2011年2月アーカイブ: Masablog

2011年2月27日

読書日記「本は、これから」(池澤夏樹編、岩波新書)、「電子本をバカにするなかれ 書物史の第三の革命」(津野海太郎著、国書刊行会)


本は、これから (岩波新書)

岩波書店
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電子本をバカにするなかれ 書物史の第三の革命
津野 海太郎
国書刊行会
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▽「本は、これから」
 本とはいったいなになのか、これからどう変貌していくのか・・・。
 本の過去と未来について、書店、古書店、取次業者、装丁社、編集者、そして書き手や読み手の立場から30数人の人が語りつくしたエッセイ集。
 編者の池澤夏樹によると、集められた文章を要約すれば「それでも本は残るだろう」という結論になる。
 あるいはそこに「残ってほしい」や、「残すべきだ」や、「残すべく努力しよう」が付け加わる・・・。


 それにしても、色々な意見があるものだ。

 「記憶媒体としての電子書籍・・・、自分の頭を鍛えるための紙の本・・・という棲み分けができそう」(池内 了・総合研究大学院教授=宇宙物理学)

 「無機的に冷たく光る・・・iPadのマージン(余白)を見るたびに、密室に閉じ込められたような不安感を覚える」(桂川 潤・装丁家)

 「(電子書籍の)大きなポイントは老眼に対するホスピタリティで、文字の大きさと光度の、『痒いところに手が届く』感は半端ないですね」(菊池成孔・音楽家)

 「電子化を奇貨として、日本の書籍を何らかの程度に国際商品へと衣替えしようという出版人や著作者は現れないものか。・・・電子書籍こそ日本文化を発信し、日本の書籍の魅力や優秀性を売り込むための願ってもない武器であるはずだ」(紀田順一郎・評論家)

 「書籍は技術を売り物にする商品ではありませんよね。・・・それほど離れた位置にあったはずの書籍に先端技術がなんとか絡もうとしているのは、その先端技術とやらがすでに終盤に来ていう証です」(五味太郎・絵本作家)

 「本は、人が生きた証として永遠の時を刻む。紙か電子かは門構えの違い」(最相葉月・ノンフイクションライター)

 「もしこの時代に自分が学生だったら、出版社に入りたいと思う。だって、今なら何でもできそうだから。絶好調の業界に入っても面白くないでしょう・・・」(鈴木敏夫 ・スタジオジブリ代表取締役プロデユ―サー)

 「デジタル化は、本の『物質性』の消滅を意味すると思う。積極的には『物質性』の制約や束縛からの解放であり、消極的には『パッケージ』であった本の『枠』が外され、知識が情報化・断片化していく」(外岡秀俊・ジャ-ナリスト)

 「電子書籍は紙の世界かのコンテンツのほかに動画像、映像、音声、音楽など、紙の世界では表現できない新しいコンテンツが扱えるわけで、書籍までがマルチメディア情報の時代になってきた」(長尾 眞・国立国会図書館長)

 「メディアやデバイスが変わったからといって、読書行為に伴う何かはめったなことでは失われないし、・・・iPadによって黙読が"触読"に進んだだけのこと」(松岡正剛・編集工学研究所所長)

   ▽「電子本をバカにするなかれ」

 この表題から、IT関連業界人の電子書籍礼讃本だと思ったが、まったくの勘違いだった。

 津野氏は、編集者として「紙に印刷された本」(著者いわく、書物史の第二の革命の本)の側に立ちながら、同時に季刊・本とコンピューター(すでに廃刊)の総合編集長として、本とコンピューターの関係について思考を重ねてきた人らしい。

