジア諸国と違う国になったというのは「封建制の中で、人間が物事をやる能力が身につく。・・・日本人の考え方を製造業に向くようにもっていった」と司馬遼は語る。  もう一つよく分からないが、一度は経済大国にのし上がった日本は、アジア諸国とは異質の体制国家であるということだろうか・・・。

 司馬遼はさらに、これから日本の人口が減っていくなかで「われわれの20パーセントぐらい外国系がはいると思う。・・・憲法下で万人が平等という大原則があるから、日本も小さな合衆国になるでしょう。・・・そうなることをいまから覚悟して・・・決して差別してはいけない。差別はわれわれの没落につながります」と話す。司馬遼が今、目の前にいて話しているような錯覚に陥りそうになる明確な時代予想だ。

 読み終えて、 このブログで「司馬遼太郎が書いたこと、書かなかったこと」(小林竜雄著)でふれた、司馬遼の歴史観を思いだした。

 「時代の風音」で、堀田、司馬遼の両氏が「これまで書き続けてきたのは、戦時中の自分に手紙をだすつもりだったから」と、共に語ったことも印象的だった。
 宮崎が「あとがき」で書いているように「人間は度しがたい」と堀田、司馬遼両氏が呼応するように語ったことも・・・。

 先日、宮崎駿監督の最近作のアニメ映画 「風立ちぬ」を見た。

 「鯖(サバ)の骨のように軽やかな翼を持つ」飛行機の制作を夢見て、 零戦戦闘機を開発した技術者が主人公。なぜ、終戦の日を待っていたように、零戦開発物語なのかと思ったが、零戦を開発し終えた主人公に「あの物量豊かな米国相手に、なぜ戦争を仕掛けのか」と独白させている。

 宮崎監督は「時代の風音」で堀田、司馬遼両氏から教わった「時代の風を読めない愚かさ」を訴えたかったのだと、気がついた。

 

2009年2月 1日

読書日記「歳月」(茨木のり子著、花神社)

歳月
歳月
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茨木 のり子
花神社
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おすすめ度の平均: 5.0
5 温度の高い言葉
5 かつて若かった私達も
5 亡き夫への鎮魂譜

 なにかの書評で、この詩集のことを読んで気になっていたが、うまく見つけられずにいた。宮崎 駿監督が推奨していた、茨木のり子「詩のこころを読む」はこのブログにもちょっと書いたが、同じブログに書いた「詩と死をむすぶもの」 で、谷川俊太郎が絶賛しているのを見つけ、図書館に飛んでいった。

 谷川俊太郎はこの本のなかで、共著者の徳永進医師に、こう問いかけている。
 「茨木のり子さんの最新詩集『歳月』を読みましたか?夫の三浦さんが一九七五年五月に亡くなってから、三十一年にわたって茨木さんは四〇篇近い詩を書き溜め、それらを生前は筐底深く秘めていて出版されなかった、それが本になったんです。茨木さんの人間としての、女性としての最良の部分が言葉になったという印象です。詩とそれを書いた詩人とのあいだに、邪なものは何ひとつ存在しない。詩と詩人の幸せで誠実な一致。詩を基本的にフイクション、少々シニカルに言うと美辞麗句、巧言令色などと考えているぼくにとってはいい薬です」


 読み始めて、一篇ごとに、最近はあまり感じなくなった戦りつが何回も走った。
 この詩集を書評めいて書く力は、私にはない。著作権にふれるのだろうが、数篇をただここに書き写すことしかできない。

    一人のひと
ひとりの男(ひと)を通して
たくさんの異性に逢いました
男のやさしさも こわさも
弱々しさも 強さも
だめさ加減や ずるさも
育ててくれた厳しい先生も
かわいい幼児も
美しさも
信じられないポカでさえ
見せることもなく全部見せて下さいました
二十五年間
見ることもなく全部見てきました
なんと豊かなことだったでしょう
たくさんの男(ひと)を知りながら
ついに一人の異性にさえ逢えない女(ひと)も多いのに

