2008年8月14日

隠居の読書:「我らいかに死すべきか」(松田道雄)

 『知的生産の技術』→「梅棹忠夫」→『京都案内』→『京の町かどから』『花洛』「松田道雄」のハイパーリンクで、この本に行き当たった。

 この歳になると、そろそろ本の題名『我らいかに死すべきか』は気になって仕方がない。だが、この本の中身は題名のような本ではない。
 私が求めた平凡社ライブラリーのこの本は、松田道雄が1998年に90歳で亡くなったあとの 2001年3月に出版されている。あとがきにかえて書かれている「ひとりごとノート」には、この原稿は『暮しの手帖』の安森さんに頼まれて『暮しの手帖』に10回にわたって、「何とかについて」という命題で書いたらしい。

 ネットで調べてみると、1971年に『暮しの手帖』社から、10回分をまとめた題名『我らいかに死すべきか』という本で出版されている。題名は『暮しの手帖』社がつけたらしい。
 松田は、1967年(59歳)に小児科の診療を辞め、執筆・評論活動に専念しているから、その頃に、この原稿を書いたのではないかと思われる。だから、晩年の作品ではない。

 この10回分の「何とか」は、次のようなものである。
  1. 恋愛について
  2. 夫婦について
  3. 共ばたらきについて
  4. 親子について
  5. 一夫一婦について
  6. 育児について
  7. 教育について
  8. 道徳について
  9. 健康について
  10. 晩年について

 読んでみると、この本は「我らいかに生きるべきか」という松田道雄の「人間論」なのだ。個々の章で自分の生き様をもう少し深く考えてみたいと気持ちになる文章が続いている。

 第8章までの「何かについて」への人間論は、「うん、うん、そのとおり」と思うが、私にとってはそれを実践するにはもう過ぎ去った人生の話である。子育てや生活することに一生懸命な子供達には読んで欲しいものだが。 

 「健康について」の章をメタボの定期受診の順番を待ちながら読んだ。その冒頭に、次のような文章がある。
 健康とは自分の日常生活をやっていくのに十分な身体の機能である。
 これで十分かどうかは、自分できめることである。健康をこのように自主的にかんがえることができるようになったのは、さいきんのことである。人間が他人にしばられていては、自分で健康はきめられない。
 現実は、その人が健康であるかどうかは、企業が政府ぐるみできめている。私のメタボリック症候群は、企業の健康診断で判定された。確かに、血糖値は高いし、血圧も高い。企業にとっては、企業を動かしているひとつの部品が突然脳梗塞でも起こし用に立たなくなったりすれば、少しは損失かもしれないし、その治療のために健康保険で負担もしなくてはならない。企業が私の健康かどうかの決定権を持っていたのだ。
 自由な身になったいま、自分の健康については、「日常生活を十分にやっていける」のかを視点に判断していきたいと思う。血圧がWHO の診断基準のどこにあるかを一喜一憂しても仕方がない。

 第10章「晩年について」を読んで、近づきつつある自分の晩年のために、いまの生活をいかに生きるべきかかんがえた。
 晩年とは死とむきあう年である。それは本人の心がまえにかんするもので、生理的年齢とは無関係である。
 死とむきあってたじろがぬためには、現世への未練をなるべく少なくすることだ。人間とのつながりがつよいほど未練がのこる。連帯を少なくすることは、それだけ孤独になることである。晩年とは孤独に耐える年だともいえる。孤独に耐えるには、人間ではなしに、人間のつくったものだけを愛するすべを心得るにこしたことはない。
 
 晩年はたのしい収穫の季節である。けれども、まかぬ種は生えない。
 晩年を荒涼の砂漠にしないためには、それまでに、ひたいに汗して耕し、種をまき、雑草をとりのぞかねばならない。
(中略)
 年をとってからたのしむことのできるものを、年をとるまえに用意することである。それは高尚である必要はない。だが、低俗なものは、年をとるにしたがって、興味のそとに抜け出してしまう。
 そのあとに、味覚、聴覚、視覚のそれぞれに年をとるまえに用意することの例を挙げたりしている。我が意を得たりである。
 五木寛之のいう『林住期』にも同じようなことが書いてある。現世への未練を少なくするように、林住期を楽しみたいと思う。

   
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