 著者は「いま(二〇一〇年夏)、これから本の世界に生じるであろうことを・・・四つの段階にわけて考えている」と書く。
(第一段階)好むと好まざるとにかかわらず、新旧の書物の網羅的な電子化が不可避に進行していく。
 (第二段階)その過程で、出版や読書や教育や研究や図書館の世界に、伝統的なかたちの書物には望みようのなかった新しい力がもたらされる。
 (第三段階)と同時に、コンピューターによってでは達成されえないこと、つまり電子化がすべてではないということが徐々に明白になる。その結果、「紙と印刷の本」のもつ力が再発見される。
 (第四段階)こうして、「紙と印刷の本」と「電子の本」との危機をはらんだ共存のしくみみが、私たちの生活習慣のうちにゆっくりもたらされる・・・。


 それでは、従来の出版業界はどうなっていくのか。
 けっきょく、旧来の出版産業はインターネットのそとで、これまでどおりの紙の本の世界にとどまりつづける。・・・
 ただし、それでは従来の経済規模を維持することはできない。したがって戦線を徐々に縮小していくしかない。


 もう門外漢だが、同じことが大量の発行部数にこだわり続ける新聞業界にも当てはまりそうだ。

 そして、これからの「まだ見えていない新しい出版ビジネスをになう」のは、(現在の伝統的な出版モデル)を知らない「いま保育園や幼稚園にかよっている子どもたちからあとの人たち」だという。

 単なる「本、大好き」人間にとっても、なかなかエクサイティングな未来予想である。

 ▽日本一の本屋・周遊記
 大阪・茶屋町にオープンした日本一の本屋と評判の「MARUZEN&ジュンク堂書店 梅田店」に、2月の初めに行ってみた。広さ約6800平方㍍、在庫200万冊を誇るという。

 地下1階のコミックを除いて、1階から7階までくまなく歩いた(もちろんエスカレーターを使って)。

 各フロワーでフエアをやっており、話題本を集めたコーナーがあり、書架も細かいジャンルに分かれている。
 例えば、2階では「大阪出身作家」のフエアが開かれ、「いい話」「皇室」「シルバエッセイ」「闘病記」「ケータイ小説」「乙女本」などのコーナーがあり、新刊の新書本を集めた「新書ナビ」コーナーも、食文化、西洋哲学、就活などに分かれている。

 とにかく楽しい。博覧会会場かディズニーランドに行った気分で、思わず衝動買いをしてしまった。

 ところが・・・。

数日前のNHK「週間ブックレビュー」で紹介されていた、ある画家の画集兼随筆をどうしても見たかった。検索コーナーにいる若い女性からベテランらしい男性に替わり、絵画コーナー担当者も出てきたが見つからない。

 あきらめて帰り、自宅でAMAZONを開いたらすぐに購入できた。ただし「届くのは月末」という表示。どうも版元で在庫切れだったようだ。

 日曜日の各紙に掲載される「読書特集」だけでなく、「週間ブックレビュー」の情報ぐらいは、書店全体でどうして共有できないのか。
 失礼ながらジュンク堂の店員は、このような情報に他の大型書店員以上にうといように感じるのは、私だけだろうか。

 リアルな書店がネットショップにぶざまに負けていく様子はできれば見たくないだが・・・。

2011年2月14日

読書日記「それでも、日本人は『戦争』を選んだ」(加藤陽子著、朝日出版社)

それでも、日本人は「戦争」を選んだ
加藤 陽子
朝日出版社
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 歴史学者の加藤陽子・東大文学部教授が、鎌倉・栄光学園の歴史研究部の中高生20人弱を対象にした5日間の講義をまとめた本。教授は、世界大不況から始まる1930年代の外交と軍事が専門、という。
 なんどか図書館で借りながら返却期限が来てしまっていたが、3度目の正直でやっと読み終えた。加藤先生の視点も"目から鱗"だったが、中高校生とのやりとりもすこぶるおもしろい。

 最終5章の「太平洋戦争」から読み始めた。

 このブログでも、この戦争に昭和天皇がどうかかわったかについて書かれた本についてふれた。
 加藤教授によると、この戦争に踏み切るかどうかのポイントは「英米相手の武力戦は可能なのか、この点を怖れて開戦に後ろ向きになる天皇」を、軍首脳がどう説得できるかにかかっていた。

