読書日記「ボケてたまるか! 62歳記者認知症早期治療実体験ルポ」(山本朋史著、朝日新聞出版)
ボケてたまるか! 62歳記者認知症早期治療実体験ルポ
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山本朋史
朝日新聞出版 (2014-12-05)
売り上げランキング: 96,091
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著者は、62歳(発刊当時)の週刊朝日記者。60歳の定年後も1年契約の編集委員として取材を続けていたが、最近もの忘れがひどくなってきたことが、気になってしかたなかった。
必要な書類をどこに置いたのかを忘れてしまう。テレビを見ていて俳優の名前がでてこないことにイラつく。取材の約束を忘れることもあった。住所録をめくってみても、知人の名前が出てこない。取材したことがある政治家の名前さえ忘れてしまっている。
電車で降りるべき駅を乗り越すことが増え、取材の途中で、次の質問の言葉が出てこないこともある。それに、最近怒りっぽくなった。「威圧的な発言も認知症の第一歩」と、聞いたことがある。
「取材の日程をダブルブッキングしてしまう」という、記者として致命的ともいえる"事件"を起こして、ついにもの忘れ外来を受診する決心がついた。
担当記者に相談して筑波大学教授で、東京医科歯科大学の特任教授として、週に1回、もの忘れ外来を担当している朝田隆医師の診断を受けることになった。
最初に朝田医師と助手の女性から、様々なテストを受けた。
医師の言うグー、チョキ、パーの形を右手で作り、左手でそれに勝てる形を作る。両親や兄弟の名前や年齢などの記憶力を聞かれ、助手からは文章力、図形力、常識力などを調べられた。
読まれた300字ほどの文章を聞いて記憶、5分後と40分後に同じ内容を言わされた。テストは、2時間ほどで終わった。
これは 「認知機能検査(MMSE)」と呼ばれ、この本の巻末に収められている。同じような検査は、WEB上でもいくつかUPされている。
最寄りの病院で、 CTと MRIの検査を受けるように言われ、紹介状を渡された。本来はいけないのだろうが、開封して詠んでみた。
「認知症の疑いが強いため、克明に調べてください」
認知症!その文字を見て、「がーん」となった。
認知症!その文字を見て、「がーん」となった。
朝田医師からは「 軽度認知障害(MCI)の疑いがあるが、それほど症状は進んでいません。MRIもCTもこれからの治療の基礎資料にするためです」と、言われていた。しかし、気休めの言葉としか聞こえなかった。
認知症治療についての知識が皆無だった筆者は、2度目の診断でいくつかの質問を朝田医師にぶつけた。
認知症によい食べ物は?
「ビタミンA,C、Eがいい。それにDHA。青身魚に含まれている成分が効果的であることは間違いない。ゴマ油がいいとか鶏の胸肉が効果的という意見もありますが、まだはっきりした症例結果があるわけではないので・・・」
酒好きで、今も毎日ですが?
「アルコール依存症のレベルまでいったら話は別ですが、アルコールと認知症の関係は、これまでの症例結果からすると、せいぜい1%「あるかないかですよ」
アルコールの覚醒作用のせいで、睡眠導入剤を常用している?
「アルコールと睡眠導入剤ですか。それは、いいことではありません。しかし、それで認知症が進むという因果関係は少ないと思います」
3度目の診察では、CTとMRI画像が届いていた。
CT画像では、白く映っている血管が少し太くなっている部分が3か所ほど見つかった。
「太くなったところは、血流が止まったり、詰まったりする箇所。こういう部分で脳梗塞が起きる可能性がありますが、山本さんぐらいの年齢になるとどなたにもあり、特に心配はいりません」
いよいよ問題のMRI画像だ。
特に、海馬は、 β―アミロイドの攻撃で脳神経がたくさん壊され、 アルツハイマー型の認知症を告知されたら・・・。
「ここが海馬です。黒く欠けたような部分が少なく、あまり萎縮していません。・・・現段階では7まだ認知症の心配はないと思われます」
実は朝田医師は、筆者の認知機能検査や手指の動かし方テストで、手先の器用さや機敏性が衰えているのかもしれないと最初から考えていた。
「平常時に注意力が散漫になることがしばしばありませんか』と聞かれたが、まさにその通りだった。
筑波大学附属病院で週に2回行われている認知力アップトレーニングへの参加を勧められた。
筋力トレーニングで胸の筋肉がピクピクするまで体力が回復して認知力がアップしたケースもある。絵画や音楽で認知力が向上したケースもある。
「アタマ倶楽部」という頭脳力アップゲームを使うほか、料理のプログラムも始めた、という。
筋力トレーニングでは、のっけからショッキングなことがあった。
指導するのは、ボディビルダーの 本山輝幸さん。
「初めてですね。まず、いすに軽く腰掛けて、右足を水平より高く上げてください。はい10秒間」
ぼくはわけがわからないまま、ただ、言われる通りに足を上げた。
「1、2、......10。はい、足を下ろしてください。右足はいま痛いですか」
最初は、痛いという意識はまったくなかった。
「ほとんどといっていいほど、痛くありません」
ぼくの言葉を聞いて、本山先生の顔つきが変わった。
「痛くないということは、感覚神経が脳に繋(つな)がっていないということを意味します。あなたはMCI(軽度認知症)になっているのかもしれません。でも、心配されることはありません。筋肉に刺激を与えてトレーニングすれば、3カ月ぐらいで感覚神経が脳に繋がります。後は治りは早いはず」
ぼくはわけがわからないまま、ただ、言われる通りに足を上げた。
「1、2、......10。はい、足を下ろしてください。右足はいま痛いですか」
最初は、痛いという意識はまったくなかった。
「ほとんどといっていいほど、痛くありません」
ぼくの言葉を聞いて、本山先生の顔つきが変わった。
「痛くないということは、感覚神経が脳に繋(つな)がっていないということを意味します。あなたはMCI(軽度認知症)になっているのかもしれません。でも、心配されることはありません。筋肉に刺激を与えてトレーニングすれば、3カ月ぐらいで感覚神経が脳に繋がります。後は治りは早いはず」
これだけのトレーニングだけで、本山さんに「すぐに軽度認知症かグレーゾーンにかかっていると見抜かれてしまった。
本山さんは言う。
「トレーニングをする場合、鍛えるべき筋肉に自分の神経を集中して。脳と体の感覚神経ノネットワークを構築するよう心がけたほうがいい。鍛えている際に筋肉の痛みや刺激をより強く感じられるようになってきたら、脳と体の感覚神経がつながってきた証拠です」
筋力トレーニングの効果は少しずつ出てきた。音楽、絵画、料理療法も受けたが、定期的に受ける認知機能検査の数値は、もうひとつ良くならない。
しかし、認知力アップトレーニング・デイケアでの仲間も増えた。「三歩進んで、二歩下がる」「ボケてたまるか!」・・・。山本さんの挑戦は続く。