    
ふわりとした重み
からだのあちらこちらに
刻されるあなたのしるし
ゆっくりと
新婚の日々より焦らずに
おだやかに
執拗に
わたしの全身を浸してくる

この世ならぬ充足感
のびのびとからだをひらいて
受け入れて
じぶんの声にふと目覚める

隣のベッドはからっぽなのに
あなたの気配はあまねく満ちて
音楽のようなものさえ鳴りいだす
余韻
夢ともうつつともしれず
からだに残ったものは
哀しいまでの清らかさ

やおら身を起し
数えれば 四十九日が明日という夜
あなたらしい挨拶でした
無言で
どうして受けとめずにいられましょう
愛されていることを
これが別れなのか
始まりなのかも
わからずに

   歳月
真実を見きわめるのに
二十五年という歳月は短かったでしょうか
九十歳のあなたを想定してみる
八十歳のわたしを想定してみる
どちらかがぼけて
どちらかが疲れはて
あるいは二人ともそうなって
わけもわからず憎みあっている姿が
ちらっとよぎる
あるいはまた
ふんわりとした翁と媼になって
もう行きましょう と
互いに首を絞めようとして
その力さえなく尻餅なんかついている姿
けれど
歳月だけではないでしょう
たった一日っきりの
稲妻のような真実を
抱きしめて生き抜いている人もいますもの


2009年1月 3日

読書日記「ジャガイモのきた道――文明・飢餓・戦争」(山本紀夫著、岩波新書)


ジャガイモのきた道―文明・飢饉・戦争 (岩波新書)
山本 紀夫
岩波書店
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おすすめ度の平均: 4.0
4 岩波新書にしては読みやすい、ジャガイモ文明論
4 ジャガイモで文明はおきるのかを説明
5 まさに「歴史ドラマ」を垣間見せてくれる一冊
4 ジャガイモで発展したインカの山岳文明
3 ジャガイモの歴史と役割をサクッと読める一冊


 昨年5月に発刊されて以来、気になっていた本だった。「また食べ物の本もなあ」という、つまらない〝自制〟のおかげで手にしないでいたが、昨年末の新聞書評欄の「今年3冊」に何度か取り上げられるのを見て、ついにがまんできなくなった。

おもしろかった。

 国立民族学博物館名誉教授の著者は、初めてアンデスを旅した際「アンデス・インカ文明を生んだのはトウモロコシ」という世界的な通説にふと疑問を持つ。そして毎年のようにアンデスに通い、それまでの専門だった植物学から民族学に転向してしまう。

 そのへんのいきさつは、ある機関紙の対談にも載っている。数年間の滞在研究の結果、インカ帝国の主食はジャガイモであり、トウモロコシは太陽にささげられる酒の原料になる儀礼的な作物であったことを〝発見〟してしまうのだ。

 筆者がジャガイモに興味を持ったのは、京大2年の時に中尾佐助の「栽培植物と農耕の起源」(岩波新書)という本に運命的に出会ったからだという。このブログにも、以前に書いたが、あの宮崎駿監督が人に勧めてやめない本である。

 山本名誉教授によると「わたしたちが日常食べている『栽培植物』はすべて人間が作り出したものである」という。そして野生の雑草だったジャガイモを食物として栽培することに成功したインダス文明。そのすごさを、フイールドワークで見つけた事実を積み重ねて実証していく。
インカの人々は、チューニョ加工と呼ばれる毒抜き(イモ類にはすべて有毒成分が含まれているという)、乾燥技術を開発し、栽培化されたジャガイモを、標高4000メートル近いアンデス高原をその花で埋め尽くす(山本紀夫写真展から)大量生産品種に育て上げた、というのだ。
 「イモ農耕では文明を生まれない。穀物文明こそ文明社会成立の必須基盤だ」という、これまでの考古学、歴史学の常識に反論していくのも痛快な記述だ。

 著書は、副題にある〝文明〟から〝戦争・飢餓〟へと展開していく。ヨーロッパにジャガイモが伝播・普及していく歴史である。

 最初は、「聖書にも出てこない作物」と気味悪がれたり、食べるとらい病になると信じられて「悪魔の植物」と呼ばれたりしたジャガイモがフランスで普及していったのは、7年戦争後の飢餓を経験した18世紀。ルイ16世の呼びかけに応じてジャガイモの普及に努力したのが、農学者のアントワーヌ・パルマンティエ
パリ市内や地下鉄の駅には銅像が建てられており、今でもフランスではジャガイモ料理に〝パルマンティエ〟の名前をつけた料理がいつも添えられ、その功績をたたえているという。