 そこで軍が持ち出したのが、なんと大坂冬の陣だった。
 永野修身軍司令部総長は、1941年9月6日の御前会議でこういった。

 避けうる戦を是非とも戦わなければならぬという次第では御座いませぬ。同様にまた、大坂冬の陣のごとき、平和を得て翌年の夏には手も足も出ぬような、不利なる情勢のもとに再び戦わなければならぬ事態に立到(たちいた)らしめることは皇国百年の大計のため執るべきにあらずと存ぜられる次第で御座います。


 「このような歴史的な話しをされると、天皇もついぐらりとする。アメリカとしている外交交渉で日本は騙されているのではないかと不安になって、軍の判断にだんだん近づいてゆく」
 「戦争への道を一つひとつ確認してみると、どうしてこのような重要な決定がやすやすと行われてしまったのだろうと思われる瞬間があります」

 4章「満州事変と日中戦争」では、新聞写真などでよく見る国際連盟脱退を宣言退場していった松岡洋右全権のイメージが変わる事実が明らかになる。実は松岡全権が脱退に反対、強硬姿勢を改めるよう首相に具申していた電報が紹介されているのだ。

 申し上げるまでもなく、物は八分目にてこらゆるがよし。いささかの引きかかりを残さず奇麗さっぱり連盟をして手を引かしむるというがごとき、望みえざることは、我政府内におかれても最初よりご承知のはずなり。・・・一曲折に引きかかりて、ついに脱退のやむなきにいたるがごときは、遺憾ながらあえてこれをとらず、国家の前途を思い、この際、率直に意見具申す。


 ところが、陸軍が満州国で陸軍が軍隊を侵攻させたことが国際連盟の規約に違反、世界を敵に回すことが分かり、日本は除名されるよりはと、脱退せざるをえなくなってしまう。

 これも「目から鱗」。日中戦争が始まる直前の1935年に「日本切腹、中国介錯(かいしゃく論)を唱えた中国の学者が紹介されている。北京大学教授で、1938年に駐米国大使になった胡適だ。

「(日中の紛争に)アメリカやソビエトを巻き込むには、中国が日本との戦争をまずは正面から引きうけて負け続けることだ。・・・その結果、ソ連がつけこむ機会が生まれ、英米も自らの権益を守るため軍艦を太平洋に派遣してくる」
 以上のような状況に至ってからはじめて太平洋での世界戦争の実現を促進できる。したがって我々は、三、四年の間は他国参戦なしの単独の苦戦を覚悟しなければならない。日本の武士は切腹を自殺の方法とするが、その実行には介錯人が必要である。今日、日本は全民族切腹の道を歩いている。


 「歴史の流れを正確に言い当てている文章」を聞いた栄光学園の受講生たちも、一斉に「すごい・・・。」

 これには続きがある。あの南京・傀儡政権の主席だった汪(おう)兆銘が、35年に胡適と論争しているのだ。
 「『胡適のいうことはよくわかる。けれども、そのように三年、四年にわたる激しい戦争を日本とやっている間に、中国はソビエト化してしまう』と反論します。この汪兆銘の怖れ、将来への予測も、見事あたっているでしょう?」

 第2の章の「日露戦争」では、この戦争の「なにが新しかったか」について、ロシア側で若き将校として戦ったスヴェーチンという戦略家の著書を慶応大学の横手 慎二教授の研究成果として紹介している。

 日本の計画の核心は、異なるカテゴリーの軍、つまり陸軍と海軍を協調させることに向けられていた。この協調によって、なによりも、大陸戦略の基本となす、軍の力の同時的利用という考えを拒否することになった。日本軍の展開は同時的なものではなく、階梯(かいてい)的で、陸と海の協調を本質とするものであった。


 旅順の攻防戦で、日本陸軍の第三軍司令官だった乃木希助に、海軍秋山真之(さねゆき)は毎日のように手紙を送り、頼み込んだ。

 実に二〇三高地の占領いかんは大局より打算して、帝国の存亡に関し候(そうら)えば、ぜひぜひ決行を望む。[中略]旅順の攻防に四、五万の勇士を損するも、さほど大いなる犠牲にあらず。彼我(ひが)ともに国家存亡の関するところなればなり。


