読書日記「高峰秀子の流儀」(斎藤明美著、新潮社刊)
斎藤 明美
新潮社
売り上げランキング: 5366
新潮社
売り上げランキング: 5366
おすすめ度の平均:
大女優の流儀とは -質実剛健とも言える力強さ-すがすがしい
客観的な視野はない、けれど・・・・
フリーの雑誌記者である著者は、55歳で引退して以来世間との交際を見事に絶っている高峰秀子 、松山善三夫妻の自宅に自由に出入りできる、おそらく唯一の人。
著者が見聞きしたエピソードを積み重ねたこの本は、元・大女優の"流儀"、生きざまを見事に浮かび上がらせてくれる。
動じないーーー。恐らくこの言葉ほど、高峰秀子を象徴する言葉はないだろう。
その性格は「デブ」と呼ばれる養母の前で「いつも鎧をつけていた」なかで培われたものらしい。
養母との葛藤は、高峰秀子自身の著書「わたしの渡世日記 上」(文春文庫) 「同 下」(同) にも詳しい。
わたしの渡世日記〈上〉 (文春文庫)
posted with amazlet at 10.06.29
高峰 秀子
文藝春秋
売り上げランキング: 8402
文藝春秋
売り上げランキング: 8402
おすすめ度の平均:
希有な女優デコさんはこの上下巻から読みました。(‾o‾)
銀幕とは裏腹に
20代の私でも。
おもしろかった
わたしの渡世日記〈下〉 (文春文庫)
posted with amazlet at 10.06.29
高峰 秀子
文藝春秋
売り上げランキング: 8423
文藝春秋
売り上げランキング: 8423
おすすめ度の平均:
さっぱりした読み応えです。文章の巧みさと面白さ
読み終わって気持ちが暖かくなりました。
ポツダム宣言から。
4歳で映画界入りして以来、高峰秀子の両肩には、義母とその親族10数人を養うという重荷がのしかかる。義母はあからさまな男性遍歴を続ける。
昭和26年、大邸宅を義母の名義に換えて、逃げるようにパリに向かう。半年後、帰国すると自宅は旅館に替わっていた。1週間後、女中に「1泊3千円」の請求書を突きつけられた。知人に前借りをして「1泊2千7百円」の帝国ホテルに移った。その他の雑費も重なり1本100万円の出演料は、入ったとたんに消えていった。
義母の死、そして月給1万2千5百円の助監督、松山善三との結婚で「一切"振り返らない"」生活が、やっと始まる。
「かあちゃん(高峰秀子)は子供の時から働いて働いて・・・。だから神様が可哀相だと思って、とうちゃん(松山善三)みたいな人に会わせてくれたんだね」
流しでサラダ菜を洗いながらそう言った高峰さんの笑顔が、幸せの意味を私に教えてくれた。
流しでサラダ菜を洗いながらそう言った高峰さんの笑顔が、幸せの意味を私に教えてくれた。
大邸宅をつぶし、2人のための小さな家に建て直す。家財道具の大半も処分した。
松山家でお昼に煮素麺をごちそうになった時。松山氏と私に、大きな朱の椀に入れたのを運んでくれて・・・いつまでも高峰さんの分を運んでくれる気配がない。・・・しばらくして松山氏が「はい」と、食べ終えた椀を高峰さんに押し出した。すると高峰さんは台所に戻り、その椀に自分の分を入れてきた。つまり、大きな朱の椀が二つしかないのだ。いや、二つだけにしたのだ。
―――人を尊敬する理由は?
「やっぱり、人として潔いことね」
「やっぱり、人として潔いことね」
―――一切昔話をしないのは、なぜですか?
「そんなもの、してどうなるの」
「そんなもの、してどうなるの」
ホテルの喫茶店でのインタビューを終えたあと。
高峰さんが小さく言った。「見てご覧なさい。みんな女よ」。・・・客は中高年の女性ばかりだった。・・・「家に帰って、本でも読め」、ポツリとそう言うと、高峰さんは出口に向かった。
高峰さんが小さく言った。「見てご覧なさい。みんな女よ」。・・・客は中高年の女性ばかりだった。・・・「家に帰って、本でも読め」、ポツリとそう言うと、高峰さんは出口に向かった。
昭和40年、故・市川昆監督の映画「東京オリンピック」に非難の嵐が巻き起こった時。高峰秀子は、たった一人援護射撃の論陣を張る。
市川昆は高峰に言う。
<あんたの場合は、いつも一本通っているもの。何をしてもあんたの個性をなくさないもの。そういうものはいつもきちんと出ているよ>
この春、高峰秀子は、八十五歳になる。
▽最近読んだ、その他の本
- 「ナニカアル」(桐野夏生著、新潮社刊)桐野 夏生
新潮社
売り上げランキング: 44113おすすめ度の平均:純粋に小説として楽しんだ
林芙美子に憑依する桐野夏生の妖しい魅力
頭で読み、本能で感じ、肉体に味あわせる力作
絶賛したいところですが
「ナニカアル」。なんだか、意味深長な表題の出所と思われる箇所が、冒頭のプロローグのなかに出てくる。
林芙美子のめいが、芙美子の死後、その夫と再婚。その夫も死去したのを機会に芙美子の遺品を整理していて、芙美子が残した1節の詩を見つける。
刈草の黄色なるまた
紅の畠野の花々
疲労と成熟と
なにかある・・・
浅学非才の身には、まったく意味不明だが、著者は「あれほどすごい小説を残した芙美子が、文壇で評判が悪すぎるのはなぜなのか」と考えたのが、執筆のきっかけだったと語っている。
史実を忠実に調べ、想像力を駆使したこの作品は、表題の魅力に見事に答えている。 芙美子の作品を読みたくなる。本棚から「放浪記」 と「浮雲」を引っ張りだした。 - 「頭の中身が漏れ出る日々」(北大路公子著、毎日新聞社刊)
「いたたまれない三十秒」という1項。午前8時のコンビニでビールを12本買う。周りの冷たい目・・・。レジで鞄から財布を出そうとして、注射器が飛び出した。糖尿病を患う飼い犬用だが・・・。石像のように固まりながら並び続ける。頭の中身が漏れ出る日々posted with amazlet at 10.06.29北大路 公子
毎日新聞社
売り上げランキング: 79309おすすめ度の平均:この文章構成能力は天才!
最高の女性、北大路公子。
著者は、北海道在住の40代、独身。両親と同居。趣味、昼酒。
あほらしくて、おもしろくて・・・。 - 「旅の絵本Ⅵ デンマーク編<アンデルセンの世界>」(安野光雅、福音館書店発行)
安野 光雅
福音館書店
売り上げランキング: 223442おすすめ度の平均:アンデルセン童話集もいっしょに!
今度の旅はデンマーク。
デンマークの街を訪ねて描いたメルヘンの世界に、アンデルセンの作品がいっぱいちりばめてある。
表紙と裏表紙には、馬に乗って走りながら小さなリングを槍で突き通す競技の絵。写真で見たことはあるが、実際の競技はどんな雰囲気なのだろう。
作者の旅の追っかけをしたくなる。
放浪記 (新潮文庫)
posted with amazlet at 10.06.29
林 芙美子
新潮社
売り上げランキング: 18020
新潮社
売り上げランキング: 18020
おすすめ度の平均:
やられたからっと明るいダダイズム
放浪の中にある人生
ある女性の生き様
極めて私的な視点から
林 芙美子
新潮社
売り上げランキング: 37120
新潮社
売り上げランキング: 37120
おすすめ度の平均:
男女の恋愛感の違い恋愛小説の傑作
消えた光