 ルイ16世の王妃・マリーアントネットが、普及のためにジャガイモの花の髪飾りをつけたという話しは「キャベツにだって花が咲く」(稲垣栄洋著、光文社新書)に書かれていたのを思い出した。

 ジャガイモがオランダで普及したことを示す、有名な名画を口絵で紹介している。
 ファン・ゴッホが1885年に描いた「ジャガイモを食べる人たち」だ。
 著者は「ジャガイモを掘り起こした(泥のままの)手で皿に山盛りされているイモを食べている農民の家族を描いたもの」と「ゴッホの手紙」を引用しながら紹介している。ジャガイモが、当時の生活に欠かせない食物だったことが分かる。

 ジャガイモの疫病が生んだアイルランドのジャガイモ大飢饉についても、著者は多くのページを割く。大飢饉で100万の人が死に、アイルランドから去っていった人は150万人に達したという。その一人が、米国大統領になったJ・F・ケネディの祖父だった。

 イギリスとアイルランドの抗争は、大飢饉の時のイギリス政府の植民地政策のせいだった、という。イギリスのブレア元首相が謝罪して、1998年にIRAとイギリスの和解が成立したという記述があるWEBページに載っている。

 日本へのジャガイモ伝ぱ・普及の歴史は「川田男爵の開発したダンシャクイモ」「明治文明開化とカレー」「大正時代のコロッケ」「戦中、戦後の代用食」など、これまでも聞いたり、知っていたりしていたりしたことも多い。

 ただ、終章で著者は、こう説く。
日本の食糧自給率は、主要先進諸国で最下位である。...自給率の高い国一〇カ国のうち六カ国・・・カナダ、フランス、アメリカ、ドイツ、イギリス、オランダは・・・ジャガイモの生産量が大きい国である
飽食といわれる日本こそ、そして小麦やトウモロコシなどの穀物価格が高騰している・・・今こそ、過去に学び、食糧源として大きな可能性を秘めるジャガイモなどの・・・長所を見直し、将来に向けて準備をしておく必要があるのではないだろうか


 減反によってイネを捨て、買いすぎたイモを腐さらす。そして正体不明の輸入食品に頼る飽食・日本は、はたして〝文明〟の国なのだろうか。余談ながら、ふとそんなことも思った。

栽培植物と農耕の起源 (岩波新書 青版)
中尾 佐助
岩波書店
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おすすめ度の平均: 4.5
4 育種に歴史に興味のある方にお勧め。
4 "生"のための農業
5 文明の基盤がいかに作られたかを明らかにする名著

キャベツにだって花が咲く (光文社新書)
稲垣栄洋
光文社
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おすすめ度の平均: 5.0
5 ユニークな発想。おもしろい。


2008年11月18日

蓼科・紅葉紀行(2008・11・1~3)



 紅葉を訪ねて、11月の初めに信州・蓼科に出かけた。

 昨年7月には、蓼科にある友人・I君の山荘を訪ねたが、今回は友人Mが加入している「エクシブ蓼科」というリゾートクラブに同行させてもらった。

 午後に大阪を出たので、中央線・茅野駅着が午後5:30。すっかり暗くなって、なにも見えない。翌朝、部屋から見えるカラマツ林の黄葉と葉を少し残した白樺、窓から流れこむ冷気が、やっと信州を感じさせてくれた。

 タクシーで横谷渓谷の入り口、横谷観音へ。

 ここは、昨年の夏、I君の別荘を辞した後、若い時によく歩いた八ヶ岳を見たくて泊まった奥蓼科温泉の近く。ここから八ヶ岳・縞枯山ロープウエイまでのバスに乗ったが、雨だった昨年とは大違い。紅葉狩りの観光客でけっこうにぎわっている。

クリックすると大きな写真になりますクリックすると大きな写真になります タクシーの運転手さんは「1週間遅かったね。先週は、それはきれいだった」と言ったが、観音入口まで道路にある紅葉(写真①)は、けっこうな色合いだ。

