読書日記「注文をまちがえる料理店のつくりかた」(小国士郎著、写真:森嶋夕貴、方丈社刊)
注文をまちがえる料理店のつくりかた
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小国士朗
方丈社 (2017-12-17)
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著者は、NHKのディレクター。大手広告代理店に出向中にある認知症介護施設に取材に行った時に、認知症の入居者がつくる昼食が「ハンバーグのはずだったのに、餃子が出てきた!」。「これ、間違いですよね?」という言葉を飲み込んで思いついたのが、この料理店だった。
「料理の注文を取るホールスタッフが、みんな"認知症"の状態にある料理店をつくる」。このアイデアに、広告代理店の同僚など多くの人が「それは、おもしろい」と飛びつき、著者がプロジェクトの発起人になった。カメラは、写真家としての実績を積んでいる 森嶋夕貴さんが担当してくれた。
ホールスタッフは、介護施設の統括マネジャ、和田行男さんが人選、資金は クラウドファンティング会社の 「Readyfor」が、目標800万円を上回る1291万円を24日間で集めてくれた。
ITやデザイン、外食サービス会社の協力で、ホールスタッフに倍するボランティアのスタッフがたちまち集まった。
昨年6月、レストランを運営する RANDYがテストキッチンに使っていた東京・六本木の店舗を貸してくれることになった。プロジェクトのイメージどおりの店だった。2日間のプレオープン、3か月後の本格営業3日間だけ、看板を換えることもOKしてもらえた。「注文をまちがえる料理店」の「る」だけが縦書きになっているのは,「"認知症"状態にあるホールスタッフがサービスをする店であることを示している。
"認知症"状態のホールスタッフのために特注したエプロンには「間違えて、ごめんねと、ペロリと舌を出す「てへぺろ」のマークがついている。
店の名前には、認知症スタッフから「間違えることを象徴させるなんて、馬鹿にしているのか」といった怒りの声もでた。途中で「関わりたくない」と帰ってしまった人もいたらしい。
メニューは3種類。RANDYが「タンドリーチキンバーガー」、ラーメンの 一風堂の「汁なし担々麺」。汁がないのは「運ぶときに火傷をしないように」という配慮からだ。ジャスミンライスが添えてあるが、認知症スタッフが「お皿に余ったソースをからめて食べてください」と説明できるようになったのは最終日だった。
それとオムライス。 グリル満点星特製の小海老とホタテ、8種類の野菜が入ったピラフをふわとろの卵でつつんだ。
前菜のサラダには、ホールスタッフが大型のミルでコショウをかける。重いミルを扱うのを、お客さんやスタッフが一生懸命応援した。
デザートは、羊羹の 虎屋特製の「へぺろ焼」。やわらかいこし餡をしっとり感のある生地で包み「てへぺろ」のロゴを職人がひとつずつ押した。
コーヒーは、 カフェ・カンパニー、清涼飲料はサントリーが提供した。
しめて、料金は1000円。認知症スタッフが疲れないようにと、1コマ90分の総入れ替えにした。1コマのお客さんは」24人、1日4コマ。3日かんで計288人のお客さんを迎えた。2日目は台風がきたが、外は雨を避けて待つ客で満員だった。
当日券はすぐに売り切れたが、台風の中大阪から夜行バスでかけつけた女性にはキャンセルした翌日の席を確保できた。
プレオープンの時には60%だった間違い発生率が、スタッフの努力もあって半減した。
しかし、事件もあった。さきほどまでホールスタッフとして頑張っていたシズさんが、急に「嫌だ、嫌だ」とエプロンを脱いでしまった。
休憩時間に控室に行ったら、普段見慣れない人たちがいて急に不安になったのだ。大雨のなか、街を歩き出すシズさんに、サポートスタッフがぴったりと寄り添って歩いた。
デザートが終わると、若年認知症の三川康子さんのピアノとチェロを弾く夫の一夫さんの演奏が始まる。康子さんは、音大を出て長年音楽の先生をしていたが、この病気になって仕事が続けられなくなった。
3日目のこと。最初の1章節で康子さんの引く音が少し引っかかった。終わって拍手に包まれても、康子さんは席を立とうとしない。3回、4回・・・。「だめだ・・・」と一夫さんの顔を向いてつぶやいた康子さん。5回目にひっかかりそうになりながら、完璧に弾き終えた。
「ブラボ!!!」。歓声と割れるような拍手が続いた。
プロジェクトを終えて、スタッフ全員は和田さんがリードする「一本締め」で充実感を味わった。
ITスタッフが発信した情報はSNSで世界を駆け巡り「注文をまちがえる料理店」をやりたいたい、という注文が殺到している、という。
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