 のべで十三万人いた第三軍は戦死者が七割にのぼる大損害を受け「結局、秋山の願いとおり、・・・日本海海戦に間に合わせることができた」

 「序章」で加藤教授はまず、2001年に9・11事件と、日中戦争開始後の1938年に近衛文麿首相が出した「国民政府を対手(あいて)とせず」という声明には共通点がある、と切り出す。

 「9・11の場合におけるアメリカの感覚は、戦争の相手を打ち負かすという感覚よりは、国内社会の法を犯した邪悪な犯罪者を取り締まる、というスタンスだったように思います」
 「日中戦争期の日本が、これは戦争ではないとして、戦いの相手を認めない感覚を持っていた」

 「時代も背景も異なる二つの戦争をくらべることで、三〇年代の日本、現代のアメリカという、一見、全く異なるはずの国家に共通する底の部分が見えてくる。歴史の面白さの真髄は、このような比較と相対化にあるといえます」

 ウーン、確かにおもしろい!

 ▽最近読んだその他の本
  • 「錨を上げよ 上・下」(百田尚樹著、講談社)
     上、下巻合わせて1200ページという膨大な本を飛ばし読みした。著者の本を、このブログでふれるのは5冊目(「永遠の0」  「聖夜の贈り物」(文庫化で「輝く夜」に改題)  「影法師」  「ボックス」)にもなったが「永遠の0」以外は、なんとなく図書館で目の前にあったものばかり。
     この本、なんと「幻の小説第1作がベース」(2010年11月30日付け読売夕刊)だという。駆け出し時代に書いたが、思いもよらない長編になってしまい「ベストセラー作家にでもならんと発表できんな」と屋根裏にしまいこんで忘れていたらしい。道理で、他の著作に比べて作風が違う。
     自伝風青春小説なのだが、とにかくなんでもあり。ガキ大将が、落ちこぼれの高校に入って初恋をしてふられ、発奮して関西学院大学に入るが、嫌気がさして中退して東京へ。やくざの下働きから逃げ出して、根室で密漁船の船長に。放送作家として幸せな結婚をするものの、妻の不倫で離婚、女性を日本に送り込む仕事を頼まれタイに渡るが、麻薬売買に巻き込まれそうになり、ほうほうのていで大阪へ・・・。
     とにかく、主人公の限りないエネルギーと、女性にほれっぽい真剣さに感服。今年の本屋大賞の候補になったようだが、さて?
    錨を上げよ(上) (100周年書き下ろし)
    百田 尚樹
    講談社
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  • 「パタゴニアを行く――世界でもっとも美しい大地」(野村哲也著、中公新書)
      「BOOK」データベースから、この本の紹介を引用する。
     パタゴニアは、南米大陸の南緯40年以南、アンデス山脈が南氷洋に沈むホーン岬までを含む広大な地だ。豊かな森と輝く湖水が美しい北部、天を突き破らんばかりの奇峰がそびえ、蒼き氷河に彩られる南部、そして一年中強風が吹き荒れる地の果てフエゴ島...。変化に富む自然に魅せられて移住した 写真家が、鋭鋒パイネやフィッツロイ、バルデス半島のクジラ、四季の花や味覚、そして人々の素朴な暮らしを余すところなく紹介する。

     パタゴニアについては「パタゴニア あるいは風とタンポポの物語」(椎名誠著、集英社文庫) でも少しは知っていたが、これほど多くの自然がそろっている土地であるとは。
     「行きたい」「この年で・・・」。そんな思いが消えては浮かんでいくなかで繰っていくページにあふれるカラー写真がすばらしかった。
    カラー版 パタゴニアを行く―世界でもっとも美しい大地 (中公新書)
    野村 哲也
    中央公論新社
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