 運転手さんに勧められて、世界の樹木の化石などを集めた「柏木博物館」をのぞいた(運転手さんが受付の人に声をかけてくれ、入場料が100円安くなった)。埋れ木に浸みこんだ溶岩の鉱物が創り出す不思議な文様はいつまで見ていてもあきない。入口前にあるドウダンツツジの生垣も見事だ(写真②)。

クリックすると大きな写真になります  横谷観音展望台に下った。雲ひとつない快晴の空の向こうに、すでに冠雪したアルプスの山々がくっきりと望める。(写真③)
 右から北アルプス。学生時代に友人Sと新雪を踏んで登った西穂高。その奥に槍ヶ岳。中央アルプス・御岳山では、ご来光を仰いだ後に、うとうとしてしまって紫外線を浴びすぎ、翌日、顔の皮がすっかりむけてしまったことを思い出す。左に見える南アルプス・北岳は、腰痛で途中断念した忘れられない山だ。

クリックすると大きな写真になりますクリックすると大きな写真になります 展望台からけっこうきつい下り坂をゆっくりと30分。王滝(写真④)で一休み。朝食の残りのパンにジャムをはさみ、携帯燃料で沸かしたお湯でいれた紅茶にアイル島のシングルモルトをちょっぴりたらす。 確かに紅葉のピークは過ぎているようにみえるが、赤や黄色、茶色のコラボレーションはけっこう楽しめる。1時間半ほど下った乙女滝(写真⑤)付近の紅葉は、これからという感じ。




クリックすると大きな写真になりますクリックすると大きな写真になりますクリックすると大きな写真になります 元気いっぱいの友人Mに引きずられて、蓼科湖までさらに2時間弱、イチョウの黄色や周辺の山々の紅葉(写真⑥)をめでながら歩いた。蓼科湖で紅葉の群落をたっぷり楽しみ(写真⑦)、湖畔の蕎麦屋でざるそばと熱燗。



 翌朝は、タクシーで、尖石(とがりいし)縄文考古館に向かう。

クリックすると大きな写真になります 途中、運転手さんに「東山魁夷が描いた池を見に行かないか」と誘われた。湖畔に白い馬がたたずむ、あの絵「緑響く」だ。奥蓼科温泉方向へ左折して10分前後。御射鹿池は農業用のため池だが、カラマツ林のすぐそばに作られたためだろう。黄葉の林を水面に映しだしている(写真⑧-2)。タクシー代で3000円前後のぜいたくな寄り道。

 途中、南八ヶ岳の山々が見事に望める。山麓のオーレン小屋を起点に、横岳、赤岳、硫黄岳をよく歩いたものだ。硫黄岳のガレ場に群生していた高山植物の女王、コマクサの見事さを思い出す。同じ高山植物のセリバオーレンから名づけられたオーレン小屋は、今でも健在だという。もう、山頂に立つのが難しいだろうが、別棟の風呂小屋もまだあるのだろうか。

 横谷渓谷の下流にかかる橋を渡る。見事なカラマツの黄葉だ。なぜか、このあたりはカラマツが多い。八ヶ岳山麓あたりは唐檜(とうひ)の原生林?が多かったが。

 運転手さんによると、これらのカラマツ林は明治時代から戦後にかけて、このあたりに開拓に入った人々が植林したのだという。「成長は早いが、使い道が少ない。チップにしてしまうしか・・・」

 しかし、たまたま読んだ宮崎駿監督の「折り返し点」のなかに「カラマツは役に立つんです」と話す講演記録が載っている。「電信柱や炭鉱の坑木として、カラマツはお金になると言われて、いま八ヶ岳南麓を占める森になったのです。・・・長野オリンピックではカラマツの集成材を使ったスケートリンクが話題になりましたが、集成材にすれば巨大な建物も全部木造で造れます」

クリックすると大きな写真になりますクリックすると大きな写真になりますクリックすると大きな写真になります 尖石(とがりいし)縄文考古館は、昨年夏にI君に連れていってもらったが、もう一度、あの国宝の土偶「縄文のヴィーナス」(写真⑨)を見たくなった。

