2007年11月18日

定年日和

 土曜日の我が家といっても老夫婦二人の夕食の話題は、きまって「今日の 『定年日和』」 読んだ?」から始まる。毎日新聞の毎週土曜日夕刊の5面[「セカンドステージ」と題するページに、小川有里さんというエッセイスト(小説家)が書いている「定年日和」というコラムがある。小川さんは Wikipedia によるともう 60歳は越えておられるらしいが、このエッセイ、どうも我が家の生活を覗いて書いておられるのではないかと思われるぐらい話題が似ている。
 昨日のエッセイ「妻を手本に『肩の力を抜いて遊ぼうよ』」は、メタボ治療を受けているのにパソコンの前ばかり座って運動不足の私を見かねた妻の指示に従ってメディカル・フイットネス倶楽部に通い始めた私にとっては、かなり耳の痛い話であった。いささか長いが引用させてもらうことにした。
 街で古い知人に行き会った。
 「うちも今年定年になったのよぉ。ええ、家にいる。今日は病院に行ってるけど。」
 「具合が悪いんですか?」
 知人はカラカラと笑った。
 「男ってなんでもすぐ必死にやるでしょ。夫はね、最近水泳を始めたのはいいけど、クロールの練習を毎日熱心にやりすぎて首のスジを痛めたのよ。ほら、息継ぎで首をくいっと横向けるでしょ」
 笑ってはいけないが、笑ってしまった。
 ある妻も苦笑する。
 「夫は『これからは思いきり練習できる』と庭にネットを張って毎日延々とゴルフのクラブを振っていた。とうとう手のスジを痛めて病院通い。友人よりうまくなりたい一心でしょうけどね」
 私がときどき行くジムでも定年後おじさんたちは真剣な顔でうなり声をあげながらトレーニングマシンと格闘している。
 また、遠方に住む知人(男性)は定年後も毎年必ず年賀状に「昨年は〇〇巡り 100 を達成、今年は△△巡り100を目標にがんばります。そのほかに」 あれもこれもやっている、と書いてくる。
 妻たちは違う。遊びも運動も無理をしない。私などジムでも知人に会うと「あら、しばらく」と、体より口の運動に切り換えてしまう。友人たちとどこかへ出かけても観光より休憩のほうが多い。「必死」とはほど遠い。
 どうも定年後の夫は仕事の代わりに何かに打ち込みたがる。「打ち込み症候群」である。その結果、体を痛めたり、効果が出ないとすぐに「やーめた」となる。ちなみに先の知人、過労でしばらく療養していたと聞く。「100」のノルマ達成ストレスが原因らしい。
 定年後は気楽に。妻たちを見習って、肩の力を抜いて遊びましょうよ。 

 私も、仕事の代わりではないが「打ち込み症候群」の自覚症状がある。なんにでも、フロー(夢中)な状況に陥りやすい。妻はこのエッセイ・シリーズを読ませて、家庭内論争を少なくしたいらしい。夫側から、夫の理屈を書くエッセイストが出てこないかと期待しているのであるが。まあ、隠居生活をゆったりと楽しみたいものである。
定年ちいぱっぱ―二人はツライよ
小川 有里
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