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2009年6月13日

隠居の読書:世界文学「食」紀行

世界文学「食」紀行 (講談社文芸文庫)
篠田 一士
講談社
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 もうだいぶ前になるが、毎日新聞の書評欄に、篠田一士さんという文学者が書いた『世界文学「食」紀行』という本が紹介されていた。この本は世界文学に出てくる「食」に関する文章をもとに、巨漢・食漢である著者が、一題ごとを文庫見開き二頁分にまとめている。

 内容が面白いのと少しの時間があればちょっとずつ読むことができるので文庫本にしては少し高いが楽しんだ。
 もともと Masajii さんのように読書家ではないので、引用されている文学作品は数えるほどしか読んだことはない。

 本の目次は次のようになっている。
  1.  舌代・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・まえがきみたいなもの
  2.  Ⅰ 食卓につく前に・・・・・・・・・・参照 10 文学作品
  3.  Ⅱ ご馳走のメニュー・・・・・・・・参照 23 文学作品
  4.  Ⅲ お酒は吟味して・・・・・・・・・参照 12 文学作品
  5.  Ⅳ まず前菜から・・・・・・・・・・・参照 13 文学作品
  6.  Ⅴ スープいろいろ・・・・・・・・・・参照 8 文学作品
  7.  Ⅵ 海の魚・川の魚・・・・・・・・・・参照 24 文学作品
  8.  Ⅶ 肉料理から架空料理まで・・参照 26 文学作品
  9.  Ⅷ デザートの一品・・・・・・・・・・参照 24 文学作品
  10. 解説


  11.  篠田さんという人は、ものすごい読書家で通っているらしい。世界の文学作品を、多くは原語で読んでおられるらしい。そうだろうと思う。 丸谷才一という作家が解説に書いているのを読むと、篠田一士は「文学と食事」が二大嗜好だったらしいから、食に関する叙述の部分については、よく記憶していたにちがいないと思う。

      Ⅱ ご馳走のメニューに、「大政奉還の祝宴」という一項がある。「夜明け前」は少し前に読んだところだ。妙に記憶に残っている部分だ。酒の肴には弱い。
     少し、引用してみると、次のような叙述になっている。

     ところで、この小説には、しばしば食べ物の話、あるいは酒食の情景がでてくる。おおむねは山国の食べ物だから、豪華な御馳走には縁遠いけれども、作者の筆づかいのみごとさには、思わずのどを鳴らさせるものがあって、謹直な藤村も案外とデリケートな味覚の持ち主でではなかったかと、あらためて感心する。
     『夜明け前』の第一部の終わりに、主人公の半蔵と同志の香蔵たちが、馬籠と中津川の国境の峠の茶屋で落ち合い、京都からの情報で、大政奉還という新しい事件を知り、念願の王政復古がようやく実現しょうとしていることに胸をときめかしながら、祝いの酒食をともにするくだりがある。

     やがて、亭主が炉にかけた鍋からは、甘さうに煮える串魚のにほひもして来た。半歳等が温めて貰った酒もそこへ来た。時刻にはまだすこし早い頃から、新茶屋の炉ばたでは嘗め味噌ぐらゐを酒のさかなに、盃の遣取りが始まった。
     『旦那』と亭主はそこへ顔を出して、『この辺をよく通る旅の商人が塩烏賊をかついで来て、吾家へもすこし置いて行った。あれはどうだなし。』
    『や、そいつはありがたいぞ。』と半歳は好物の名を聞きつけたやうに。
    『塩烏賊のおろしあへと来ては、こたへられない。酒の肴に何よりだ。』と香蔵も調子を合せる。
    『今に豆腐の汁も出来ます。ゆつくり召上って下さい。』とまた亭主が言ふ


     もうひとつ引用したい。Ⅵ 海の魚・川の魚の一遍である。『秋刀魚の歌』の一部は秋になるとよく聞くフレーズだが、このように解釈して読めば面白い。
    秋刀魚(さんま)----------------------------------佐藤春夫『秋刀魚の歌』

     近代文学のなかに唱われた、最もポピュラーな魚がさんまだと言ったら、けげんな思いをする向きもあるかもしれないが、佐藤春夫(1892~1964)の詩篇『秋刀魚の歌』を挙げれば、大方の納得をえるだろう。

      あはれ
      秋風よ
      情あらば伝へてよ
      --男ありて
      今日の夕餉に ひとり
      さんまを食らひて
      思ひにふける と。

      さんま、さんま、
      そが上に青き蜜柑の酸()をしたたらせて
      さんまを食ふはその男がふる里のならひなり。
      そのならひをあやしみなつかしみて 女は
      いくたびか青き蜜柑をもぎて夕餉にむかひけむ。
      あはれ、人に棄てられんとする人妻と
      妻にそむかれたる男と食卓にむかへば、
      愛うすき父を有()ちし女の児は
      小さき箸をあやつりなやみつつ
      父ならぬ男にさんまの腸(はら)をくれむと言ふにあらずや。


     不幸な運命を、それぞれ背負った三人の男女と、ひとによっては下魚と卑しめるさんまの鄙びた味わいが絶妙にからみ合って、一世一代の名篇を成したのがこの作品である。そこに詩人の私生活における劇的な事件が、どのように投影しているかなどといった事柄を詮索するのは、無意味とはいわないが、作品を味わううえでは、あまり益があるとも思えない。最も有名な最後の連はこうである。

      さんま、さんま
      さんま苦(にが)いか塩つばいか
      そが上に熱き涙をしたたらせて
      さんまを食ふはいづこの里のならひぞや。
      あはれ
      げにそは問はまほしくをかし。


     この秋刀魚の歌の解釈は分かったようでよく分からない。とくに最後の一行は難解だ。ネットサーチすると Goo! に Q&A があった。Web2.0 の世界になって、分からないことはなんでもすぐに調べられるが、読書の世界はなくならないだろう。かえって、興味ある世界が広がって読書の時間が増えているかもしれない。
     今回も「食」に関して紹介されている本を何冊か読みたくなっている。

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