 切れ長の目の顔に続く、デフォルメされたおなかや尻の見事さに、縄文文化の奥深さを思う。重要文化財の土偶「仮面の女神」(写真⑩)は、死の霊から守るために仮面をかぶっているという。その後に続く日本人の死生観の原点をみる思いがする。

 考古館周辺は、尖石遺跡や与助尾根遺跡の住居などが整備された史跡公園(写真⑪)になっている。

 広い緑の芝生や林の落ち葉を踏みしめて歩きながら、縄文文化の素朴な豊かさに思いをはせた。

2008年11月11日

読書日記「菜菜ごはん」「ますます菜菜ごはん」(カノウユミコ著、柴田書店)


 3年前に女房を亡くしてから月に1回だが、料理教室に通いだした。

 レシピ、特に調味料のさじ加減を間違わないとしっかり、ちゃんとしたものができる。ちょっと料理がおもしろくなってきた。しかし先月、ハンバーグの付け合わせに作った「人参のグラッセ(人参の砂糖、バター煮)」には、いささか辟易した。もっと素朴な野菜料理が食べたくなる年齢なのに。

 ニューヨークに野菜料理の勉強に行っている次女が先日、一時帰国。紹介してくれた数冊の本の一つがこれ。「菜菜」は「なな」と読むのだそうだ。

 二女は外では肉や魚を食べることはあっても、作る料理は野菜が基本(ブログ「ニューヨークベジ生活」だそうだが、この本も「野菜・豆etc・すべて植物素材でつくる満足レシピ集」とある。それでも、本棚にあるいささか精進料理くさい「粗食のすすめ」(幕内秀夫著、東洋経済新報社)のレシピ集(春夏秋冬ごとに4冊)より、魅力的な料理が並んでいる。

  • キャベツの豆腐ソースグラタン
      キャベツとマッシュルーム、長ねぎを炒め、塩で下味。ミキサーにかけたリーブ油、レモン汁のソースをかけ、パン粉をふってオーブンで焼く
  • 大根の塩味グリル
      オリーブ油と塩をまぶした大根の表面ににんにくをのせ、天板をはさんでオーブンで焼く
  • 大豆のパエリア
  • 油揚げの焼き豚風
  • アスパラとエリンギの酒かすソースグラタン
  • セロリの葉と納豆のチャーハン
  • 万能ねぎのとろろ焼き
  • もやしのベトナム風お好み焼き


 カラー写真の出来もよいのだろう。見るからにおいしそうなのがいい。レシピが簡単で、ちょっと作ってみたくなるのもいい。
 この2冊。芦屋市立図書館に申し込んだら、最初の「菜菜ごはん」は三田市立図書館がから回ってきて、後の「ますます菜菜ごはん」だけ芦屋の図書館にあった。それだけ、借りられるまで時間がかかった。よく分からない仕組みだ。

最近、読んだ本
    •   「ボックス」(百田尚樹著、太田出版)  
      この著者の本を、このブログに書くのは「永遠の〇」「聖夜の贈り物」に続いて3冊目だが、いささか拙速感が・・・。
       高校ボクシング部を取り上げた青春小説だが、ストーリーの盛り上がりは、もう一つ。表題の「ボックス」というのは「レフエリーの"戦え"という合図」という説明から始まって、ボクシングのテクニックの紹介に多くのページが割かれる。
       「エピローグ」で、ボクシンブの顧問でこの小説の語り部役だった女性教師がつぶやく。
      ――その時、誰もいないリングに風が吹いたような気がした。・・・『あの子は・・・風みたいな子やった』

       そう、そんなさわやかさはたっぷり味わえる。
       文中に「英和辞書で『science』を引くと『ボクシングの攻防技術』と書かれていた」という記述がある。これは、知りませんでした。私の電子辞書には載っていなかったけれど。


    •   「詩のこころを読む」(茨木のり子著、岩波ジュニア新書)
        スタジオ・ジブリのプロデューサである鈴木敏夫氏が著書「仕事道楽」のなかで「宮崎駿監督に勧められた」と書いている本。
       茨木のり子という詩人は気になる作家だったが、当方は根っからの散文的人間。昔から、詩というものがサッパリ分からずにきた。読んでみたが、やはり詩が分からないことを再認識した。
       ただ、引用された詩への茨木のり子の静ひつさに満ちたコメントが分かりやすい。「詩というのも、いいものだな」。ちょっと、そう思えた。


    •   「折り返し点 1997~2008」(宮崎駿著、岩波書店)
       「もののけ姫」「千と千尋の神隠し」「ハウルの動く城」から、最新作「崖の上のポニョ」完成までの、企画書、エッセイ、インタビューなどを収録したもの。「仕事道楽」と一緒に借り入れの申し込みをしたのが、やっと手元に届いた。
       同時に何冊かを借り、返却期限が迫ったので、500ページのほとんどを読めなかった。そのなかで、2001年の「千と千尋の神隠し」の記述から、気になった箇所をいくつか。
       かこわれ、守られ、遠ざけられて、生きることがぼんやりしか感じられない日常のなかで、子供達はひよわな自我を肥大化させるしかない。千尋のヒョロヒョロの手足や、簡単にはおもしろがりませんよウというぶちゃまくれの表情はその象徴なのだ。けれども、現実がくっきりし、抜きさしならない関係の中で危機に直面した時、本人も気づかなかった適応力や忍耐力が湧き出し。果断な判断力や行動力を発揮する生命を自分がかかえていることに気づくはずだ

        『現実を直視しろ、直視しろ』ってやたらに言うけれども、現実を直視したら自信をなくしてしまう人間が、とりあえずそこで主人公になれる空間を持つっていうことがフアンタジーのだと思うんです

         ――両親をなぜ豚に変えてしまったのですか
       千尋が主人公になるために邪魔だったからです。『はやくしなさい』の連呼とかフレンドリーにご機嫌をとる両親の下では、子供は自分の力を発揮できません

       ――豚になった千尋の両親たちは、自分が豚になっていたことを覚えているのでしょうか
       覚えてないですよ。不景気だ、エサ箱が足りないって今もわめきつづけているじゃないですか


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    3 再度レビューします
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    5 驚きました
    5 これは感激
    5 動物性,砂糖ゼロのアイスにびっくり

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    2 一般人には不向き?
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    5 図書館で借りて二日間(3時間半)で読了
    4 おもしろいおもしろい
    5 名作マンガ「ピンポン」と「柔道部物語」をあわせて読んだ感じ
    5 カタルシスは訪れない。
    5 今年のマイベスト!

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    5 ずっと手元に置いておきたい本です
    4 すばらしいのだと思います。
    5 小さな宝物のような本
    5 詩・文学への優しい優しい招待状

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    4 「もののけ姫」「千と千尋」まで
    5 子供のために
    5 12年間に渡る作品の軌跡


    (追記)
    読書日記「菜菜おつまみ②」(カノウユミコ著、柴田書店)=2011年6月17日
     先日、JR芦屋駅前の市立図書館大原分室に行ったら、返却棚でこの本を見つけ"衝動借り"してしまった。

     「菜菜ごはん」を買ったのがもう2年半も前だったのに改めて驚いたが、この「おつまみ」編にも、魅力的野菜料理が並んでいる。

     例えば、半分に切って焼いた米ナスに、とろろとオリーブ油、レモン汁、ネギの小口切りを合わせたソースをたっぷりかけた「焼き米ナスのねぎとろろがけ」。「マーボかぼちゃ」に「焼きごぼうのみそ添え」「いんげんの塩蒸し」・・・。

     蒸したブロッコリーに、充填豆腐などのソースを合わせて「ブロッコリーのベジマヨネーズサラダ」は、昨夜のビーフシチューのすばらしいわき役となった。

     最近、干し野菜にいささかこっているので「きゅうりの天日干し、カレー炒め」は、プランターのきゅうりがそろそろ食べごろなので、さっそく試してみよう。
     簡単なピクルス、漬物類に挑戦してみるのも楽しみだ。

2008年10月20日

読書日記「仕事道楽」(鈴木敏夫著、岩波新書)


 宮崎駿著の「折り返し点 1997~2008」(岩波書店)という本と、この本は「まるであらかじめ企画されたように相補的な照応関係をなしている」。読売新聞の書評欄で分子生物学者の福岡伸一氏が書いているのを見て図書館に借り入れを申し込んだが、この著書が先に借りられた。

 本の軸になっているのは、「もののけ姫」や「千と千尋の神隠し」などをヒットさせたプロデューサーの著者と、宮崎駿、高畑勲両監督との仕事を通じての葛藤ぶり。

 「高畑・宮崎の二人との出会いは強烈でした」と、著者は切り出す。アニメ雑誌の記者だった著者は、二人ともっとつきあいたいと思い、そのためになんとしても「彼らと教養を共有したい」と思う。そのため、二人が言ったことを全部、ノートに書きまくる。分かれた後は喫茶店に入って、一生懸命思い出しながら抜けているところを埋める。家に帰って、もう一度ノートに書き写す。寝る時間は極端に減ったが、それを毎日続ける。「これをやらないと、この人たちと五分につきあえないと感じていたのです」

 "取材記者″の基本と言ってしまえばそれまでだが、おかげで著者は二人の魅力に引きずりこまれ、スタジオ・ジブリのプロデューサーになってしまう。

 二人には「この本読みましたか」と、よく聞かれたという。

 高畑監督からは、ドナルド・リーチという人の『映画のどこをどう読むか」という本を教えてもらい、スタンリー・キューブリック「バリー・リンドン」という映画のおもしろさを知り、目からうろこが落ちる。

 宮崎監督には、中尾佐助の「栽培植物と農耕の起源」(岩波新書)のことを聞かれ、読んでないと言うと「無知ですね」とやられる。「日本の精神性と生活の基盤に・・・照葉樹林文化が存在する」とした」(福岡伸一氏)この本は「もののけ姫」などの発想につながっていく。

 高畑監督が「おもいで」というアニメを制作する時のこだわりがすごい。

 「おもいで」にとりかかった時に、NHK人形劇「ひょっこりひょうたん島」が雑誌で特集されており、高畑氏は、そのなかの2曲をどうしても聞きたいという。ところが、NHKの録画ビデオ、コロンビアのレコード、作曲家の自宅にも残っていない。しかし、高畑監督はあきらめない。そこで、いわゆる「マニア」の子に事情を話し、5日後に北海道の子が持っているのが見つかった・・・。

 「おもいで」のテーマは、山形の紅花摘みがテーマ。監督は、紅花作りの現場を見に行き、資料を集めて1冊のノートを完成させる。これを読んだ米沢の紅花の達人が言う。「これはたしかに、いちばん正しいやり方だ」

 紹介されているアニメ制作の職人気質のエピソードもおもしろい。

 「となりの山田くん」の顔はやたらと大きく、二頭身。これをアニメに描くのは至難の業らしい。そこで、職人気質の二人が話しをする。「どうやって歩かせてる?」。まかされている職人は、2本指を足に見立てて動かせてみせる。「やっぱりそうですよねえ」。「なんか武芸者同士の会話みたい」と、著者はおもしろがっている。

 ジブリには4つのスタジオがあるが、ちょっと離れたところに借りた一軒屋があり「力はあるが、時間がデタラメという人は、ここで仕事をしてもらう。一度は辞めたいと言ったある絵描きはここにおり、今回の「崖の上のポニョ」でもすごい力を発揮したらしい。

 ジブリの作品が大当たりばかりだと、いささかやっかみ半分の批判も飛び出してくる。

 文藝春秋10月号の書評欄には、宮崎監督の作品について″エコブームに悪乗り"めいた批評が載っていたし、雑誌「正論」の11月号にも「もののけ姫などに隠されているメッセージは『上の世代になにをされても恨むな』ということ」という、なんだかよく分からない評論が掲載されている。

 しかし、技術者だけで1000人を越えるというディズニーからの提携の申し込みを断わり"町工場"に徹するスタジオ・ジブリの手法は、悩める日本の産業に大きな示唆を与えているように思える。

 今年で、高畑監督73歳、宮崎監督67歳、鈴木プロデューサー60歳というシルバー軍団に、バンザイ!

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4 個性的な人たちとの仕事のしかた
4 楽しく大変に
5 正直、鈴木さんは「やっぱり凄い人だな」と思った。
4 聞き書きは共著にするべきだ

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